1. トップ
  2. レシピ
  3. シェフが野菜を育てる温泉オーベルジュ。伊豆〈bekka izu〉

シェフが野菜を育てる温泉オーベルジュ。伊豆〈bekka izu〉

  • 2024.7.24
〈bekka izu〉の館内や提供される料理

一棟の家をまるごと、さあどうぞと渡される。美しい建物だ。そこにはなみなみと湛えられた温泉が用意され、リビングにはフリーフローのミニバー、寝室には寝心地のいいベッド。

そしてキッチンにはドイツ帰りの料理人。シェフは1日1組のゲストのために、日々畑に立ち、自然栽培で野菜を育ててもいるのである。なんという贅沢だろう。

畑作業をする〈bekka izu〉シェフの大塚一樹さん
〈bekka izu〉シェフの大塚一樹さん。

〈bekka izu〉は、伊豆高原の閑静な別荘地に立つ一軒家、一棟貸しの温泉オーベルジュである。宇建築設計事務所(SORA ARCHITECTS)による建物は、背後に望む大室山のなだらかな稜線に沿うような屋根の形、日本の木材を多用した質感が土地と馴染み、なんだかほっとする。

「この辺りは、星を見に来られるエリアなんですよ」

到着すると、シェフの大塚一樹さんとマネージャーの大塚愛子さんが出迎え、教えてくれた。

収穫した茄子、新じゃが、ラディッシュ、青唐辛子、にんじんの花
茄子、新じゃが、ラディッシュ、青唐辛子、にんじんの花も食べられる。基本的な野菜のほかに、ジャンボニンニク、エディブルフラワー(食用花)も。
トマト
取材時はもうすぐトマトの季節。とうもろこしやゴーヤ、ピーマンは盛りだった。化学肥料は使わず、稲藁や落ち葉、刈り取った草を土に還したり、一部の野菜には伊豆大豆のおからやオーガニックコーヒーのかすを肥料に。
畑に立つ、bekka izuシェフの大塚一樹さん。
現在は休火山だが、かつて大室山の噴火がつくった火山灰地質。シェフが一部の竹や笹を刈り取って開墾し、500坪の畑になった。

夫妻は昨年、10年近く暮らしたドイツから帰国したばかりだ。デュッセルドルフのホテルでレストランの料理長を務めていた一樹さんと、コンシェルジュだった愛子さん。

いわば料理と宿のプロフェッショナルが結婚したわけで、二人の夢が「オーベルジュ」に設定されたのは、必然だったのかもしれない。しかも彼らだから叶えられる、高い水準で。

「僕らは人を“もてなす”ことがしたいと。料理だけでなく、ディナーの切り取られた時間だけでもない、それを総合的にできるのはオーベルジュだと考えました」

〈bekka izu〉館内の温泉
天然温泉は24時間、いつでも入り放題の源泉かけ流し。大きな窓から日が差し込んで気持ちがいい。オーガニックのアメニティ、タオル、ドライヤーはダイソン。
〈bekka izu〉館内のリビング
吹き抜けで開放感溢れる1階のラウンジスペース。タブレットで音楽アプリにつなげ、自分のトラックを再生可能。
〈bekka izu〉館内のミニバー
自由に使えるミニバー。ラム、テキーラといった洋酒がひと通り揃い、自分好みのカクテルが作れる。エスプレッソマシン、スロージューサーも完備。
〈bekka izu〉館内の客室
寝室は1階と2階の2部屋(写真は2階の琉球畳が敷かれた部屋)。睡眠の質を追求した寝具、山梨〈Watanabe Textile〉のルームウエアは肌ざわり抜群。

BIO大国のドイツで鍛えられた二人だから、館内で触れるものはすべてにおいてセンスよく、環境への配慮が利いている。

オーガニックのアメニティはもちろん、糸から選定した天然素材のルームウエア、伊豆の森で採取した黒文字のアロマオイル、日本の木工作家による家具。部屋の冷蔵庫には天城の深層水が冷え、地元のみかんを搾るのはスロージューサー。

自宅でもオーガニックを選ぶ私たちにとって、これらはリラックスのためにとても重要だ。早めにチェック・インしたら、一回温泉。ハイボールでも作って昼飲みしながら、あちこちに置かれた本をつまみ食いするみたいに読んだり、お昼寝もいい。

〈bekka izu〉シェフの大塚一樹さんの料理
朝夕の食事は、地元のクスノキによる重厚なカウンターで、シェフを目の前にしていただく贅沢。取材時の6月は梅雨シーズンで、苔をイメージした折敷だった。
〈bekka izu〉シェフの大塚一樹さん
シェフの大塚一樹さんは京都出身。22歳からドイツ、フランスで和食とフランス料理を経験。一時帰国して食肉処理場でも学び、再びドイツへ。一つ星のフランス料理店〈Restaurant Le Flair〉でスーシェフを務めた後、27 歳で〈ホテルニッコーデュッセルドルフ〉のレストラン料理長に就任した。
〈bekka izu〉シェフの大塚一樹さんの包丁
まるで刀のような包丁は、狩猟や林業の道具から料理人の包丁まで手がけ、世界に顧客を持つ鳥取の〈大塚刃物鍛冶〉製。手の大きさ、握力などが計算されたオーダーメイド。

そうして迎えるクライマックス、ディナーの時間。シェフを独占するカウンターに着くと、現れるのは、めくるめくイノベーティブな皿の数々だ。

蕪とトンカ豆、葉の雫が畑の緑や雨を思わせる詩的なポタージュ。伊豆牛は牡蠣のタルタルに合わせて赤身の甘味を引き上げ、伊豆鹿はイタリアの詰め物パスタ「アニョロッティ」に忍ばせたヤギのチーズと、シルキーな食感でつながる。

伊豆の漁港に揚がった金目鯛には、天日干しで旨味の凝縮した山の茸、それらをつなぐ西京味噌。静岡県産牛のサーロインは、修善寺の古代米と伊豆大島の白バターのリゾットで野性味とエレガンスを。
ワインはフランスもあるけれど、今注目のドイツから、愛子さんにペアリングをお願いして大正解だった。

お茶のためのおつまみ
食前酒ならぬ、京都〈売茶中村〉による手揉み茶「きらり31」から始まるディナー。お茶のためのおつまみは、石庭の玉砂利に見立てた備長炭とスパイスのカシューナッツ、コンテチーズのグジェール、アンチョビクリーム、その上にアニスチップスの葉がひらり。
冷製ポタージュ
香りも格別な畑の蕪は、まるごと冷製ポタージュに仕立て、コクのあるトンカ豆のクリームと。葉のオイルが清々しい。
鹿肉のロースト
天城で獲れる伊豆鹿を、低温でしっとりと火入れした後、サッと焼き上げたトースト。フォンに旬の実山椒を合わせたソース、新じゃがのエスプーマと。添えたアニョロッティの中は新玉ねぎやヤギのチーズ。畑の野菜が彩る。
マンゴーのソルベ
三島で育ったマンゴーのソルベ。完熟のねっとりとした甘みに、クローブなどスパイスのシロップに漬けたきゅうりやセロリ、青りんごの青い香りが爽やかな余韻を残す。

まさに、「ご馳走」だ。彼の料理は、種を撒くところから始まっている。農薬や化学肥料を使わず、微生物が健やかに働く畑。少量ずつ、多くの野菜を混植することで、植物は土の中に張った根から、お互いに栄養分を補い合い共生する。

そんな畑の世界では、虫に食われた葉も、まだ青くて小さな実も、雨上がりの土の匂いもインスピレーションの源泉だ。

〈bekka izu〉で提供される朝食
和食と洋食から選べる朝食。和食は地元の鮮魚(この日は鯛)のしゃぶしゃぶをメインに、3種の刺身、畑野菜の天ぷら、煮物や出汁巻き玉子ほか。冷奴は「マキノ豆腐店」の、伊豆大豆と伊豆大島のにがりによる寄せ豆腐。伊豆高原の「五つ星お米マイスター」がセレクトする米を土鍋で炊き、伊豆大豆の味噌汁は季節の野菜を具に。
〈bekka izu〉で提供される朝食
洋食はドイツスタイル。こちらのメインは、現地でも茹で汁ごと供される南ドイツの伝統的白ソーセージ、ヴァイスヴルスト。ドイツスタイルのハムやパテなどは、函南(かんなみ)の「グリム」、ドイツパンは伊豆の「ベケライ・ダンケ」から。卵料理は平飼いで育つ地元の鶏、アローカナや下田ブルーの卵で作られる。

さらにこの伊豆高原には、山も海もある。シェフは早朝から港へ車を走らせ、定置網漁で捕れた地魚を仕入れに行き、豆腐や加工肉、ドイツパン、コーヒーは地元の専門店へ。そうして漁師や職人らと顔を合わせ、土地を知り人を知ってつくる料理だ。

都心のレストランならばドレスアップして臨むコースが、ここでは湯上がりの部屋着で可能、という背徳感に似た贅沢感。

でも、誰に遠慮することもないのだ。なにせゲストは私たちしかいないのだから。ゆっくり、のびのびと過ごしながら、自分たちだけのために注がれる“もてなし”を享受する。たしかにこれは、ホスピタリティの完成形だ。

bekka izu シェフの大塚一樹さんとマネージャーの大塚愛子さん

Information

bekka izuの外観

bekka izu(ベッカ イズ)

1日1組(5名まで)。2024年9月末までグランドオープン価格1泊2食つき100,000円~(2名までの1棟料金)。10月以降は通常料金1名100,000円~。
源泉かけ流し。泉質:ナトリウム・カルシウムー塩化物・硫酸塩泉低張性・弱アルカリ性・高温泉
源泉温度:66.5℃

住所:静岡県伊東市池字中野614-126
TEL:050-1871-0196

元記事で読む
の記事をもっとみる