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年金「繰り下げ受給」でモトをとるには何歳まで生きる必要があるか…"受給タイミング"の最重要ポイント

  • 2024.7.13

年金を増やすために「繰り下げ受給」をする場合、もっとも注意するべきことは何か。エコノミストの崔真淑さんは「受給開始のタイミングは自分の健康状態を鑑みるべき。なぜなら繰り下げて総受給額のモトをとるには10年以上かかるから」という――。

年金手帳と2人のビジネスマン
※写真はイメージです
受給総額のモトをとるには10年以上かかる

年金とは「保険」である。しかも、運用できる保険だというのが私の考えです。

ポイントは2つのルール、「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」です。本稿ではこれらの制度から、年金を賢く運用するための方法について見ていきましょう。

そもそも公的年金を受給できるのは、原則65歳ですが、受け取れる時期は60歳から75歳まで自由に選べます。しかし64歳より前に受け取る「繰り上げ受給」をすると、受給額が1カ月あたり0.4%減り、1年あたり4.8%ダウンします。

一方、66歳以降に受け取る「繰り下げ受給」をすると、1カ月あたり0.7%増えて、1年あたり8.4%アップします。

このように公的年金は、もらう時期を“遅らせれば遅らせる”ほど年金額はアップするため、なるべく繰り下げて年金を多くもらったほうがいい――。メディアでもよくこういわれますが、はたして本当にそうなのでしょうか。

国民年金は20歳から60歳まで保険料を支払いますが、そのモトをとろうとするとだいたい10年超、ざっくりいえば15年ほどかかります。たとえば、「繰り下げ受給」をして75歳から年金をもらい始めると、だいたい86歳以降にならないと総受給額が65歳開始額を上回りません。そうです、モトがとれないのです。その前にもしも命が尽きてしまえば、もらえるはずだった受給額をもらえないということです。

自分は何歳まで健康に働き続けられるのか

そう考えると、65歳で年金を繰り下げるかどうかは、そのときの健康次第で選択の価値は全く変わってきます。年金ほど、一人ひとりの健康状態が如実に影響を与えるものはない。そういっても過言ではないのです。

自分は健康で長生きできるか、できないか。

何歳ぐらいまで、日々働けるのか働けないのか。

60歳を過ぎたら、いったん立ち止まって考えたほうがいい。それで健康状態に不安を抱えている、そんなに長く働けないという人は、60歳から「繰り上げ受給」をしてもいいと思いますし、逆に健康に自信がある人は70歳でも、75歳でも繰り下げていいと思います。とにかくモトをとろうとしたら「10年以上かかる」ことを認識し、自分の健康状態と相談しながら受給開始年齢を決めるのが大切です。

年金制度が改悪されていく可能性

このように年金のモトがとれるのは10年超ですが、だからといって私は早くから「年金だけで暮らす」選択はあまり得策ではないと思っています。今後、年金制度が崩壊することはないにせよ、この制度を維持するために、どんどん“改悪”されていく可能性が極めて高いからです。

実際、2025年の年金改正では、「国民年金保険料を支払う年齢を60歳から65歳に引き上げる」とか、「受給開始年齢を70歳や75歳にする」といった案も出ています。私自身、12年前に独立起業したときに、あるラジオ番組で「受給開始年齢が80歳まで選べる時代がくる」と発言したら、かなり炎上しました。しかし、その“とき”が着々と近づいている。今後どんどん改悪されると、「80歳が開始年齢」というのももしかしたら現実となるかもしれません。

老人の人形と年齢
※写真はイメージです

私もそうですが、人間というのは変化を拒む“現状維持バイアス”が働くので、「年金はなくならない」「現状の制度のままもらえる」と思うのも仕方ありません。ただ現実に向き合うと、変わっていくことは確かです。私たちはそれを踏まえて、「お金の設計」を見据えていくのが賢明です。

年金は運用できる保険である

もともと公的年金は「運用できる保険」です。それゆえ、想定どおりに“もらえない”ということが実際に起こり得ます。

保険というものは、基本的に期待収益率がマイナスになるように設計されています。「ソンしない」「オトクですよ」といわれる保険でも、あくまでも手元のお金を他で運用しないことを前提にする計算であったり、何かしらのインシデント(例えば病気など)が起きたときに得られる金額も、確率的に考えれば平均的には支払い保険料のほうが多いようにできています。そうしないと保険会社は儲からないです。ただし、その代わりに私たちは保険サービスを享受できるのです。ですから年金も、運用できる保険であるという性質上、期待収益はマイナスになるものなのです。

老後は年金が思ったよりもらえないだけでなく、追加の出費がある可能性もあります。たとえば妻が専業主婦の場合、今後の年金改正で夫の定年後、「65歳まで年金保険料を支払いなさい」となったら、夫の国民年金だけでなく、妻自身の国民年金の支払いがプラスアルファで発生する可能性があります。これは要注意です。

さらに遺族年金は、廃止の方向に進む可能性も念頭に置いておくのも必要でしょう。現状の制度だと、男性と女性が非常に不平等です。遺族厚生年金は、妻が遺族になると年齢に関係なく支給されますが、夫が遺族になったら、妻の死亡時に55歳以上でなければ支給されないのです。

そうした男女差をなくすために、遺族年金というしくみ自体もなくしていこうと“改悪”される恐れが大いにある。そう考えると死亡保険の保険金も、遺族年金がもらえない前提で考えていかなくてはいけないだろうと思います。

個人事業主やミニ法人を選ぶメリット

年金で暮らしていけないとなると、どうすればいいか。

答えは二択。「仕事をする」か、「運用する」かになるでしょう。

先述のように、自分の健康状態に問題がなければまずは、「仕事をする」のがベストです。ただし気をつけるべきは、月収を50万円以下に抑えることです。

つまり60歳以降も厚生年金に加入して再雇用されると、毎月の賃金と老齢厚生年金の合計額が50万円を超える場合があります。すると、超えた分の2分の1が年金月額から減額される「在職老齢年金」になるからです。

とはいえ今後、この50万円という上限は20万円、30万円と変更される可能性もあるでしょう。ですからその対策として、個人事業主になったり、ミニ法人をつくるのも手です。厚生年金に加入していなければ、いくら稼いでもOK。自分で月収を決めることができるからです。

年金運用の3つのルール

一方、健康状態が不安であれば、年金を「運用する」ことを考えましょう。ただし、高齢者の運用には3つのルールがあります。

退職コンセプトとサバイバーの年金
※写真はイメージです
ルール①余裕資金で行う

老後は自分が病気をしたり、親に介護が必要になったりと、不測の事態がいつ起きるかわかりません。とっさにお金が必要になったときのために、ある程度の額を手元に置いておくのは大切です。ですから運用するなら、この先5年は“使うあてのない”資金を回しましょう。余裕資金がないのであれば、運用はやめたほうがよいでしょう。

ルール②NISA口座は使わない

今、新NISAが大流行ですが、高齢者はNISA口座ではなく、一般口座や特定口座で行うのがおすすめです。なぜならNISA口座は、「損益通算」ができないからです。

損益通算とは、運用で損失が出たら、他の利益から差し引いて税金を減らせるしくみ。たとえば、その年の利益が10万円、損失が6万円なら、10万円-6万円=4万円が課税の対象になります。それでもマイナスになったら、確定申告で最長3年間損失を繰り越して控除できます。

そもそも運用によって譲渡益や配当益など利益が出ると20%の税金がかかりますが、NISA口座は、この税金がかからない代わりに、損益通算ができず、損失の繰り越し控除もできないのです。私の経験上、いくら頑張って運用しても、そう簡単に利益が出るものではありません。絶対に資産を目減りさせたくない高齢者だからこそ、損益通算できる特定口座または一般口座を選ぶほうが得策でしょう。

ルール③資産を分散化する

今は、日経平均が最高値を更新したり、戦争で世界的に物価が上がったり、あり得ないことが起こる時代。そんなときに個人のできる防衛策は、分散投資しかありません。地政学リスクや景気リスクに対して、株式や債券、コモディティ、金、不動産など感応度の異なるものを持っておく。これが肝心です。とにかく分散させて、リスクに備えていきましょう。

「仕事をする」か「運用する」か。老後は、どちらにも対応できるように、40代、50代のうちから意識して準備しておくのがもっとも賢い選択です。

構成=池田純子

崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。

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