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亡き母との約束、恩師と地元に恩返し トップセールスマンが夢見たサンドイッチ屋さん

  • 2024.7.18

それぞれの朝はそれぞれの物語を連れてやってきます。

会社を辞めてサンドイッチ屋さんを開いた方のお話です。

黄色を基調とした店内
黄色を基調とした店内

芝宮利明さんは、56歳。足立区に生まれ、小学生の頃は野球少年でした。野球ばかりして勉強が全くできず、それを心配した少年野球の監督が、芝宮さんの母親に「うちで学習塾をやっているから通わせなさい」と言ってくれました。

少年野球の監督をしながら、アパートの一室で塾を開いていた高月壮平先生は、地元では知られた教育者でした。

その先生の指導もあって、成績がぐんぐん上がっていく。勉強が面白い!

とくに算数がすらすら解ける。「この子は算数だけなら開成にいける」と高月先生が驚いたほどでした。

地元の中学から早稲田実業に合格した芝宮さんは、もうその頃から商売に興味を持っていて、いつか自分も事業を起こしたいと思っていました。

早稲田大学に進み、いざ、就職となったとき、これからは、女性が活躍する時代が来る……と思い、京都に本社があるワコールに入ります。計算が得意な芝宮さんは、販売で頭角をあらわし、社内トップの最優秀セールス賞にも輝きました。

「とにかく販売が好きでしたね。どうしたら売上を伸ばせるか、実績を上げることに、大きなやりがいを感じていました」

その後、大阪支店長、東京支店長を経て、子会社の代表取締役に就任。そんな芝宮さんが「会社を辞めてサンドイッチ屋さんを始めたい」と家族に打ち明けたのは1年前のこと。驚いたのは妻と3人の子供達でした。

長女が大学生、長男が高校生、次女が中学生。まだまだ教育費がかかります。

「あと5年で定年なのよ。それからお店を始めたっていいじゃない」

妻の気持ちも分かりましたが、芝宮さんの決意は揺らぎませんでした。なぜ、サンドイッチ屋さんを開きたいのか……それは、いまは亡き母との約束がありました。

芝宮さんの両親は足立区綾瀬で「サンドーレ」というサンドイッチ屋さんを営んでいました。大きなショーケースに並んだサンドイッチが、毎日完売する繁盛店でした。しかし、父親が商売を広げたことで多額の借金を抱え、繁盛していたお店も手放すことになってしまいます。

父親はすっかり自信を失い、働く意欲もなくなって、家族を残したまま、生まれ故郷の山梨へ引っ込んでしまいます。ここで頑張ったのが母親でした。朝から晩までお弁当屋さんで働き、二人の息子を育て上げました。

「苦労をかけた母に、楽をさせてあげたかったんですが、私が32歳のとき、胃がんが見つかり、そのときはもう手遅れでしたね」

病床に伏す母親が、芝宮さんを呼び、こう打ち明けました。

「あんたは一生、高月先生に恩返しをしないといけないよ。あんたの塾代は一銭も払っていないんだからね。頑張って勉強しているあんたを見て、タダでいいって、先生が言ってくれたんだよ……」

その言葉を残して、母親は66歳で亡くなりました。母親の葬式に参列した高月先生にお礼を言うと、「そんなことあったかな、覚えてないな」と微笑んでいたそうです。

先生に恩返しをすることは、地元に恩返しをすることだと芝宮さんは、このとき、決意します。

いつか自分も子供たちに勉強を教えよう。大好きな野球も指導しよう。そして両親が仲良く働いていたあのサンドイッチ屋さんを開こう。その想いを、ずっと心に抱いていました。

サラリーマン時代は、単身赴任が続きました。長男が甲子園を目指す高校球児になったことも、地元に戻ろうという思いを強くさせました。芝宮さんは、数年前から仕事の合間を見て、サンドイッチの人気店を食べ歩き、時には経営者に商売のコツを聞き、少しずつ、開業の準備をしてきました。

お客さんがいろいろと選べるようにすべて一個入りのサンドイッチ
お客さんがいろいろと選べるようにすべて一個入りのサンドイッチ

そして昨年55歳で退職し、今年3月13日「サンドイッチの日」に、念願のサンドイッチ屋さんをオープンしました。

野球の室内練習場をイメージした外観
野球の室内練習場をイメージした外観

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店内のショーケース前は、ホームベースとバッターボックス
店内のショーケース前は、ホームベースとバッターボックス

お店の名前は、芝宮さんの思いを込めて『サンドイッチ 寺子屋野球部』。場所は、京成「堀切菖蒲園駅」から歩いて2分。店内に入ると、サンドイッチが入ったショーケースが目の前にあって、お客さんが立つ位置は、なんと、ホームベースとバッターボックスです。

寺子屋スペースで自習をする子供たち
寺子屋スペースで自習をする子供たち

壁は鮮やかな黄色を基調にして、ボールの白、芝生の緑で彩られています。お店の奥が寺子屋スペースで、学校帰りに宿題をしたり、芝宮さんに勉強を教わったり、置いてある野球漫画を読んだり、自由に過ごせます。

先日、ワコールの元副社長がお店に訪れて、こう激励してくれました。「君、知ってるかい。カーネル・サンダースは、65歳で起業したんだ。君はまだ若い。サンドイッチの世界で、トップを目指しなさい!」

『サンドイッチ 寺子屋野球部』は、朝7時オープン。4時半から、夫婦で仕込みが始まっています。地元に必要とされて、愛されるお店を目指して、芝宮さんは、全力でストライクを投げ続けます。

○『サンドイッチ 寺子屋野球部』
【住所】東京都葛飾区堀切4-58-20
【営業時間】火曜日〜土曜日・午前7:00〜 売り切れ次第終了(定休日:日曜日・月曜日・祝日)

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