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パパ活、トー横キッズetc.……。セーフティネットからこぼれ落ちる10代、20代女性たちの抱える“生きづらさ”【前編】

  • 2024.7.15
筆者の取材に応じるBONDのメンバー。街頭で声かけをするときに気を付けていることなどについて教えてくれた。
筆者の取材に応じるBONDのメンバー。街頭で声かけをするときに気を付けていることなどについて教えてくれた。

6月某日、午後8時過ぎの池袋駅周辺の歓楽街。携帯を片手に、誰かとの待ち合わせ場所へひとり足早に向かう若い女性。そんな彼女のことを気にかけ、特定非営利活動法人BONDプロジェクト(以下、BOND)のメンバーである22歳のサクラと28歳のレイアは、後を追ってこう声をかける。

「こんばんは。BONDプロジェクトです。女の子の悩みを聞いています。もしも困ったことがあったら、ここに連絡してみてね。メルト(MELT)という昼間の居場所もあるので、よかったら」

自然と対話をしながら、BONDのカードと、メイベリン ニューヨークMAYBELLINE NEW YORK)のアイライナー、リップなどのコスメが入った袋を女の子に渡す二人。BONDのメンバーたちは、週に3回、こうして歌舞伎町や渋谷、池袋でひと晩に40〜50人に声かけをする。苦しい気持ちを抱え、一人で悩む“女の子”を必要な支援に繋げるための街頭パトロールだ。

サクラとレイアも、かつて助けを求めてBONDにたどり着いたひとり。16歳のときに初めてBONDにメールを送ったサクラは、家庭環境のことで悩み、自傷行為や病院への入退院を繰り返してきたという。そんな中、「生きててほしい」とBONDのスタッフに言われた言葉が胸に強く残り、「昔に比べて、今はちょっとポジティブになった。自傷行為をしたくないと思える」と話す。21歳のときにDVから逃げてきたレイアは、「大人はみんな殴ったり怒ったりするもんだと思っていたから、最初は相談することが怖かった」と、当時を振り返る。それから、BONDのシェルターで過ごすうちに、自分の置かれていた状況が普通ではなかったことに気がついたという。そんな二人は、言葉では言い表せないような苦しみの中を紆余曲折しながらも、時間をかけて自分と向き合い、新たなる一歩として、今は過去の自分の姿と重なる女の子たちに手を差し伸べる。

「死にたい」「消えたい」──社会から見過ごされてきた少女たち

2009年に始動した本プロジェクトは、10代、20代の女の子たちを支援先と繋げたり、相談できる場を提供するために、街頭パトロールのほかにも、電話やLINEなどの相談窓口を設け、SNSやインターネット検索などを通じたアウトリーチにも力を入れている。そしてつながった女性たちと話し、面談し、必要であればシェルターで一時保護し、医療機関や他の支援団体などと連携しながら、次のステップを踏み出せるよう寄り添いそっと背中を押す。メイベリン ニューヨークは、若者のメンタルヘルスを支援するプログラム「ブレイヴ トゥギャザー(BRAVE TOGETHER)」の一環として、2020年からBONDとパートナーシップを組み、寄付金と製品の提供を行うなど多角的に活動をサポートしている。

2022年4月から2023年3月の間に、BONDに寄せられたLINE相談の件数は27,473件。さらに、メール相談は8,117件、電話相談は2,227件などと、全国からさまざまな悩みを抱えた女性からSOSの声が届く。「親といるのがしんどく、家出した」「家族から虐待を受けている」「愛されなかったのは、自分のせいだ。死にたい」「寝泊りするネットカフェ代のためにパパ活をする」「妊娠した。相手の男性に逃げられた」「何年もその日暮らしをしていて、すごく疲れた」「もう何日も食べていない」「一人だと思ったら苦しく、オーバードーズを繰り返している」「消えたい」等々。まだ10代になったばかりの小学生から、行くあてもなく歌舞伎町をさまよう未成年、DVに悩む女性、困難な状況にある子育て中の母親まで、状況は一人ひとり違えど、社会から見過ごされてきた若者が置かれている現状は深刻だ。

15年もの歳月をかけて、女の子たちの生きづらさと向き合ってきたBOND代表の橘ジュンに、その背景にあるものから、今こそ社会に求められていることまでを聞いた。

10代で人生をリセットしに東京へ。セーフティネットからこぼれる子どもたち

フリーペーパー『VOICES』の創刊は2006年。『ありのままの視点で、リアルな声を伝えたい』をモットーに青少年たちの生きづらさをテーマにしている。
フリーペーパー『VOICES』の創刊は2006年。『ありのままの視点で、リアルな声を伝えたい』をモットーに青少年たちの生きづらさをテーマにしている。

──BONDプロジェクトはどうやって始まったのでしょうか。

元々、ライターの私と、カメラマンのKENが、街にいる子のリアルな声を伝えるためにフリーペーパー『VOICES』を自費出版で創刊したのが大きなきっかけでした。すると、彼女たちの話から、深刻な状況が見えてきました。いろんな問題を抱えて家出し、今日過ごすところもない、食べるものもない、頼る大人もいない、これからどうしていいかわからないというような子が街をさまよい歩いてて、ほっとけない状況にある女の子が多かった。なので、女の子と支援をつなぐ“接着剤=ボンド”という役割の必要性を感じて、BONDプロジェクトを始めました。

──きっかけとなったような女の子がいたのでしょうか。

2007年に出会った一人の女の子がいました。まだ18歳なのに「人生をリセットするために東京に出てきた」と話す彼女は数日前に地方から家出をしてきたばかりで、これからSNSでつながった男性のところに向かうところだ、というのです。知らない人のところにいくのは慣れているから怖くないと話していたものの、私は心配だったので連絡先を交換し、「もしもやっぱりやめようと思ったら連絡して」と伝えて別れました。しばらくしたら戻ってきてくれて、その日は私の自宅へ連れて帰りました。彼女から色々と話を聞いていくうちに、家庭が大変だったこと、彼女は16歳のときに赤ちゃんを産んだことなどを明かしてくれて、障がいやメンタルヘルスの疾患が見過ごされたまま大きくなったような環境で育ったことなどが分かってきて。それからは、私たちをつなぐものは携帯電話だけだったので、連絡があったら会いにいって話を聞くということを続けていました。

──彼女にとって、ジュンさんは唯一安心して頼れる大人だったのでしょうね。

東京にいることを選んだ彼女は、風俗店で働いたり、ホストクラブの人の家に行ったり、転々としながら暮らしていました。でも、ある日相談があると聞いて会ったら妊娠していて。お腹を触ったらもう大きく、父親が誰かもわからず、産む産まないの選択するような状況でもなく……。そのとき初めて、自分ではどうすることもできないことに焦りを感じました。女性相談窓口に電話したり、婦人保護施設を紹介してもらったりしたのですが、そこにつなげるのも難しく。というのも、その日寝泊まりする場所、その日食べるものなどをどうにかしなければならない彼女にとって、予定を立てて相談に行くことはすごく大変なことで、予約した時間に来るということが難しかったんです。さらに施設への抵抗感もあり、時間だけが過ぎてしまい、結局駆け込み出産となってしまいました。

母子ともに健康に生まれ一安心したものの、今後のことを病院関係者と話し合う場があり、ジュンさんも一緒に同席して欲しいと彼女に頼まれたのですが、当時はBONDもなく、私は街で出会っただけのライターだったので病院側からは認められず。彼女は自分のことを話せないまま、気持ちも整理できないまま、赤ちゃんを児童相談所に預ける流れで話が進んでいってしまい、彼女は赤ちゃんを置いて病院からいなくなっちゃったんです。それでまた、彼女が歌舞伎町の街に立っている姿を見たときは、本当に大変な状況だと改めて思い……何とかちゃんと支援する体制を作ろうって思って始めたのがBONDでした。

>>近年、繁華街をさまよう女性の年齢層は驚くほど若年化している。ひと知れず“生きづらさ”を抱え、居場所のない少女たちを悪の手から遠ざけ、支援へ繋げる活動として具体的にBONDがどのようなことを行なっているのかについては後編へ。

Information

BONDプロジェクト

電話相談/080-9501-5220(受付時間/火曜日 13:00〜17:00、木・土 18:00〜22:00

LINE相談/@bondproject(受付時間/月・水・木・金・土 10:00〜22:00)

メール相談/hear@bondproject.jp

その他、BONDプロジェクトが公開している相談先リスト

Brave Together POPUP by メイベリンニューヨークxBONDプロジェクト

開催日時/7月20日(土) 14:00~20:30

場所/クロス新宿ビジョン 1F

内容/夏休みシーズンを目前に歌舞伎町近辺へ居場所を求めてやってくる、「寂しい」「居場所がない」「家に帰れない」と感じている女の子たちへのアウトリーチを図り、またBONDプロジェクトとその活動内容を知ってもらい相談や支援につなげる機会として、本ポップアップイベントを開催。メイベリン ニューヨークのメイクのタッチアップやサンプル配布、フォトブースを設けることで気軽に立ち寄れる場を提供する。

Photos: KEN at Bond Project Text: Mina Oba Editor: Rieko Kosai

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