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京都・みうらじゅん展に見る「人の一生」、物を買うことの重要性

  • 2024.7.16

「世の価値観では計り知れない無駄な熱量と物量。ただ呆れただけでは帰しませんよ。『人の一生って何なんだろう?』そんな深いことをお考えになっても構いませんよ」──現在、京都で開催中の『みうらじゅんFES マイブームの全貌展』にコメントを寄せたみうら氏。この展覧会から何が見通せるのか、その答えは見る者の感性に委ねているようだ。

「コロナ画」のはじまりのエピソードを話すみうらじゅん氏(13日・京都市内)

ならば。開幕直前の7月13日朝、報道陣に向けて語られたご本人のことばを手がかりに考えてみたい。

■ 好き嫌い関係なく集めて、さらに好きになろうと(みうら)

これまでに人生で影響を受けたものを絵にした、144枚のいわば走馬灯(13日・京都市内)

ツアーと称してロックバンドのテイで各地を回っている『みうらじゅんFES』。これまでに茨城県、宮城県、富山県など日本各地で開催してきた。その間も収集と創作は続き、展示品は開催のたびに増え続けている。コロナ禍に描きはじめた「コロナ画」は、2021年冬に「アサヒビール大山崎山荘美術館」(京都府乙訓郡)で開催された「みうらじゅん マイ遺品展」では55枚だったのが、2年半を経て144枚に。バンドの大所帯化が進んでいる。

メンバーを総動員してツアーを回ることについて、みうら氏はこう話す。

「この展覧会の趣旨のひとつに『倉庫にいてほしくない』というのもちょっとあったんですよね。ぼく倉庫を2つ借りてるんですけど、『戻ってきてほしくない』って気持ちがあります。巡回は途切れるけど、ツアーは夏のあいだずっと、とかいうイメージがあるから」。

収集品の保管場所として借りている倉庫にいてほしくない。つまり収集したものに愛着はなく、一定の距離を保っているようだ。実際のところ、好きで買い集めているわけではないと強調する。

「別にナントカのコレクターじゃないんですよね。とあるジャンルのなかの、ないジャンルを勝手に作って、勝手にあるように見せる商売なんで。ほしくないものを無理して買って、無理して好きになる。自分洗脳ですよね」。

人生ではじめて好きじゃないものを無理して買った、大学時代の「牛ブーム」

その、「好きになり方」についても、独自の感性がはたらく。

「そのものの、ではないことが好きなんで。小学生の時に奈良の興福寺で見た仏頭も、『加藤登紀子に似てる』ってことを友達にすごい言いたくて。格好いいとか、何かに似てるとか、言葉の響きとか、ちょっと気になるところがあると、とりあえず好き嫌い関係なく集めたりすることで、さらに好きになろうって思ってるんですよね」。

自分の琴線に触れたこと—自分の中だけにあって世の中にはまだないブームを広めて、「ない」を「ある」にしていく。その活動の結晶が、倉庫に「ある」ことが嫌になるほどの物量なのだ。

時たまポストに入るマグネット広告も、これだけの数が冷蔵庫に貼られると急に価値が生まれる

■ もはや無我の境地?旅先で「いやげ物」を見つけたとき…

好き嫌いに関係なく買い集めた、欲しくもない物たち。いくら自分を洗脳しているとはいえ、いざ身銭を切る時にはその心身のどこかが痛まないのだろうか。あるいは、ふと我にかえったりしないのだろうか。率直にその疑問を投げかけてみると・・・。

「ぼくは例えば、旅先で『いやげ物』を見つけたときは、すぐ手に取って、もうすぐレジに行く。自分に疑問を与えないっていうか。それは一応『レジスタンス運動』って呼んでるんだけど」。

もはや無我の境地。なぜそこまでして、「ない」を「ある」にすることに全身全霊をかけるのだろう。

「好きなことって、高校ぐらいまではあっちから飛び込んできてるような感覚があったんですけど、もう上京してからはそれを期待してても来ないことが分かった。定年後に『趣味がない』って悩んでる人もいるけど、もうあっちからは飛び込んでこないんですよ。こっちから行くために、好き嫌いをまず排除して、とりあえずちょっと気になっただけでも、モノを買わないとダメなんです。モノを買うと、やっぱり頭の中で『元を取りたい』っていうような貧乏根性がたぶん働くんだと思うんです」。

仕入れ値が分からないほどのデッドストックだった木彫り像はふっかけられて高額で購入する羽目になったので20本以上もの記事にしたという

ぼんやり待っているだけでは、「ない」は「ない」のまま、好きなことには永遠に出合えない。なんだか恐ろしく虚しい人生の末路を見た気がした。貧乏根性を原動力に「ない」を「ある」にしていくことで、暇と人生を持て余すことなく生きられるのかもしれない。「ないとき」より「あるとき」の方が断然いいことは、有名な豚まん屋さんが証明している。

そして、みうら氏にやや恐縮しながら、どうしても聞きたかった質問──「今回の京都滞在で収集がはかどったマイブームはあったのだろうか?」を投げかけてみた。すると、「またですか!?」と罵りながらも気前よく答えて下さった。

「えっとね、昨日は松葉に『にしんそば』を食べに行った。本店の方にね。それぐらいですかね」。

あの味のある建物がまぶたの裏に浮かぶ。口がにしんの甘辛い味を欲したが、今から祇園まで行くのは正直しんどい。「京都駅ビル」内のお店へ駆け込んで空腹を満たし、こちらから飛び込んでいく生き方に思いをめぐらせた。お腹をいっぱいにしてお店を出たとき、わたしの手は会期中限定のオリジナル「冷マ」を握りしめていた。

1000円以上の飲食と展覧会チケットの提示でもらえるオリジナル「冷マ」は対象店舗ごとにデザインが異なる

『みうらじゅんFES マイブームの全貌展in京都』は7月13日から8月25日まで、京都駅ビルの美術館「えき」KYOTOで開催。チケットは当日一般1000円ほか。会期中は駅ビル内の各所にフォトスポットが設置されたり、新作ポスターの展示がおこなわれている。

取材・文・写真/脈脈子

『みうらじゅんFES マイブームの全貌展in京都』

期間:2024年7月13日(土)~8月25日(日)
時間:10:00~19:30(最終入場19:00)
会場:美術館「えき」KYOTO
京都市下京区烏丸通塩小路下ル東塩小路町 ジェイアール京都伊勢丹7階隣接

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