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「女性の役割を演じるために出場するのではない」女性アスリートが「美しさ」を求められる理由とは?

  • 2024.7.22

おしゃれな女性アスリートが増えている。それは自由な自己表現の結果なのか、それともスポンサーにアピールする手段なのか。

世界選手権100m優勝者、アメリカ合衆国の陸上競技選手シャカリ・リチャードソン。photography : Dpa/Picture alliance/Getty Images

100m走を競うときもカラフルなウィッグやつけ爪をして、ピンクやブルーのネオンカラーヘアでゴールを決める。トロフィーを受け取る時は真っ赤な唇で。一部の女性アスリートのとても女らしい格好はフィールドで目立つ。だが彼女たちは決して無邪気に美しく装っているのではない。女子選手にとって外見はキャリアを左右しかねない問題なのだ。

スポンサーの獲得

「女性アスリートの外見やイメージは、スポンサー探しやアスリートへの評価に影響します」と言うのは、メディアとジェンダーとスポーツの関係を研究する社会学者のナターシャ・ラペイルーだ。彼女曰く、2000年代までは「西洋的な美の基準に合致した女っぽい外見の選手、言い換えればスリムな白人女性選手が人気でした」とのこと。

特別研究員のベアトリス・バルビュス(『Du sexisme dans le sport(スポーツ界における性差別)』(Éd. Anamosa刊)の著者)は「15、20年前と比べてプレッシャーは増しています」と言う。いくつかの競技で、女性アスリートは男性アスリートと比べ、スポンサーを見つけるのに苦労する。女性アスリートの場合、重視されるのは外見だ。東京五輪の女子サーブル団体で銀メダリストとなったフェンシング選手のシャルロット・ルンバックは、パリ五輪のスポンサー探しの際にそのことを痛感した。「メダリストであっても、ブランドの方向性と異なっていて、しかもあまり知られていないスポーツだと難しいですね。あまり実績がなくても、きれいで背が高くてスリムな女性選手はすごい契約を手にしますが」とフェンシング選手はため息をつく。この見解に同意するのはフランスの円盤投選手のメリナ・ロベール・ミションだ。2016年リオ五輪で銀メダリストとなり、フランス選手権で22回優勝しているベテラン選手も資金調達には苦労した。「美の基準に適った選手は恵まれた条件で活動を続けられます。同レベルの男性アスリートに比べ、女性アスリートは見た目が重視されます。男性の場合は常にまず成績で評価されるのに」

セクシーさもひとつの選択

もっとも社会学者のナターシャ・ラペイルーによれば、2005年を境に潮目が変わったそうだ。「これまで男性のスポーツだったボクシングやサッカー、ラグビーの女子世界選手権がクローズアップされて試合がテレビ中継されるようになると、新しいタイプの女性アスリート像が生まれました。スポーツメーカー各社は、たとえばキャスター・セメンヤやセリーナ・ウィリアムズなど、これまでの美の基準と合致しない身体を持つ選手を起用し、多様性を打ち出す新しいキャンペーンをおこなうようになったのです」

全米オープンテニスでのセリーナ・ウィリアムズ。(ニューヨーク、2022年9月2日) photography : Tim Clayton -Corbis/Getty Images

フランス国立科学研究センター(CNRS)アレーヌ人文・社会科学研究所の研究者、サンディ・モンタニョーラもこうした変化を感じている。「2012年までボクシングの女子選手はオリンピック参加を認められませんでした。今日、彼女たちは注目の的です。こうした状況の変化によってポジティブな変化が起きています。これまでの美の基準も根強いですが、女性選手のアスリートらしい体つきは、どこかに女らしさを感じられる部分があれば受け入れられるようになりました」と指摘する。

社会学者カトリーヌ・ルヴォーの研究によれば、「男の子のスポーツ」をする女性選手は他のスポーツジャンルに比べ、メイクやヘアスタイルにこだわる傾向があるそうだ。スポンサーや世間の目を意識しているのだろうか。

女らしく装う

一部のスポーツウーマンは女らしく装うことが自由である証であり、自分の身体を自分の手にとり戻す手段であるとみなしている。ある種のエンパワーメントであり、アフリカ系コミュニティにおいてこの考え方がとりわけ普及していることは、ジャーナリスト作家のジェニファー・パジェミが著書『Selfie .Comment le capitalisme contrôle nos corps(セルフィー:資本主義はどのように我々の身体をコントロールしているか)』(Éd.Stock刊)で指摘しているとおりだ。「短い爪や長い爪、ナチュラルな爪やジェルネイルをした爪、ネイルにデザインがあろうがなかろうが、デザインが凝っていようがシンプルであろうが、黒人女性は身を飾り立て、相手を威嚇します。私が思い浮かべるのは女性アスリートのシャカリ・リチャードソンです。長い爪につけまつげ、ウィッグをつけて競技に参加することで先人たちに敬意を表しているのです。服装もマニキュアも際立っていたフローレンス・グリフィス=ジョイナー、ブロンドのショートヘアが素敵だったクリスティーン・アーロン、タトゥーが見事だったイニカ・マクファーソン、素敵なコーンロウヘアのミュリエル・ユルティス、その他多くの女性選手たちがいます」

ジャマイカの陸上競技選手、シェリー=アン・フレーザー=プライス。photography : Erick W.Rasco / Sport Illustrated/Getty Images

すると彼女たちが装うのは服従のためではなく、自己主張のためなのだろうか。「誰でも望む選択をする個人の自由がある一方で、その選択が結果としてセクシーさを強要する傾向を後押ししてしまうと、女性の権利向上にプラスかどうかはなかなか微妙なところです」と特別研究員のベアトリス・バルビュスは言いつつ、その一方で次のようにも言う。「若い世代は自分で選択することを望んでいます。スポーツ選手も、気持ちよくプレーできる服を選ぶ権利があってしかるべきです」

服装を問題視する女子アスリートは増える一方だ。東京五輪では従来のレオタードではなく、全身を覆うボディスーツを選択した選手もいた。ノルウェーのビーチハンドボール選手も同様に、2021年の欧州選手権でビキニでのプレーを拒否し、罰金を科せられた。

ただ、「これらは例外的なケースです。女子選手への注目が高く、地位が確立されている競技ならではの話です」と社会学者のナターシャ・ラペイルーは指摘した。「彼女たちが経済的に安定していて所属連盟のバックアップがあればあるほど、戦略的な抗議もできるし、大胆な行動で規範を超えることもできるのです」と言うと、一例としてカラフルなヘアカラーで知られるサッカー選手のミーガン・ラピノーの名を挙げた。

アメリカの女子サッカー選手、ミーガン・ラピノー。photography : DeFodi Images/DeFodi Getty Images Images

自信を高める

パリ五輪ではどんな光景が見られるだろうか。「女性の役割を演じるために出場するのではないので、無理に女らしい格好をする必要はありません。大切なのは、スポーツ選手の身体の多様性を見せることで女の子たちの模範となることです」と円盤投選手のメリナ・ロベール・ミションは語る。彼女自身は競技前にヘアメイクしたり、爪を三色旗カラーにしたりするのが好きだと言う。「楽しいし気分が上がりますから。もちろん競技が最優先ですが」

七種競技でフランス選手権大会準優勝のセリア・ペロンも同意見だ。アヴェーヌのアンバサダーを務めるセリア・ペロンは取材時、パリ五輪出場資格を得るために競っていたが、競技では常にポニーテールにアイメイク、そしてほぼいつもマニキュアをしている。身だしなみに気をつけるのは、カメラの前に立った時に堂々とふるまえるようになるためだと言う。「気持ちを奮い立たせるためです。競技に臨む前に鏡に向かい、自分を見つけて少しでも自信をつけることは有益です。そうすればトラックに出た時、自分のイメージを気にすることなく、ひたすら目標に集中できます。あとは頑張って、汗をかいて、自然体でいるだけです!」

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