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「走る」三浦春馬を観て、考えること。

  • 2024.7.18

おそらく、歩く・走ることは哲学的に問いかけられやすい人間の行為のひとつだ。パリ五輪を目の前にして、身体性への興味が高まってゆく2024年夏、2007年の映画『奈緒子』を観た。

小学校高学年の奈緒子は、ある日、両親とともに長崎の島を訪れて漁船に乗る。奈緒子が船上から海際の道を走る晴れやかな少年の姿に見惚れていた時、風に飛ばされた白い帽子に気を取られ海に落ちる。それを助けようとした漁師は奈緒子を救出後、海で命を落としてしまう。亡くなった男はかつて駅伝ランナーで、その息子である壱岐雄介は、奈緒子の視線を惹きつけた走ることが大好きな少年だった。悲しい事故で知り合ったふたりが再会したのは高校生になってから。陸上の大会に来た雄介(三浦春馬)と奈緒子(上野樹里)を、雄介が所属する波切島高校陸上部の監督(笑福亭鶴瓶)が引き合わせる。

三浦春馬演じる雄介はメディアにも取り上げられる高校陸上界の注目のランナー。短距離でも活躍を期待されているのに、亡き父親とも親交があった鶴瓶演じる監督は、団体で勝負する駅伝に雄介と奈緒子の人生を巻き込み、人間としての成長のきっかけを促そうとする。

速く走る・長く走る・競歩に挑戦する、という競技化されたことは別として、走ることや、歩くことは、たいていの人にとって普通に簡単にできる行動、と思われがちだろう。

でも、足を前に出す・地を蹴って速度をアップする、このシンプルな動きも、本能的に秀でているかどうかは、個人個人の運命に組み込まれているんじゃないだろうか、と、アスリートを観るたびに感じてしまう。なぜなら、スポーツの達人が魅せてくれる競技や演技は衝撃を受けるほどに美しいから。

雄介を演じている三浦春馬の走るフォームも綺麗だ。もちろん作品のためにレッスンをきちんと受けたと想像するけれども、すっと伸びた姿勢、腕の動き、脚の運びやリズム感、どれもが伸びやかで美しく、齢16、17歳だったであろう三浦春馬が自身と同じ年齢を演じていたこともあって、とてもナチュラルだった。

アイドルや俳優、特にスクリーンをとおして眺める対象である著名人は、顔の印象が強くなりがちだけれど、この作品のように肢体を出し、シンプルな動きを引きの映像で映されることは、本来の身体能力レベルや全身のバランスが役柄と合っていないと難しいと思う。その意味で年齢を経てダンスにも挑戦していた三浦春馬は、やっぱり身体能力がもともととても高い人物だと確信した。

肩のラインが直角的にシャープで、後ろ姿を見れば「天使の羽」肩甲骨がクリアに出る体形だった彼は、ジャケットやスーツの着こなしもスマートだ。

本作は、演技派俳優として羽ばたく直前の若手俳優がたくさん出演していた意味でもとてもユニークだ。奈緒子を演じた上野樹里はもちろん、綾野剛、柄本時生まで。現在は出演作で作品の意義を背負う重要や役どころを背負う演者たちがみずみずしい姿を見せた、「走る映画」。

2007年頃、青春映画はいまほど神経質ではなく、ストーリーも明快で登場人物同志の妬みすら真っすぐに描かれていた。そんな時代の空気感を感じられるのもよかった。

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『奈緒子』
●監督・共同脚本/古厩智之
●出演/上野樹里、三浦春馬、笑福亭鶴瓶、柄本時生、綾野剛ほか
●2007年、日本映画
●本編120分
●DVD ¥4180 発売:日活、小学館 販売:アミューズソフトエンタテインメント
Amazon Prime Video、U-NEXTなどで配信中
©2008 坂田信弘・中原裕/「奈緒子」製作委員会

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