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【パリ近郊の庭を訪ねて】ナチュラルに楽しむ小さな花束の庭

  • 2024.7.20

庭は、風景を作ったり果樹や野菜を育てたり、庭主がしてみたい! を叶えることができる場所。四季折々に咲いた花で花束を作るための庭を、フランス語では「ジャルダン・ブクティエ(花束の庭)」と呼びます。初夏の週末、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんが訪れたのは、花束の庭も楽しみの一つという英理子さんの庭。庭づくりを始めて15年の小さなナチュラルガーデンを案内していただきます。

森の佇まいと選りすぐりの花々

小さな庭
お宅のリビング側から庭を見下ろす。春の球根花からダリアへと季節毎に植え替える植栽のエリア。

フジの花が満開でスイセンやチューリップの盛りが過ぎた晩春の週末。パリ近郊で素敵な庭づくりをされている英理子さんのお宅にお邪魔しました。

折り紙&ペーパーフラワー作家としても活躍する英理子さんが、フランス人のご主人と2人のお子さんと暮らす家は、パリから電車で30分ほどの長閑な住宅地にあります。これまでも、季節を変えて何度も伺っている大好きな庭です。

グラウンドカバー
ヘビイチゴやステラリア・パルストリスが混じるグラウンドカバーは、野原そのままのナチュラルな雰囲気を庭に運びます。

この地に引っ越ししてきて、ご自身での庭づくりを始め15年ほどが経つという英理子さんの庭では、森の一角を思わせるナチュラルな佇まいのを背景に、季節ごとに庭を彩る彼女のこだわりの花々が、絶妙なハーモニーを織りなしているのが魅力です。

バラ‘ガードルード・ジギル’
今回訪れた際にも、ちょうどイングリッシュ・ローズの名花‘ガードルード・ジーキル’の季節の最初の花が咲いていました!

初めて伺ったのはちょうどバラの季節。フランスの個人庭には珍しく、イングリッシュ・ローズの数々が見事に咲いているのが印象的でした。

ジャルダン・ブクティエ(花束の庭)

春の庭
春の花の植栽、選び抜かれたチューリップはそれぞれがビジュー(宝石)のよう。

さて今回は、曇りからにわか雨を経て時々晴れ、気温は一桁台という花冷えの4月下旬の日曜日。球根花は終わりかけで、バラの盛りは3週間後位か、でもスズランはもう花盛りですよ、というタイミングでしたが、たくさん植え込まれたさまざまな種類のスイセンやチューリップは、好き好きに開き切った姿にも味わいを感じます。

猫と庭
スズランの群生の前に佇む後ろ姿は庭ネコのたまちゃん。

「そう、庭で見る分にはまだいいのだけれども、ブーケにするには咲き始めがいいの」という英理子さん。大好きだというスイセンは、いろいろな園芸種を毎年400球ほどは植え込むそうです。今年は雨が多かったせいか、庭づくりをし続けてきて初めて激しいナメクジ被害があったそうで、花の部分をつぼみのうちに食べられてしまったスイセンが多数出てしまったと、残念そうでした。ちなみにナメクジは捕獲処分。薬剤などは使わないナチュラルガーデニングが基本です。

春の庭

チューリップは、庭の風景を保ちつつ、少々切り花にしてブーケにも使えるように、同じ種類を20、30球と植え込んでおくとのこと。そう、この庭の植物選びの原則の一つに、切り花として使える花々というのがあり、実際、花の季節にはいつもお庭の花でささっと素敵なブーケを作ってくださるのです。庭の自然をそのまま運ぶようなブーケは、もちろんパリのご友人の間でも評判です。

ガーデン
晴れ間の出てきた庭で恵理子さんにお茶をご馳走になりながらお話を伺いました。気持ちのよいひととき。

庭の奥でちょうど花盛りだった大きく育ったビバーナムは、やはり15年ほど経つそうですが、これもブーケにも使おうと思ってチョイスしたとのこと。切り花のための庭をカッティング・フラワー・ガーデンと呼んだりしますが、フランス語ではジャルダン・ブクティエ(花束の庭)やジャルダン・フローリスト(フローリストの庭)と呼びます。

森の佇まいを運ぶ野の花々

ドロニクム
木々の足元を彩る黄色のドロニクムも森からやってきたワイルドフラワーです。

選りすぐりの栽培種のチューリップやスイセンが植え込まれた植栽はカラフルな宝石箱のよう。それを引き立てるのが、フワフワとそこかしこに生えているヒナギクだったり、儚げなワスレナグサの群生。森の一角にいるように、よく林縁に生えている黄色のドロニクムも木陰に揺れています。野の花と園芸種の共演はまさに庭空間ならではの技ではないでしょうか。

スズラン

この時期、スズランも庭のあちこちで満開になってきていて、摘むのが追いつかないほどだとか。スズランは、元々庭に群生していた場所もあれば、義理のお母様からの一鉢のスズランが一面に広がった斜面もあり、いずれにしても土地に合うようです。フランスでは5月1日にスズランを贈る習慣がありますが、お庭のスズランは毎年少し早くから最盛期となります。

スズラン

スズランの群生に混じって、可愛らしい八重のオダマキがつぼみをつけていたり、庭の中には、ほっこりする風景がたくさんあって飽きません。種播きで増やしたもの、あるいは種が飛んで自然に増えた植物など、それぞれの様子をよく観察しつつ、そのままそっとしておいたり、場所を移動させたりと、丁寧にお手入れされているのがよく分かります。

小さな庭のよいところ

小さな庭

毎年春には数々のスイセンとチューリップが彩るエリアは、季節が終わるとダリアに植え替え、夏から秋にかけては、選りすぐりのダリアが花盛りになります。ダリアの球根は季節の後に掘り上げて、また春の準備に。季節に沿って花が溢れる小さな庭は、じつは大変な手間に支えられています。

小さな庭

スペースが限られているので好きな植物がすべて植えられるわけではない、慎重に取捨選択しなければならないのだけれども、逆に自分にとってはそれがよいのだと思う、と言う英理子さん。植栽の選定は自分の「好き」が基準ではあるけれども、後は土地に合うのか、気候に合うのかということも大事です。特に、ここではまだ急激な変化にはなっていないけれども、夏の暑さや水不足などの気候変動に対応するには、環境に適応できるということがより大事になりそう、と庭友の間でも話題になっているそう。

小さな庭
庭のスズランを摘んでブーケに。素晴らしくよい香りです。

それぞれの植物の気に入った場所を見定めて定植したり、移動したりと、植物それぞれとの対話の中で作られてきた庭空間では、草花が皆ハッピーなのか、居るだけで気持ちが和んできて、いつまでも佇んでいたくなります。抜け感のあるお洒落はパリジェンヌが得意とするところですが、この庭の、リラックスする柔らかなワイルド感は、それに通じるところがあるような気がします。

花束の庭
庭の中心のガーデンテーブル。お茶の時間には自然と家族が集まって過ごす和やかな場所に。

森を思わせる野の花々と、こだわりの園芸植物たちが、恵理子さんの振るタクトを見ながらそれぞれに歌い、そのリズムが柔らかなイル=ド=フランスの光と空気に溶け込んでいくような素敵なナチュラル・ガーデンです。

Credit
写真&文 / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。

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