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年金制度の"改悪"は避けられない…エコノミスト推奨「もらえる年金を減らさずに思いっきり働ける」秘策

  • 2024.7.14

定年後に年金だけで暮らせなければどうするか。エコノミストの崔真淑さんは「年金制度が“改悪”されていく可能性は高い。老後の賢い働き方の1つに個人事業主になる選択がある」という――。

コインの階段を歩く高齢男女
※写真はイメージです
年金だけで暮らせなければどうするか

2024年は年金制度の検証の年。いわば、5年に1度の、“財政健康診断”の年です。2025年の年金法改正はいったいどうなるのか。

国民年金の保険料支払期間が60歳から65歳に引き上げられるのではないか。

年金受給開始がさらに後ろ倒しになって、70歳や75歳になるのではないか。

今まさに年金改正案としてさまざまな動きがありますが、はっきり言えるのは、前回も述べたように“改悪”の方向に向かっているということ。年金制度が崩壊することはないと思いますが、これ以上よくなることはない。おそらく年金だけで暮らしていくことはますます困難になっていくでしょう。

年金だけで暮らせない。となると、どうすればいいか。

まずは、働くこと。元気なうちは、「仕事をする」ことが最優先の選択肢です。

働いて収入を得ることで、年金生活の補塡ほてんをする。しかし60歳以降、会社に再雇用される場合は注意が必要です。毎月の賃金と老齢厚生年金月額の合計が50万円を超えると、「在職老齢年金」の仕組みが適用され超えた分の半分がカットされるからです。

起業して企業共済制度を受ける選択

50万円の壁を気にせず、思いきり働きたいという人は、個人事業主になるか、ミニ法人をつくって経営者になるかして、所属している会社と業務提携を結ぶとよいでしょう。そうすれば、自分の裁量で給料を決められますし、年金カットもありません。

個人事業主やミニ法人の経営者として独立すると、給料以外にもメリットがあります。それは、経費や税額控除を増やせて、節税できることです。

税額控除におすすめなのが、「小規模企業共済」です。

小規模企業共済とは、個人事業主やミニ法人の経営者を対象にした積み立て型の退職金制度。月々の掛け金は1000円~7万円まで500円単位で設定できます。満期や満額はなく、退職や廃業時に受け取れますが、退職金になるため、税金がかかります。

とはいえ、確定給付に近い制度なので、将来のリターンがよく、掛け金が全額控除されるのも大きな魅力です。また低金利で、掛け金の範囲内でお金を借りられます。

さらに節税効果を高めるなら「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」に加入するのもよいでしょう。

この制度は、取引先事業者が倒産した際の連鎖倒産を防ぐための保険。掛金は月額5000円~20万円まで自由に選べて、個人事業主なら必要経費、ミニ法人は損金に算入できる。つまり税法上、経費として計上できるのです。

また無担保・無保証で、掛金の最大10倍(8000万円)まで借り入れ可能。解約したときは、所定の解約手当金が受け取れます。

まずは個人事業主から始めてみる

ミニ法人の場合、「はぐくみ企業年金(福祉はぐくみ企業年金基金)」に加入するという選択肢もあります。

はぐくみ企業年金は、年金としてはもちろん、退職時や休職時、育児・介護休業時にも受け取れる確定給付企業年金(DB)。加入期間が1カ月以上あれば、積立額の全額を受け取れる元本保証が魅力。1000円単位で、最大給与の20%まで(別途、限度額制限あり)設定できる掛金は、すべて損金として処理できます。ただし加入対象は、厚生年金に加入している役員が2人以上いる事業者なので、個人事業主は対象外。夫婦ともに会社の役員をしているというミニ法人に向いているでしょう。

しかしながらミニ法人でも、法人にするとなると、設立時に登記したり、年間通して決算書を作成したり、お金も手間もかかります。年間の売り上げが「700万円以上になるなら、法人にしたほうがオトク」という税理士さんもいれば、「300万円以上でもオトク」という税理士さんもいて、基準となる金額も税理士さんで異なるのが実情です。いずれも法人にすると、ランニングコストがそれなりにかかりますから、まずは、個人事業主から始めるといいでしょう。

夫婦で“共有の財布”をつくるメリット

定年後は独立起業してミニ法人をつくる夫婦もいるように、まさに老後は、夫婦で力を合わせて生きていく時期です。

これまで共働きだった夫婦も、“共有の財布”をつくって支出入をコントロールすることは非常に意味があります。お金の共通概念をもつことができるだけでなく、夫婦にとって「大事なもの」をあらためて確かめることができるからです(とはいえ、どちらかにへそくりがあるなど、その透明性をどこまで高めるかはそれぞれのパターンにお任せです)。

黄色い財布
※写真はイメージです

具体的には、いったん夫婦のお金をすべて洗い出して、その総額の中で、住居費や光熱費はこれぐらい、食費はこれぐらい、と支出を“見える化”したうえで、残ったお金を自分たちで好きなように使えるようにする。そうすれば、年間で自由になるおおまかな金額が把握できるので、老後の生活スタイルをよりリアルに設計することができます。

ファイナンシャル・プランナーをもつ利点

定年後は夫婦の形も変わる時期です。夫が会社を辞めて妻が働く、もしくは結婚自体を解消するようなこともあるかもしれません。自分たちのリアルなライフプランに合わせた金銭設計を望むなら、ファイナンシャル・プランナーの方に有料で相談するのもおすすめです。

私自身も、子どもが生まれたタイミングでファイナンシャル・プランナーに相談に行き、保険の見直しや住宅ローンの組み方、家計の設計など、的確にアドバイスしていただきました。

特によかったのは、保険の見直しです。20歳ぐらいから入っている保険を解約すべきかどうか悩んでいましたが、プランナーの方から「とてもよくできている保険だから、これは解約しなくてもいいよ」と言われて、さすがプロだなと。

金銭面についてはなかなか他人に言えないものですが、包み隠さず相談できる相手がいるのは重要なことです。なにしろそれが、お金についてストレスフリーな生活を実現させてくれますから。自分のファイナンシャル・プランナーをもつことで、想像以上に毎日の不安や心配が解消されました。

投資リターンが高いのは自己投資

老後の働き方に、話を戻しましょう。

定年後は会社と業務委託契約をすることはおすすめですが、とはいえ65歳以降は会社が契約してくれない可能性があります。たとえ契約をしてくれても、その金額が非常に安く、収入が10分の1に激減することも……。

そうなったときに重要なのは、フリーランス的に働けることです。40代、50代の人は、今のうちから、いろいろな人と友だちになり、仕事につながる人間関係をつくっておくとよいでしょう。私も自分自身に言い聞かせています。

たとえば、パーソナルトレーナーや鍼灸師、美容師、マッサージ師など、「BtoC(business-to-consumer)」かつ資格が必要な人たちの多くは、個人事業主として活動しています。ほかにも看護師さんやドクター、ハンドメイドで小物をつくるクリエイター、デザイナー、ライターといった人たちも、フリーランスとして働く人が多くいます。

ですから、今のうちから自分の専門性を磨き、好きなことで活躍できるフィールドを耕しておきましょう。大事なのは、自分の好きなことを選ぶこと。飽きずに続けられ、しかも苦にならないことを選ぶこと。そういうことに自己投資したほうが、投資リターンは絶対にいい。経験上、私も強く実感しています。

文書を書く高齢者
※写真はイメージです

構成=池田純子

崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。

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