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大塚愛さん(44)「私はこれ!」と決めずに日々アップデートしたい

  • 2024.7.19

2003年、デビューの年にリリースした2ndシングル『さくらんぼ』の大ヒットを皮切りに、数々の名曲を生み出してきたシンガーソングライターの大塚愛さん。この夏は初の個展を開催するなど多才な大塚さんですが、デビュー以降、求められるイメージと本当の自分とのギャップに悩んだ時期があったそう。自分を変えるきっかけになった出来事を伺いました。

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大塚愛さんが描く油絵、そして普段の表情

街で声をかけられても他人のフリをしてしまった

──VERY読者は30代前後、育児中の人が多いです。大塚さんご自身の30代はいかがでしたか?

28歳で出産したので、私の30代は基本的には育児最優先でした。30代前半くらいまでは家でこなせる仕事を少しずつ、という働き方だったのですが、アーティスト活動を本格的に再開しようと思い直したきっかけがあったんです。街を一人で歩いているとき「大塚愛さんですか?」と声をかけてくれた方がいたのですが、とっさに「違います!」と他人のフリをしてしまって。すっぴんだったから、とかプライベートだから、といった理由ではなくて、「大塚愛です!」と自信をもって言えなかったからです。いつの間にか自分で自分を誇れないような気持ちになっていました。

21歳でデビューしてから出産で仕事をセーブする30代前半まで、いろんなテイストの楽曲を発表してきたつもりだったのに、『さくらんぼ』など明るくてキュートな楽曲のイメージが定着していました。1曲のイメージに縛られたことで、せっかく多くの人に自分の曲を聴いてもらっているのに「苦しいな、逃げたいな」という気持ちさえ感じていました。そんな気持ちを抱えたまま仕事をセーブしていた時期だったので、声をかけられたときに逃げてしまったんだと思います。でも、こんなイメージのまま活動をフェードアウトしてしまうのは嫌でした。胸を張って「大塚愛です」と言えるようになりたい、とアーティスト活動を再開することにしました。休業期間をはさんだことで「こういうイメージが求められているはず」という商業的な感覚をリセットできたことは結果的によかったです。復帰後は何よりやりたい楽曲を追求しました。ビジュアルに関しても「元気でナチュラルな感じ」を求められてきたのですが、復帰後はあえて髪をばっさり切ってモードな印象のパーマスタイルのショートに。

 

自分の「定番」は決めすぎないほうがいい

──VERY読者は育児や仕事などで大忙しの人が多いです。自分のことは後回しで、以前は好きだった趣味やファッションにも時間やお金をかける余裕があまりないので自分の「好き」を見失ってしまうという声も……。

そうですね、復帰後はヘアスタイルを変えましたが、いまだに髪型は模索していて、しっくり着地したことはないかもしれない(笑)。ファッションについては、Acne Studiosと出会ってから好きなテイストがはっきりしました! お買い物でよくチェックするのは、メゾン マルジェラ、sacai、AKIRANAKA、N°21、マルニなど。とはいえ、最近は、もはや「私はこれ」と決めずに日々アップデートし続ける状態がいいんじゃないかな、という境地に至っています。髪型もファッションも「自分らしいって、こういうこと」と決めつけてしまうと、実はテイストが古くなっているのに新しいスタイルに挑戦できない……みたいなことにもなりかねないと思っています。

 

実は堅実派。曲が売れてもブランド品が買えなくて……

──ファッション好きは昔からですか?

若いころ、ファッションについては自分がしっくりくるテイストがよくわかっていなかったし、堅実な感じだったと思います。今日は大好きなステラ マッカートニーの靴を履いているのですが、20代のころはいくら好きでも恐れ多くて履けなかった(笑)。ブランドものを気軽に身につける金銭感覚で生きてこなかったし、いつ仕事がなくなるかわからないし、そもそも一人っ子だから親の老後も心配で。むやみにお金を使うのが怖い、と本気で思っていました。当時は税理士さんに「なんでも節約すればいいわけではないですよ。必要なことにはちゃんと使ってください!」と怒られたりしていましたね(笑)。

 

育児中の自分の姿を重ねた曲

──ご自身の30代を思い返して、「これをやっておけばよかった!」と思うことはありますか?

30代は子育て中心だったのですが、私自身、「育児がつらい」という感覚はあまりなかったんですよね。体力的にキツいことはありましたが、育児って他人の「正解」や「教科書」が我が子には当てはまらなかったりするものですよね。「これで合っているのかな」と試行錯誤する不安はあったけれど、30代は子育て以外にとくにやりたいことがあまりなかったかもしれないです。復帰後にリリースした『Re:NAME』という楽曲は、「探し求めていたゴールは、子どもに会うことだった」といった思いを歌詞にしました。「これをやっておけばよかった」と思い返すのはもっと若いころのことですね。今思えば時間のあるあのころに思い切って海外に留学すればよかったです。

PROFILE

大塚愛(おおつか・あい)
シンガーソングライター。1982年生まれ。『さくらんぼ』『プラネタリウム』など多数のヒット曲を⼿がけるほか、楽曲提供や絵本制作、イラストレーション、⼩説を寄稿するなどマルチな才能を発揮。近年では油絵を本格的に描き始めるなど精⼒的に活動中。

この夏、大塚愛さんが初の個展を開催!

AI OTSUKA 20th ANNIVERSARY ART EXHIBITION AIO ART

期間:2024年7⽉18⽇(木)〜7⽉29⽇ (月)

スパイラルガーデン(東京都港区南⻘⼭5-6-23 スパイラル1F)※⼊場無料

【⼤塚愛さんからのmessage】

⾔葉とメロディを使って20年以上作品を創り続けてきた中でメロディから⾒える景⾊、⾔葉から⾒える神気をそれぞれ細分化し、表現したく今に⾄りました。そうすることでまた新たな⼀⾯や物語をぜひ観ていただけたらと思います。

取材・文/亀井ゆりこ

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