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増加するメンタルダウン。プチ不調を悪化させない、心と体の整え方

  • 2024.7.18

現代人が抱える、メンタル不調の理由

性別、年齢を問わず、メンタルの不調を抱える人は増加傾向にあるようだ。その原因と対策について、スポーツ心理学者の荒木香織さんが解説する。

「要因の一つが、コロナ禍を経てリモートワークが増えたこと。上司や同僚に気軽に相談しにくく、一人で考え判断せざるを得ない状況の中で、前向きに仕事に取り組むというの は難しいもの。メンタルヘルスで一番大事なのは、周囲のネットワークや周りからのサポートなのです」

〝個〞が尊重される時代は大歓迎だが、縦横のつながりが薄くなり孤独感と背中合わせなのだ。とはいえ、 生きていれば心のアップダウンがあるのは当然。

Photo_ Boonchai Wedmakawand/Getty Images
Photo: Boonchai Wedmakawand/Getty Images

「メンタルヘルスの状態というのは、単純に〝いい、悪い〞で判断できません。わかりやすくいうなら、0から100で表すと、この辺り、のような段階的なもの。 心の健康を維持する上で大切なのは、生きるための基本である、食べる、寝る、運動する、という3要素。運動は、週1〜2回、 分程度、有酸素運動と筋力をつけるための無酸素運動、両方できれば理想的です。 そもそも食生活が乱れている、睡眠が不規則で時間が短い、まったく運動しない、という人は、メンタルヘルスに問題を抱えるリスクが高いと心得ましょう」

プチ不調を超えて。気をつけるべき

メンタルブレイクダウンのサイン

「あくまでメンタルイルネス(精神疾患)を発病していない状態が前提ですが、個人差はあるものの、何もやる気が起きない、会社や学校に足が向かない、今までできていた仕事が時間内にできないなど、普通であれば機能することが機能しなくなっていたら、注意が必要。慢性的な疲労感も兆候の一つです」メンタルにダメージを受けて心が疲弊しているときは、高い目標を掲げなくていい、と荒木さん。

「辛いときに鞭打って追い込むのは逆効果。肉体的にも消耗し、できなかった自分にもがっかりします。メンタルを良好に保つには、自分自身にどれだけ共感できるかが重要なので、まずは自分を理解する力をつけましょう。自分がどんな人で、何をすれば心地よく過ごせるのか。〝みんなと仲良く〞と教育されてきましたが、自分を傷つける人と一緒にいる必要はありません」

さらに、メンタルが落ち込んだときの行動についても言及。「メンタルが落ちているときは徹底的に自分に優しく、自分が心地いいと感じることを優先する。それが深い落ち込みを防ぎ、なるべく早く回復する秘訣です。食事は一日2食でもいいし、炭水化物多めでもいい。偏った食事をいかに少なくできるか。通勤や買い物でちょっと長く歩いたり、エスカレーターを階段にしたり、ペットボトルを持ち上げたり、軽いストレッチをしたり。無理のない範囲でできることを意識して」

Photo_ d3sign/Getty Images
Photo: d3sign/Getty Images

在宅ワークで、気づけば一歩も外に出ない、太陽に当たらないまま一日が終わる環境もマイナス要因だ。

「日照時間が短いと抑うつを引き起こしやすいという研究結果もあるほど、太陽はメンタルにプラスの影響を与えます。リモートでもオフィスでも、デスクワークは太陽に当たる時間が少ないので、可能なら窓際の席で仕事をしたり、ランチタイムには外に出て20分太陽を浴びたりする工夫を」

ただし、さらに症状が進んだら、自力で頑張るのではなく、プロに相談することを選択肢に入れたい。

「眠れない、食べられない、朝起きられない、仕事も手につかない、という状態が3週間ほど続いたら、手遅れになる前に、専門家のカウンセリングを受けて。深刻な場合は薬で楽になるケースもあります」

助けてもらう、教えてもらう。

周りのサポート環境を整える

仕事をしていれば、不安やプレッシャーもあれば、プレゼンや営業がうまくいかないこともある。その心の迷いをどう乗り越えればいいのだろう。

「わかりやすい例で言うと、ラグビーの元日本代表、五郎丸選手がキック前に行っていたプレパフォーマンス・ルーティン。あれは一連の動作に集中することによって、入らなかったら、ミスをしたらなど、ネガティブな思考が入り込む時間を与えない、という意味が あるのです。また、適切な準備をすることが、キックの成功に繋がります。それが、今すべきことを遂行する力になるのです」と荒木さんは語る。

「仕事と競技は違いますが、不安があるなら、プレゼンの資料を見直す、誰かに確認して もらうなど、前向きな行動を選択します。こういうときこそ、冒頭で説明したように、サポートしてくれるネットワークが必要。車だけ与えられても、運転の仕方を教えてもらわない状態のままでは事故が起こりますよね。教えてください、助けてくださいと声を上げて、働きやすい環境を整えれば、スキルアップにもつ
ながるはず。また結果が出なかった場合、真面目な人ほど努力や能力が足りない、と自分を責めがちになっ てしまうのですが、客観的に、そして楽観的に物事を見る力を養いましょう」

Dr.KAORI ARAKI

荒木香織。スポーツ心理学者・博士。CORAZONチーフコンサルタント。順天堂 大学スポーツ健康科学部客員教授。米国の大学院でスポーツ運動心理学、女性ジェンダー学を専攻。ラグビー男子日本代表を始め、数々のスポーツチーム、トップアスリート、指導者、企業へのコンサルテーションを提供。

Photography and Creative Direction: Luca Meneghel Model: Nabila Lorini Text by Eri Kataoka Editor:Misaki Kawatsu

※『VOGUE JAPAN』2024年8月号「影響し合う、心と体のヘルシー学」転載記事。

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