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父親である夏(目黒蓮)の他人事感。「憧れ」だけでは家族になれないのか 『海のはじまり』3話

  • 2024.7.18

目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。第3話、初めて3人で出かけた夏・海・百瀬弥生(有村架純)の様子から、言葉にしにくいほころびの予兆が感じ取れる。

「楽しかった」を強調した弥生の意図

夏の元恋人である水季が働いていた図書館へ、夏、海、そして弥生は、3人で出かけることになった。そこで時間をともにして、夏とともに無事に南雲家へ海を送り届けた弥生は「楽しかったです」と口にする。それを聞いた水季の母・南雲朱音(大竹しのぶ)は「楽しかった? そう」と違和感を隠しきれない。

振り返れば弥生は、図書館最寄りのバス停から歩いている時も「これ、写真撮ってほしいやつだ」「3人の、この感じ。絶対、憧れのやつになってる」と口にしていた。妊娠するも中絶手術をせざるを得なかった彼女にとって、子を持ち、家族でお出かけするシチュエーションは、強い憧れとなって心にこびりついていたのだろう。

家族を持つことに対して、無邪気に憧れを口にする弥生。何度も「楽しかった」と強調する弥生。それに対し、朱音は「あの子、私お母さんやれますって顔してた」と評する。

朱音から弥生に対する感情を一言で表すなら、彼女が率直に口にしていたとおり「悔しさ」なのだろう。仮に今後、夏が父親として海を引き取り、弥生とともに「家族」になることを決意したとしても、おそらく朱音の懸念は晴れない。そこに、水季がいたはずだったのに、と惜しむ気持ちは、夏や弥生がどれだけ心を尽くそうとも、消化されることはないのかもしれない。

それでも朱音が、海の行動を制限せず、夏や弥生との接触を許しているのは、ひとえに亡くなった水季が残していった言葉を尊重しているからだろう。正解を教えるよりも、海本人に選ばせることを重視しているからこそ、夏や弥生が世間的にはどんな立ち位置にいるかを懇切丁寧に諭すことはない。最終的な決断を海に任せることは酷かもしれないが、それは海を一人の人間として扱っている証左でもある。

しかし、朱音は繰り返し思うだろう。悔しい、と。楽しさや憧れだけでは家族にも、母にもなれるわけがない、と。

どこまでも海と対等な夏の言葉

水季から妊娠を知らされたとき、夏は「ほかの選択肢はないの?」と尋ねたが、積極的に「産んでほしい」「父親になる」と決断することはなかった。彼は海と再会したあとも、自身と血のつながった娘と相対しているにも関わらず、どこかぎこちない距離を保っている。意思表示が上手ではない夏の人となりを表している場面でもあるが、あまりにも“他人事感”が過ぎるのでは、という厳しい見方もあるかもしれない。

夏の態度は吉と出るか、それとも凶と出るか。その一つの答えが、3話で示された。母である水季が亡くなった事実に対し、目立って悲しむ様子のない海に対し、夏が「なんで元気なフリするの?」と問いかけるシーンだ。

「元気ぶっても意味ないし」「悲しいもんは悲しいって吐き出さないと」などと、繰り返し夏が海に語りかける。その様子は、自身の子どもに対するよりは、大切な存在を失った同志に向けて投げかけているように聞こえた。

自分が海の父親である、という自覚があれば、もっと違った言い方を選ぶのではないか。夏の言葉は、どこまでも海と対等だった。「がんばって元気にしてたんだよね、えらいよ」と褒めながらハンカチを差し出す弥生とは、根本的に違う姿勢だった。

涙を拭うためのハンカチよりも、つっけんどんに響く言葉を選んだ海は、夏のもとにかけ寄り、抱きついて泣いた。彼女はのちに、夏に対して「パパやらなくていいよ」と言う。このことからも、本心では夏が父になることを望んでいない可能性が示唆されるのではないか。

海のセリフから見える本心は?

海が自身の娘であること、血のつながりがあることを、少しずつ腹に落とし込んでいるように見える夏。「父親になる」と即答しない彼の姿勢には曖昧(あいまい)さもあるが、海と過ごす時間を積極的に増やそうとしている態度は、誠実にも映る。

3話の終盤、夏は海に「パパ、いつ始まるのって聞いてくれたけど、始めてほしいってこと? パパになってほしいってこと?」と問う。それに対する海の答えは「ううん。夏くん、パパやらなくていいよ」だった。

今後の二人の関係性を、豊かに想像できるやりとりだ。夏の海に対する問いかけは、海の意思を尊重する姿勢を表しているが、逆を返せば「自分では決断できない」という彼の優柔不断さが発露した結果でもある。そんな夏に向けて海は、パパにならなくてもいいけれど「いなくならないで」と要求するのだ。

海が求めているのは、父親という存在ではなく、水季が生前繰り返し話題にしていた「夏くん」なのだろう。夏は夏のまま、そばにいることだけを望んでいる。

それは新しい親子の関係を予感させるが、それではますます「新しい母親」となり得る弥生の立ち入る余白が、見当たらない。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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