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H3ロケット3号機打ち上げ成功 本格運用へ「キラリと光る技術」を磨け!

  • 2024.7.19

「報道部畑中デスクの独り言」(第375回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は「H3ロケット」について――

H3ロケット3号機打ち上げの瞬間(JAXA YouTubeから)
H3ロケット3号機打ち上げの瞬間(JAXA YouTubeから)

7月1日昼過ぎ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の次世代主力ロケット、H3ロケット3号機が鹿児島県・種子島宇宙センターから打ち上げられ、打ち上げは成功しました。

昨年は1号機が失敗し、光学衛星「だいち3号」を失いました。リベンジを期して2号機は今年2月、ダミーとなる模擬衛星と技術実証用の超小型衛星を搭載して打ち上げに成功。そして今回は地球観測衛星「だいち4号」を搭載しての挑戦でした。打ち上げから約16分後、無事衛星を所定の軌道に送り届け、管制室は喜びと安堵に包まれました。

「ロケットとしてはほぼ完ぺき。100点満点でまさに100点の打ち上げだった。連続成功あるのみと申し上げたがその第一歩が踏み出せた。ただ、これを続けていかないと意味がない。油断することなく、1機1機ロケットを着実に打ち上げていくことが必要と思っている」

記者会見する有田誠プロジェクトマネージャ(JAXA-YouTubeから)
記者会見する有田誠プロジェクトマネージャ(JAXA-YouTubeから)

ロケット開発責任者の有田誠プロジェクトマネージャ(以下プロマネ)は記者会見で、晴れやかな表情に語るとともに、今後について改めて表情を引き締めました。

実衛星を積んだ3号機の成功で、H3ロケットはいよいよ本格運用に乗り出します。しかし、様々な課題が待ち受けます。

一つはコスト。H3ロケットは部品に民生品を活用するなどして、打ち上げコストをH2Aの半額の約50億円に抑えたとされていますが、価格競争は激しく、アメリカは再使用型ロケットで価格破壊を進めています。

もう一つは“場数”。信頼性や技術の進歩は多く打ち上げることで培われますが、日本のロケットの打ち上げは種子島宇宙センターなどの鹿児島県に現状限定され、回数は年間6回、がんばっても8回。一方、2023年の打ち上げ回数でアメリカは108回でその中でスペースXが96回と、民間移譲が進んでいます。中国は68回、インドは7回を数えます。このような中で、場数を稼ぐには、将来的に新たな射場を建設するか、民間射場を活用するといった方法が考えられますが、現状はなかなか厳しいものがあります。「続けていかないといけない」という有田プロマネの言葉はまさに打ち上げ回数において、厳しい現状を示しています。

こうした中で活路があるのか……やはり、「技術」への期待になるのではないかと思います。私が注目するのは「スロットリング」という技術。今回3号機で初めて実証されました。これは第一段エンジンの燃焼途中で推力を絞るという機構です。推力が一定の場合、エンジンの燃焼が進むと燃料を消費する分、重量は軽くなるため、機体の加速度が大きくなります。すなわち、搭載している衛星に大きな負荷を与えることになります。これを抑えるのがスロットリングという技術です。JAXAによると、推力を絞るのは第一段エンジン燃焼の最終段階の20秒間、約66%=3分の2に抑制され、これにより、世界標準で5.5Gの加速度が4Gちょっとに抑えられるということです。

「衛星にやさしいロケットにする」

有田プロマネはこの技術の意義を強調しました。

衛星を軌道投入し、喜びにわく総合指令棟(JAXA YouTubeから)
衛星を軌道投入し、喜びにわく総合指令棟(JAXA YouTubeから)

思えば、こうした技術はまさに日本の「お家芸」と言えます。いささか古いですが、クルマの世界で思い出すのが、富士重工業(現・SUBARU)が製造していた「サンバー」という軽自動車のバン。現在はダイハツ工業によるOEM (他社ブランドの自社生産)の供給を受けていますが、自社生産時代のサンバーは、サスペンションに軽バンしては高度な四輪独立懸架が採用されていました。特に初代は、軽バンはおろか乗用車にもほとんどなかった機構です。ソフトな乗り心地とともに、「豆腐の角が崩れない」と評判になり、豆腐屋さん御用達のクルマになったとか。私も小さいころ、豆腐屋さんのサンバーが農道を走っていたのを見たことがあります。まさに積み荷にやさしい技術です。ちなみに、初代サンバーを開発した百瀬晋六さんは航空エンジニア出身です。

また、国際宇宙ステーションに物資を運ぶ日本の補給機「こうのとり」では、新鮮な果物を「ボーナスフード」として宇宙飛行士に届けることがありました。そこで驚いたのはぶどうの輸送。ひと粒ひと粒が個別に梱包され、粒は枝の部分をわずかに残して一つ一つはさみで切ることで果汁が漏れないよう工夫がされていたそうです。ちなみに他国の補給機ではまとめてプラスチックバッグに入れられるため、宇宙ステーションに到着するころには果肉がつぶれて“ジュース”になっているケースもあったとか。

もちろん、これらはスロットリングの技術とは事情を異にしますが、「ユーザーに寄り添う」という意味では根っこは同じ。日本ならではの「技術」であり、ロケットによる輸送サービスにも必要な発想だと思います。

ロケット発射の“場数”が限界がある中、日本の活路は、こうした「キラリと光る技術」を磨くことではないでしょうか。スロットリングの技術は大いにその資格があると思います。ロケット輸送の分野で日本が存在感を示せるかどうか、注目していきたいと思います。

(了)

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