1. トップ
  2. ファッション
  3. 人間の髪の毛がファッションの未来を変える? 次なるサステナブル素材を追求する海外デザイナーたち

人間の髪の毛がファッションの未来を変える? 次なるサステナブル素材を追求する海外デザイナーたち

  • 2024.7.23
人間の髪の毛から作られたハビエラ・デキャップのピースたち。
Generated Image人間の髪の毛から作られたハビエラ・デキャップのピースたち。

ファッションのあり方をより持続可能なものにするために、キノコ由来のレザーから海藻を原料にした糸まで、さまざまな代替素材が市場に出回るようになった。中でも業界の未来を大きく変えるかもしれない意外な素材が「人毛」だ。

実際に人毛を作品に用いているデザイナーのひとり、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの修士課程で学ぶハビエラ・デキャップは、人間の髪の毛が母国ノルウェーの長毛の羊の毛と似ていることに気づき、素材として興味を持ち始めたという。「(実家の)お隣さんが農家なんです。袋詰めされた羊毛が何トンもあって、少し使わせてもらえないかと聞きました。人の髪の毛に似ていたので、どうしてもこのウールが使いたかったんです」とデキャップは『VOGUE』に語る。イギリスに持って帰ってきたそのウールがあまりにも人の髪に似ていたため、本物の人毛を使ってはどうか、と大学の講師から提案されたそうだ。

ディラーラ フィンディコグルー 2023年春夏コレクションより。
ディラーラ フィンディコグルー 2023年春夏コレクションより。
ディラーラ フィンディコグルー 2023年春夏コレクションより。
ディラーラ フィンディコグルー 2023年春夏コレクションより。

ディラーラ フィンディコグルー(DILARA FINDIKOGLU)のように、過去に人毛を取り入れた作品を発表したデザイナーはいるにはいるが、デキャップのアプローチは、髪をほかの繊維とほとんど同じように扱うという点で異なる。「手に入る髪の毛の多くは、すでにブリーチなどあらゆる施術を受けているので、かなり乾燥しているんです」と説明するデキャップは、通常は捨てられてしまう毛くずをサロンから譲ってもらい、トリートメントを施し、コンディショナーで洗浄してからストレートにする。その後、ニードルフェルトでノルウェー産の羊毛と交絡させ、自身の髪にも使用しているセミパーマネントヘアカラーとパーマネントヘアカラーで染める。

人間の髪の毛から作られたヒューマン・マテリアル・ループの繊維から用いたニットドレス。
人間の髪の毛から作られたヒューマン・マテリアル・ループの繊維から用いたニットドレス。

そうして出来上がるのが、人毛が混じっているとは決してわからない、フェルトのドレスや毛足の長いスカートだ。実際、人の髪から作られていると知った瞬間、気味悪がり、服を触りたがらない人もいると話すデキャップは、自身の作品に対するまちまちな反応を興味深く受け止めている。「使っているウールよりも人間の髪の毛の方がしっかり加工されているので、不思議ですよね」

ただの廃棄物から新しい資源へ

なぜ、人は人毛に嫌悪感を抱くのか。疑問に思ったゾフィア・コラーは、2021年にヒューマン・マテリアル・ループを立ち上げた。「ずっと、人間の髪の毛に強い魅力を感じていました。美容室で切り落とされた瞬間、床に散らばる髪は、見向きもされないただのゴミになります。多くの人が不気味で、気持ちが悪いと感じる髪に、『資源』としての新しい価値を与えるにはどうすればいいかと考えました」

繊維産業による深刻な汚染問題の実態を知ったコラーは、構造がウールに似ている人毛に、より持続可能な未来の素材となる可能性を見出した。そこで、デザイナーであり研究者でもある彼女は、人間の髪の毛をウールのような繊維に変化させる化学プロセスを開発。既存の機械に応用できるだけでなく、環境にも優しいものとなっている。「色素は使いません。圧着率を上げ、摩擦を増やすことで、繊維がよりよくくっつくようになります 」と彼女は説明する。「専門家でもない限り、加工後のウールと髪の毛の見分けをつけることはできないと思います」

ヒューマン・ループ・マテリアルが人の髪を使って作った染色後の繊維。
ヒューマン・ループ・マテリアルが人の髪を使って作った染色後の繊維。

タンパク質からできている人の髪の毛は、かなりの強度がある。それに加えて簡単に染色できるため、テキスタイル産業にうってつけだ。さらに、今現在は単なる廃棄物であることを考えると、ほとんどのバージン原料よりも二酸化炭素排出量がはるかに少ない。「ついこの前、初めてライフサイクルアセスメント(LCA)を実施したのですが、(ヒューマン・ループ・マテリアルの繊維の)製造過程におけるCO2排出量は、コットンの99分の1でした。もし規模を拡大することができれば、本当に大きな革命をもたらすことができます。原材料調達から⽣産まで、(環境への)影響はほとんどないのですから」

現在、ヒューマン・マテリアル・ループはヘアサロンから直接髪を調達しているが、将来的には廃棄物処理業者と提携する予定だ。人毛にはウールのように「動物福祉」という観点から懸念すべき点はないが、サプライチェーンが 100%透明であることは依然として重要である。現にデキャップも、リサーチを行うにつれて人毛売買の暗黒面を憂慮し始めた。なぜなら、グローバルサウスには髪のために搾取されたり、わずかな賃金と引き換えに髪の回収を行っているという報告がある。「毛髪の取引は合法であっても、まったく規制されていません」とデキャップは指摘する。

それでも、倫理的な方法で調達すれば、人間の髪の毛は未来のサステナブルな素材となる大きな可能性を秘めている。気味が悪いものではなく、新しいものとして受け入れてもらうこと。コラー曰く、それが規模拡大に立ちはだかる大きな課題だ。

Text: Emily Chan Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.CO.UK

元記事で読む
の記事をもっとみる