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ストーカー被害で警察が動く2つの要件…男性から勘違いの好意を寄せられたときわが身を守る有効策

  • 2024.7.20

ストーカー被害から殺害事件へと発展するケースは少なくありません。ストーカー被害者の多くが警察に一度は相談に行っているのにもかかわらず、なぜ最終的に殺されてしまう女性が絶えないのでしょうか。弁護士の鮫島千尋さんは「ストーカー事件と警察が認定するには2つの要件を満たす必要があります。ストーカーが『恋愛目的ではない』と主張し、事実を認めない場合には、警察が動かないこともあります」といいます――。

同僚に突如見せられた自分の盗撮写真

今回は職場でストーカー被害にあったという女性の事例を紹介します。実際にストーカーによる殺害事件も起きている今、万が一ストーカーに狙われたらどうしたらいいか、何をするのはNG行動かなど、本記事を参考に身に迫る危険を回避いただければと思います。

※本記事はプライバシーを考慮して、傍聴した裁判や見聞きした文献や裁判例、過去携わったさまざまな事件などをもとに、事実を一部変更してお届けしております。あらかじめご了承ください。

ある弁護士事務所に母親と一緒に訪れた依頼者は大学に入ったばかりの、女子大生だったといいます。女性が、ある日いつものようにアルバイトに行くと、話したことがない社員男性Aから声をかけられたといいます。

「コンビニ弁当ばかり食べずに、たまには自炊もしたら?」

スーパーで商品を選ぶ人
※写真はイメージです

愛想笑いをしつつ何のことかと考えを巡らせていると、男性がスマートフォンの画面を見せてきました。そこには、女性がコンビニでパスタを選んでいる写真があったのです。

突如の説教にフリーズ…

女性が驚きのあまり固まっていると、「実はここ数日あなたの後をつけてたんだ。そしたら、ずっとコンビニ弁当だし、男性と夜遅くまでデートしたり朝帰りしたり……若い女の子が危ないんじゃないの? 自炊した方が節約にもなるよ」と説教をしてきたというのです。

恐怖にかられた女性は「気をつけます」などとその場をにごし、あくまで平静な様子を装いながら逃げ出しました。

女性が電話で男性Aの上司に相談したところ、上司から人事に話がいき、男性Aは減給処分になったそうです。被害女性は、男性とこれ以上関わりたくないとの思いから、アルバイトをやめざるを得ませんでした。

被害女性が、担当弁護士にした依頼は「ストーカーのせいで予定していた収入がなくなった分や、不要にお金がかかった分を取り戻したい」というもの。男性に声をかけられてから、家がバレていることによる身の危険を感じ、新居が決まるまでの間、ネットカフェや友達の家を転々として暮らしていたそうです。引っ越し代も含めてかかった費用、約60万円を男性に請求したいという内容でした。

警察が動く事件と動かない事件の違い

警察にも相談しましたが、「あなたの言うことだけでは被害届は受理できません」と突っぱねられてしまったと。というのも、ストーカー事件と警察が認定するのに必要な要件を、今回は満たしていないからだというのです。

【参照】(ストーカー行為等の規制等に関する法律より引用・【】は著者加筆)
第二条 この法律において「つきまとい等」とは、
【①主観的な目的】
特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、
【②つきまとい等の具体的な行為】
当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
以下略

わかりやすいように言えば、①恋愛目的や失恋しての逆恨み的な怨恨目的②つきまとったり、拒否されたのに連続でメッセージを送ったり、無断でGPS等からの位置情報取得を続けている、という要件を満たす必要があるということです。

①の恋愛目的かどうかは、男性Aが依頼した弁護士に「恋愛目的ではない」と主張し、恋愛目的や怨恨の感情にあたりそうな事情が認められなかったため満たされず。②の行為に関しては、つきまとわれていたという1週間の記録が女性側で用意できないことから満たされませんでした。

ただし、警察からは、口頭で、男性側に注意はしてくれたようです。

被害者と加害者双方で弁護士を入れたため、弁護士同士の話し合いに。男性の言い分は「恋愛目的ではないし、今はもう職場で会うこともないんだから、引っ越す必要はなかったはず。だからお金を払う必要はない」というものでした。

カップルを密かにスパイする男
※写真はイメージです

これはストーカー事件にありがちな主張ですが、被害者の女性からしてみれば家の場所がストーカーにバレているだけで恐怖であり、自分に対して執着している人間がいつやってくるかわからない状況など耐え難い状況でしょう。いくらストーカー本人が「行かない」と言ったって、実際にストーカーに女性が殺害された事件が過去にいくつも起きている今、安心できるはずがありませんよね。このような被害者と加害者の主張の対立は、ストーカー被害の事件では結構“あるある”なのです。

ところで、恋愛目的ではないと主張していた男性Aですが、女性の担当弁護士から見て発言に疑問を感じる箇所が多々あったようです。そもそも女性は「単なる職場の社員の方で、ほとんどしゃべったこともないです」という前提で主張をしていました。それに対して、男性Aは「ただの職場のひとりではないし、雑談もしたことがある」と妙に食い下がったのだそうです。よくよく聞いてみると、一度だけ、女性から仕事のやり方について聞かれたことがあり、そのことについて言っていたようです。

「彼女のためにやってあげたのに」

結局、男性が数日の間つきまとっていたことや写真を撮っていたことは自ら認めていたことや、裁判にまで発展することは嫌がったため、女性の訴えは通り、宿泊代や引っ越し代などの諸経費はまるまる返ってくることとなりました。しかし、男性Aは「彼女のために良かれと思ってやってあげたのに……」と反省の色は一切見せなかったといいます。

今回の件の女性の動きで良かった点は、男性Aの上司にすぐ相談し、男性Aとの接触を最小限に抑えたところです。

クライアントと話す様子
※写真はイメージです

例えば被害女性が副業や不倫など、会社にバレたくない関係を社内で持っていて、それを会社にバラす……などと脅された場合も同様です。自分の弱みを握られていようが殺されては元も子もありませんから、そのような場合も脅しにのらず、周囲の良識ある大人や弁護士にすぐ相談しましょう。また、ストーカー被害発覚後にネットカフェに宿泊するなどして、すぐに居場所を変えた点は二次被害を回避する策としてかなり良かったと思います。

そのうえで、自分一人で判断や行動をせず、弁護士に相談することで、ストーカーへの賠償や接触の防止等に関して法的に整理した形で対応するようにしていったことも、長い目で見たときに良かったと思います。弁護士が間に入れば警察とも連携が取れるので、身の安全を確保しつつ有利に交渉を運べます。

わが身を守るポイント
・一人で対応しない
・二次被害防止のために逃げる

弁護士の視点から言うと、男性側に弁護士がついたのが意外と功を奏したのかなと思います。なぜなら、ストーカーという危険な行動をしている人には「あなた危ないですよ」と指摘してくれる第三者がいないことが問題だからです。弁護士から「裁判になったらあなたのとった行動はマイナスですよ」などと冷静かつ合理的な説明があったのは、今後のために良かったのではないでしょうか。反省はしていなかったようですが……。

ストーカーから命を守るために

もしストーカー被害にあってしまった場合、一人で行動や判断をすることは絶対にやめてください。信頼できる友人や上司、警察、そして弁護士にすぐ相談してください。

ホテルにチェックインする人
※写真はイメージです

そしてまずは身の安全を確保する行動を取ってください。今回の事例のようにホテルや友人宅への一時的な避難や引っ越しを行いましょう。そのうえで、相手からの連絡や何かしらストーカー被害の痕跡があった場合、スマートフォンのスクリーンショットを保存するなどして残しておいてください。痕跡を残しておくのは怖いし気分が悪いかもしれませんが、それが証拠になります。証拠がないと、今回の件のように警察に被害届が出せないなどという不利益が生じます。

けっして自力で話し合いをして解決しようとは思わないでください。ストーカーをするような人は得てして「こういう行動をとったら自分が他人からどう思われるか」という視点に欠けています。話し合いをしても平行線に終わるか、被害が拡大する恐れがあります。必ず弁護士等の第三者を入れて、精神的にも身体的にも防波堤となる存在を確保しましょう。

なお、今回の事例では、ストーカー規制法上の行為には当たらないという判断がされましたが、例えば東京都迷惑防止条例では、妬み・恨み・その他の悪意の感情に基づくつきまとい等を禁止していますので、これに該当する可能性があります。

また、今回の事例のように、法律に違反するか微妙でも、警察から口頭で注意をしてくれるケースもあります。

被害者だけで警察に行く前に、弁護士と協議をした上で警察に一緒に行くことで、警察も動いてくれるかもしれません。

普段の行動でできることは、スマートフォンの連絡先に事件にあった時のための相談窓口の番号を入れておくことでしょう。警察署の相談窓口や生活安全課や、警察相談専用電話(#9110)などがあります。また、法務省が運営している「女性の人権ホットライン」や検察庁の「被害者ホットライン」など、支援してくれる窓口は知られてないだけでたくさんあります。

●女性の人権ホットライン
0570-070-810(ゼロナナゼロのハートライン)https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken108 ●被害者ホットライン
※連絡は、事件を扱った検察庁又は最寄りの検察庁にhttps://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji11-9.html

何らかの被害にあったときには一人で抱え込むなどせず、できるかぎり周囲に頼って、心身ともに安全な暮らしを取り戻してほしいと思います。

文=土居雅美

鮫島 千尋
弁護士
東京弁護士会所属。鮫島法律事務所所長。犯罪被害者支援委員会委員・紛議調停委員・あっせん人補。日本交渉学会員・全国マンション問題研究会会員。一般社団法人弁護士業務研究所理事。週刊誌・NHK・民放番組等でコメントや番組監修を担当。弁護士向け研修講師を担当。熊本大学大学院(交渉紛争解決実践コース)にて、交渉・紛争解決学、弁護士実務における紛争解決スキルの実用性の研究を行う。現在は、犯罪被害者支援に注力しつつ、多くの民事・刑事事件を対応し、刑事では無罪判決を獲得している。また、対話による円満解決をモットーに、交渉学や紛争解決学の知見を活かし、日々活動を行う。

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