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裏庭のサマーハウス=私のプチ・トリアノン。

  • 2024.7.30

"Garden of England(イギリスの庭)"と呼ばれる緑豊かなロンドン郊外ケント地方に暮らすギャンブル五月が、個性豊かなイギリス人の自宅インテリアを紹介。今回は番外編として、特別にご自宅を案内してくれました。

Step inside Satski's house.

文・写真/ギャンブル五月

夫の祖母が晩年に読書小屋として愛用していた裏庭のサマーハウス。彼女が亡くなってからは物置と化して数年間放置され、「いつか可愛くリフォームしよう」というアイデアだけが、To Do Listの中に生き残っていた。

そして2020年。ロックダウンの外出制限によって数カ月間家に閉じこもる日々が到来し、イギリス中の人々が家の模様替えに熱中し始めて、ペンキの売り上げが倍増。もちろん私もその中のひとりで、「Now or Never(いまやるか、一生やらないか)」と一念発起。やっと外観と内装を塗り替えた。インテリアには、蚤の市で見つけてきたガラクタやアンティーク品を飾って、フランスの田舎をイメージしたシーシェッド/She Shed(女性が自分だけの空間として使用する小さな屋外の小屋や建物)に仕上げていった。

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使用したのは、エコ&チャイルドフレンドリーなイギリスのブランド、ファロー・アンド・ボールのペンキ。この色はArsenic。

いま思えばこのDIYは、当時の私にとって密接過ぎた家族との時間からエスケープするための手段だった。「ちょっとペンキ塗ってくる」と告げてしれっと家を出て、ひとりになれる私だけのサンクチュアリ。混沌としたコロナ禍の日々の中で、自分がコントロールできる小さくて安全な世界を作り出していたのだと思う。

去年、パリからの客人にこの小屋をお披露目したところ「プチ・トリアノンじゃないですか!」と洒落たお言葉をいただいた。プチ・トリアノンとは、ヴェルサイユ宮殿の敷地内にあり、マリー・アントワネットの癒やしの空間だったと言われている小さな離宮のこと。

もちろんヴェルサイユの離宮のそれとは雲泥の差な訳だけど、森茉莉が自宅の黄ばんだ古い布団を「ボッティチェリの布団」と呼んでいたあの猛者スピリットを思い出して、私もこの小屋を自分の離宮にしようと勝手に決め込んだ。

しかし現実はそう甘くはなく、ここで読書に耽るなんて言う贅沢な時間は日常に追われてまだ手に入れていない。ドアを開け放っては外から眺めて愛でるだけの「床の間」と化していて「ケーキを見てればいいじゃない」状態である。

イギリスの短い夏が去ってしまわないうちに、どうにかこの非日常的な空間に身を置いて優雅な時間を過ごそうと、今日も夢見ている途中なのです。

 

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南フランスのセカンドハウスを整理していた義弟が「五月が好きそうだから」と持って帰って来てくれたアンティークのフレンチポット。

コロナ禍で塗り替えられたギャンブル家の部屋ビフォー&アフター。

それぞれの部屋に合った色を選ぶのはペンキ塗りの醍醐味。私の色彩へのこだわりは、間違いなくマグノリアベーカリーで作った何千個ものカラフルなカップケーキたちに練りこまれた産物です。

応接間は、明るいダイニングルームとのコントラストをつけたくてVardoをチョイス。

Before:

グレーのアンダーコートが最終の色だと勘違いした子どもたちは一斉に「ノー!!」

After:

シッティングルームは落ち着いたStone Blueに。ウォークインクローゼットだった奥の部屋を何色に塗ろうかと検討中。

Before:

After:

小さなキッチンに改造してCitronに塗り替えた2階のデッドスペース。コロナ禍では子どもたちのZoom部屋として重宝した。

Before:

After:

Epilogue

今回、ロンドン近郊の素敵な友人宅4軒を紹介しましたが、私の「人のお家」への好奇心は、ニューヨークでの大学生時代に芽生えました。 寮生活の中、週末になるとマンハッタンの実家に帰省する友人たちが、留学生だった私をいつも家に招いてくれたのです。

アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアと親交の深かった父親のSOHOのロフト、若い時はスタジオ54で毎晩踊り明かしていたと言う母親のトライベッカのアパート、70年代のロックスターだった父親のフィフス・アベニューのタウンハウスなど。生粋のニューヨーカーである彼らのお家は、無造作なのにクールで洗練されたテイストにあふれていました。あの頃に受けた鮮烈な印象は、私の感性にしっかりと刻み込まれています。

これからも住む人のパーソナリティと物語の詰まったお家を取材して、皆さんにご紹介していけたらと思います。


text&photos: Satski Gamble

ギャンブル五月 
ニューヨーク州立大学卒業後、ウェストヴィレッジのマグノリア・ベーカリー本店にて6年間腕を磨く。ロックバンドのメンバーとして2度の全米ツアー後、渡英。現在は田園風景が広がる『Garden of England(イギリスの庭)』と呼ばれるロンドン郊外はケント地方に暮らす。著書に『ニューヨーク仕込みのカップケーキデコレーション』『イギリスから届いたカップケーキデコレーション』(SHC)。日本カップケーキアカデミー代表。

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