1. トップ
  2. エンタメ
  3. アイナ・ジ・エンドさん「必死に生きる人々の情念を描きました」/新曲「Love Sick」インタビュー

アイナ・ジ・エンドさん「必死に生きる人々の情念を描きました」/新曲「Love Sick」インタビュー

  • 2024.7.23

暮らしの〈余白〉を楽しめるようになりました

━━ソロ活動に専念されて1年。環境や心境に変化はありましたか?
 
地に足がついてきたというか、 楽しいですね。(ひとりで活動することに対する)不安がぎゅんぎゅんにあったのが去年(2023年)の冬ぐらいで。でも、気がつくとちょっと開けてきたというか。責任は全部自分で背負わなくてはいけない部分もありますが、うまいこと心の逃げ場所も作れるようになりました。
 
 ━━暮らしのリズムに変化はありましたか?
 
忙しすぎた時期は、ご飯も卵かけご飯でサッと済ませ、洗濯物もギリギリまで溜め込んだりして、1秒でも長く寝たいみたいな、ギリギリで生きてた感覚がありました。最近はちょっと早起きして、ベランダで光合成の時間を作ろうとか、散歩をして周囲の景色を眺めたりだとか、暮らしの〈余白〉を楽しめるようになりましたね。
 
 ━━暮らしに余裕ができたことにより、音楽などの創作活動にも変化が生まれましたか?
 
(創作活動に関しては)余裕はあんまりないんですけど、楽曲の素材になるものをいろいろと見つけられるようになりました。例えば、 お母さんと話していると〈蛍族〉という言葉を耳にして、どういう意味なのか尋ねてみると、夜にマンションのベランダでタバコを吸っている人の発する火が蛍の光みたいだから、そういう名称が生まれたという話を聞いて、そこから楽曲のイメージが浮かんだりだとか。ふとした瞬間のなかからアイデアが生まれるのは、暮らしに〈余白〉があるからこそだと思います。

あくまでも映画の一部として完成させた新曲

━━そして今回発表した新曲「Love Sick」は、映画『劇場版モノノ怪 唐傘』主題歌として制作されたものですね。
 
最初、この作品の主題歌というお話をいただいたとき、正直ものすごく難しい題材なんじゃないか、自分は理解できるのかな?という不安がありました。ですが、作品に触れていくうちに、普通の暮らしのなかで起こる、何かを捨てて何かがやってくる循環のなかで、そこから自分は何を選んで生きていくかみたいな、誰にでも経験したことのあるような話を深く掘り下げて表現している物語であることに気づいて。そこから、作品に向きあうことに対する不安は感じなくなりましたし、刺激的な作業になりましたね。
 
 ━━この楽曲は、TK(凛として時雨)さんがソングライティングおよびプロデュースを担当。
 
TKさんとコラボさせていただくのは、これで2回目。 前回は、初めましてということもあって、あんまり自分の意見を言うことができず、いただいた楽曲を精いっぱい歌うことだけに集中するしかなかった。でも、今回は映画を観て受けた感覚を伝え、このフレーズではもっと疾走感をもたせた方がいいとか、作品にある情念をこういう声色で表現したいみたいなディスカッションができたので、前回とはまるっきり異なるというか。さまざまな角度で作品をとらえながら、制作できたと思います。
 
 ━━楽曲では、特に映画のどういう部分を伝えたいと思いましたか?
 
女性たちの情念が、この映画のテーマになっていると思い、楽曲もそれに添ったものになっていると思います。これはTKさんのアイデアなのですが、歌詞は相手が見えてくるような描き方というか。自分ごとだけで終わらせずに、誰かに何か訴え続けているようなものに。それは、映画の世界とリンクしていたし、また私が伝えたかったこととも一致していたので、とても取り組みやすかったですね。
 
 ━━確かに、とても情念を感じるヴォーカルだと思いました。そこにはアイナさん自身の感情も注ぎこんでいたのでしょうか?
 
あんまりそういうことを考えすぎたりせずに、私は感じたままを歌わせていただくことだけに集中しました。映画に感化されすぎて歌うと、一辺倒な表現になってしまう気がして。これは、あくまでも映画の世界に寄り添う楽曲なので、できるだけ視野を広くして、自分が歌える精いっぱいのことを表現しようと思いました。
 
 ━━アレンジは、映画の世界に通じる美しさと混沌を感じるサウンドに。その展開のある音は歌っていて、気持ちよかったですか?
 
いや。とても難しかったです。TKさんって男性なんですけど、とても高いキーでも歌える方なんですよね。だから、いただいたデモ音源は、たまらないくらいの高さで、驚愕してしまいました。だから、そのキーにあわせて歌うことに必死で、気持ちよく歌えた部分はまったくありませんでした。でも、その必死な感じが、映画の登場キャラクターたちの情念、奇妙な感覚などとマッチしていると思ったので、今となっては高いキーに挑戦できてよかったと思います。
 
 ━━楽曲を完成させて、何か得られたものはありましたか?
 
映画に華を添えるようなものを作りたいという熱量をもって、私を含め楽曲に関わった方々が一丸となって取り組んだ楽曲。その熱量はとても偉大なものだったように感じています。
 
 ━━この楽曲を通じて、どんな世界を感じてほしいですか?
 
映画の世界に寄り添う楽曲を作りたいという気持ちで制作したものなので、単体でどう感じてほしいという思いはないですね。もちろん、楽曲自体を楽しんでいただくのは、ありがたい話なのですが、全体に流れる和の表現とか、この作品ありきで制作したもの。だから、映画を観たあとに、全体を通して何かを感じていただきたいというか。『劇場版モノノ怪 唐傘』を構成するひとつとして、愛おしく思っていただけたら。

汗をかく暮らしで、心に新陳代謝を

━━この映画の公開後、9月11日には初の日本武道館単独公演“ENDROLL”が開催されます。
 
今年の春に、初めて(アメリカで開催の)コーチェラ・フェスティバルに行きました。めちゃくちゃ楽しかったんです。お客さんの雰囲気も、女の人がお尻振って、その後ろで男の人が支えて盛り上がっているみたいな。本能で音楽を満喫している雰囲気を感じて、自分は届けたい・伝えたい思いが強すぎて、少し固くなっていたのかも?と気づくきっかけを与えてくれました。だから、日本武道館公演では伝えたい気持ちをみなさんに届けつつも、自分が何よりステージを楽しむ気持ちも大切にしたパフォーマンスをしたいと思います。
 
 ━━今回の映画の主題歌や、海外フェスの経験などを通じて、今後はどんな音楽を追求したいと思いますか?
 
これまで、 スカ、ニュー・ジャック・スウィングから、シティ・ポップやバラードまで、いろんなタイプの楽曲を歌ってきました。今後も、いろんなタイプのサウンドに挑戦しながらも、〈結局はアイナ・ジ・エンドらしいよね〉と言われるようなものを届けたいと思っています。だから、次はこういうことに挑戦したいという気持ちはなくて、いただいたものを受け入れて、そこから自分らしさを追求し、みなさんにも私の個性を感じていただけるような音楽を作り続けたいですね。
 
 ━━最後に。アイナさんの現在の暮らしのなかで、心を充実させることは何ですか?
 
カラオケですね。
 
 ━━ステージで歌うことと、カラオケで歌うのは別という感じなのですか?
 
カラオケは、別に好きじゃなかったんですけど、歌ってみたら、めちゃめちゃ楽しかったんですよ。歌って、これでいいんだっていうか。あんまり深く考えなくていいのかもって気づきましたね。以前は、職業だし、喉のケアを頑張らないといけないので、お酒を飲みたいけど飲むのはやめようとか、制限をかけていたことが多かったんですけど、それが自分を窮屈にしていて、いいものすら生まれないんじゃないかと思ってきました。自分の心をちょっとずつ解放して、歌をまず好きになろうという気持ちからカラオケへ行ったんですけど、今では趣味になりました(笑)。
 
 ━━素敵ですね。
 
汗かいて歌うって、エネルギー使うじゃないですか。また、ストレス解消になると思うんですよね。私、自宅で歌っていると楽しいというか。そのなかで自然に汗をかけるっていうことが、とても大切な気がしてきて。だから、別に歌じゃなくてもいいですよ。筋トレでも。ずっとスマートフォンやパソコンに向きあい続けるのって、正直しんどいと思う。深呼吸をして、汗も流せる時間を取り入れ、心の新陳代謝を高めることで、暮らしがより充実するのではないかって思うのです。

『劇場版モノノ怪 唐傘』

©ツインエンジン

2007年にTVアニメとして放映され、大反響を呼んだ作品が劇場版として新生。大奥に潜む情念を、豪華絢爛な映像で描いた。7月26日より全国ロードショー。
https://www.mononoke-movie.com/ 

新曲「Love Sick」

アイナ・ジ・エンド
avex trax/配信
 
自身初となるアニメ映画主題歌。作品のあざやかな世界が迫ってくる、聴きごたえのあるロック曲。

PROFILE

あいな・じ・えんど/大阪府出身。BiSHのメンバーとしてデビュー、2021年よりソロ活動を開始。現在は音楽活動以外に、ミュージカルや映画の主演など、幅広い分野で活躍。7月公開の映画『劇場版モノノ怪 唐傘』では新曲「Love Sick」が自身初のアニメーション映画の主題歌に決定。そして9月には自身初の日本武道館公演“ENDROLL”の開催が決定している。

photograph:Miho Kakuta hair & make-up:KATO(TRON) styling:Ai Suganuma(TRON) text:Takahisa Matsunaga
 
[衣装協力]ドレス/Sea New York(BRAND NEWS 03-6421-0870)
リンネル2024年9月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる