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コーデ作りの秘密兵器はiPhoneの「メモ」? Z世代が提案する、スマホアプリの新たな活用法

  • 2024.7.20

映画『クルーレス』(1995年)の主人公シェール・ホロヴィッツは、かなりのファッショニスタだ。来る日も来る日も、抜かりのないコーデに身を包んでいるが、彼女が着るものに悩むことはない。なぜなら、“コーデ・ジェネレーター”という架空のコンピュータープログラムによって、毎日のコーデを組んでもらっているからだ。

このようなプログラムが開発される日を、皆がどれほど夢見てきたことか。しかし、映画が公開されてからもうじき30年。同じコンセプトをもとにしたテクノロジーを再現しようと競い合うAI企業も出現し、画像共有アプリのピンタレストの人気も急上昇しているが、シェールが使っているジェネレーターに匹敵するものはいまだにない。だが、最近になって意外なものがコーデの記録・生成ツールとして密かに名をあげている。それが、どのiPhoneにも入っている、一見何の変哲もないあの「メモ」アプリだ。

シーン、イベント、シーズン別コーデのストックが常に手もとに

ことの発端は、2023年9月。アップルがiPhoneのiOS 17をリリースしたことだった。このアップデートにより、iPhoneユーザーは保存した画像からデジタルステッカーを作成し、メッセージで送信できるようになった。

すぐに、ファッション好きのユーザーたちは、本来の目的とは違う活用法を編み出した。全身コーデの自撮りをステッカー化し、メッセージではなくメモアプリに貼り付けて記録。季節やシーンなどに基づいたコーデプランを事前に作成するツールとして使い始めたのだ。

20歳のインフルエンサーのアメリア・キーンドルも、自撮り写真から作成したアバター風のステッカーを駆使して、メモを「ワードローブのルックブック」として活用している人のひとりだ。実際にメモに追加したステッカーをもとにコーデを考える様子を紹介する彼女のTikTok動画は、昨年450万回以上も再生された。「いちいち着なくても、ボトムやトップが合うかどうか簡単に確認できるんです」とキーンドルは話す。そしてほかのユーザーたちと同様に、彼女はコーデをカテゴリーに分類し、自分に合ったシステムでルックを管理している。新たに購入したアイテムを記録する専用タブも作っていて、新しい着回し方はこのタブをもとに考えるのだそう。

「私は気温別に分類するのが一番好きです」とブルックリンを拠点とするソーシャルメディア・マネージャーのセイディー・サリバンは言う。季節ごとにコーデを整理する方法を紹介する彼女の動画は、TikTokで10万回再生を超えた。日々のルック以外にも彼女は、カジュアルなバーや映画デートなど、イベントやシーン別の服装のひな形を作るためにメモを活用している。また、旅先に合ったコーデをアプリ内で組むこともできるため、旅行のパッキングの際にも役立つという。

実際のところ、クローゼット管理やコーデ提案アプリはすでに山のように存在する。しかし、メモが人気な理由は、iPhoneユーザーであればすぐに使えるという手軽さにある。「アドオンもないし、お金もかからないし、(iPhoneを持っていれば)誰もが使える」と言うサリバン。「スマホはいつも手もとにあるので、コーデのアイデアがひらめいたときも、すぐに書き留めることができます」とオーストラリアのシドニーを拠点とするマーケティング・コーディネーターのカミーユ・ヘリーは続けた。

コーデ記録のデータから読み取れる、今とこれからのトレンド

メモを活用するコーデ記録はネット上のプラットフォームを介さず、すべてスマホのアプリ内で完結するため、ブランドがトレンドを追跡し、消費者の足跡を辿ることは難しい。そこには、より多くの商品を売ることで成長を目指す現在のファッション業界の動きとは相反する、反消費主義的なメッセージもうかがえる。

着るものがないと思ったとき、サリバンはいつもメモアプリをチェックする。そしてほとんどの場合、新しい服を買う必要はないと気づくのだそう。これは、今年の初めに浮上した“loud budgeting(お金を節約していることを他人に話し、過度な支出を行わない習慣)” の動きやトレンドフォーキャスターのマンディ・リーが火つけ役となった“75 Hard”スタイルチャレンジの根底にある考えと一致する。75日間服を買わないというこのチャレンジを経て、リーはひとつのアイテムだけでも何通りにも着回せることを知ったと話す。「自分のワードローブには、すでにたくさんの選択肢があるんだと、目で見てわかったんです」

「コーデを記録することで、同じ服を繰り返し着ることが良しとされるようになっているのだと思います。これは、今の時代においてとても必要なことです」とトレンドとカルチャーを研究するアグス・パンゾーニは語る。マイクロトレンドの出現によって、短縮化が加速するトレンドサイクルを考えると、同じコーデを何度も着ることは大きな意味を持つ。

とはいえ、ブランドが入り込む余地が全くないわけではない。「ブランドは、消費者が自分軸で語れるツールを提供するなどして、適応する必要があります。ステッカーやより簡単にダウンロードできるスタイリング案を作成することで、メモアプリを消費者とつながる機会にすることができます」とパンゾーニは加えた。

専門家も言うように、コーデ提案アプリやプラットフォームは、トレンド予測とブランド認知度向上のための有用なツールになり得る。「消費者が次に望んでいるのは、ワードローブを『Spotifyまとめ』のように見たり共有したりできるものです」と考察すのは、アメリカで100万人、ラテンアメリカでさらに100万人のユーザーを誇るソーシャルスタイリングアプリ「Whering」のCEOのビアンカ・レンジクロフトだ。シンプルなカレンダー機能を通して、自分のワードローブをデジタル化できるこのアプリは、スタイリングのインスピレーションをユーザーに広く開放することでコミュニティを育成。さらにAIを活用することで、新たな服の組み合わせ方や着回し方、その人のクローゼットにすでにあるものに合う新しいアイテムを提案するなど、ブランドにとっても魅力的なビジネス的側面もある。

「アプリユーザーの間では今、ヒョウ柄が流行っています」と言うレンジクロフト。今年初め、レッドを一点投入するファッションがトレンド入りした際は、赤いアイテムや赤を取り入れたコーデをアップする人が1300%も急増したという。ユーザーの着こなしから得られるデータによって、ブランドはただ発信するだけでなく、消費者の今のニーズに応えることができるのだ。

急速に変化するマイクロトレンドのサイクルを追跡するために、最近のファッション業界ではデータが非常に重要となっている。消費者のコーデ録をフォローし、その動向に応じてEC戦略を打ち出す。ブランドではなく、ユーザーがトレンドの流れを決定づける時代に、ますますなってきている。

Text: Maria Santa Poggi Adaptation: Anzu Kawano

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