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「30代で唯一の後悔は、旬を過ぎたオバサンだと思った時期があったこと」作家・LiLyが語る現在地

  • 2024.7.11

今から10年前、オトナミューズ創刊前に発売された準備号を手に取ったLiLyさんが「エッセイを書くのはこの雑誌しかない!」と編集部に直談判。以来、ずっと胸の内をつづってきたこの連載は、2024年7月号で幕を閉じました。今の心模様は? 未来予想図は? 少しゆっくりお話を伺います。

神様の采配に身を委ねて

ひとまず筆を置くことにした

―― 創刊から10年続いたオトナミューズでの連載が、ゴールを迎えることになりました。率直に今の心境を聞いてみたいです。

「10年という節目だからやめようと決めたのではなくて、書きながら『そろそろ区切りだ』と感じた、それが正直なところです。これってまさに人生そのもので、物事はコントロールができないからこそ、どこに行き着くのか分からない。そんな醍醐味を味わいながら書き続けてきました。今回は、そろそろ終わりかなと思ってそう書いたあと、ピタリ10周年だと気がついて。ならば、今はその流れに身を任せようって思ったんです」

―― ずっと自分の生き様をエッセイに書いてきた、LiLyさんらしいお話です。

「だってそのほうが、絶対に面白いものができあがるから。私の生きる哲学として『最後は神様の采配に委ねる』というものがあるんです。自分がしたいことを決断したら、もちろん9割は努力するけど、最後は神様に決めてもらう。私はピラティスの『FLOW』というクラスが好き。自分で未来への流れを全力で作ったら、あとはもう身を委ねて、神様にお任せする。そんなイメージです」

―― いろんなエッセイの形があるなかで、ここまで自らを赤裸々に書いてきた作家は少ないと思います。このスタイルはどうやってできあがったのですか?

「私はずっと、日記帳を片手に物事を考える、そんな子どもでした。親同士の絶えない喧嘩を見ながら『男女はどうすればもっと平和に愛し合えるのか』『私だったらこうやっていい家庭を作るのに』。そう頭の中で考えたものをとにかく書く。それが私のエッセイのベースです」

― あらためて、今回一旦筆を置く、その理由を教えてください。

「エッセイを中断するのは、実はこれで2回目。1回目は大好きだった人と別れて、違う人と結婚することを書いたとき、ブログが大炎上して初めて赤裸々に書くことのリスクを痛感したから。そこで『オトコシリーズ』に終止符を打ち、4年間は小説執筆に専念して、あらためて今の『オトナシリーズ』がスタート。前回は元恋人や元夫に申し訳ない気持ちがあったけど、今回は子どものプライバシーを守りたいというのが最大の理由。息子と娘も思春期を迎えて、愛情を込めて書いたことでも、やっぱり彼らの人生の詳細は彼らだけのもの。親として一旦黙っておこうかなと」

―― そうやって、当事者でありながら、自分を客観視して、徹底的に俯瞰して書く。その姿が印象的です。

「それ、編集長のカヨコが上手に言語化してくれたことがあって。私は骨の髄まで恋愛体質で、ラブを発端とするエモーショナルな事象が大好き。でもカヨコ曰く『そういう人はだいたい主観が強い。でもLiLyさんは、たとえるならば、卵の中に黄身がふたつ入っているタイプ。クレイジーだけど論理的。それが才能なのでは?』と言葉にしてくれたんです」

―― ちなみに、それは才能だと思いますか? それとも努力?

「努力というより『そういうふうにしか生きられない』という意味で、本来は欠落だけど、才能寄りかも。主観だけで生きるには頭が回り過ぎるところがあって、そのままではどうにもバランスが悪い。だから人生のサバイバルメソッドとして客観能力を磨くしかなかったのかも」

―― さらに魅力的なのは、リズム感と疾走感のある独特の文体。これはどうやって生まれたのでしょう。

「そう言ってもらえると嬉しい! というのも、私は音楽がすごく好きで、でも歌手になりたいと思ったことは一度もなくて、むしろ音楽を聴き続けながらできるのが執筆業だから天職なのかも。でもとにかく音楽はずっと聴いているから、言葉にリズムが乗っているかどうかは、ものすごく重要。書きながら、母音を揃えたり、句読点を置く場所を吟味したり。BPMを整えて、リズムある文体を作って指先で踊るように書いています」

小説執筆、ビジネス、素の自分。

全てを深く掘り下げていく

―― さて、これからのことについて、聞かせてください。待望の新刊『オトナの子守唄』が発売になりますが、今ワクワクしていること、心待ちにしていることなどはあるのでしょうか。

「大人になるって、上り調子で成長し続けるものだと思っていたけれど、少し早めに40歳を折り返し地点とするならば、そこを起点にどんどん幼くなる自分に心底驚いているところ。うん、34歳ぐらいが一番大人だったな(笑)。いや、責任感は増しているし、これから親の介護や更年期など、シビアにキツいことが訪れることも予想はしているけれど、少しずつ子どもの手が離れることで、素の姿に戻っていく自由な感覚もあって、そこをすごく楽しみにしているんです」

―― 今後は、『恋愛小説』と『寝室革命』をテーマにしていくのですよね。

「まずはたっぷりと贅沢に時間をかけて、大人の恋模様を描きたい。こんな思いをするのは人生最後かも……そんな切ない恋。死を連想させるような恋心って、すごくロマンティックだなと感じるのです」

―― 『寝室革命』は、新たにローンチされたブランド〝ベディン〟についてですね。少し詳しく教えてください。

「私が夢見ていた寝室の風景は、まず夫婦のマスターベッドルームがあって、隣の部屋には子どもたちのベッドが並んでいる、そんなイメージでした。でも実際には離婚して、娘との女子部屋の2段ベッドの上が私のプライベートスペースになった(笑)。ただ、美顔器とスマホをもち込めば、どこでもサンクチュアリは完成することに気がついたんです。そんなことをエッセイに書いているうち、寝室革命をテーマにしたブランドをローンチすることになり、美容液キャンドルを世に送り出すまでになりました。この連載に思いをつづらなければ、おそらく実現しなかったこと。この運命的な流れをさらに充実させるべく、起業家として世の中に新しい風を起こしたいと燃えています」

―― では最後に。この新刊は、どんな人に読んでほしいですか?

「私が30代で唯一後悔しているのは、自分は旬を過ぎたオバサンだと思っていた時期があったこと。今思えば30代ってめちゃくちゃ若い。だから『最近つまんなーい』って思っている人に、ぜひ読んでほしい。でもそういう人は、もしかしたら読み続けるのが苦しくなるかも。なぜなら本の中の私は楽しそうだから。ただ、そこであきらめないで。先に進めば、キラキラして見えた人は、誰よりもダメージを受け、這い上がってきたのだと分かると思う。得ている人は、同時に失ってもいる。立ち直りやリカバリーのヒントが、リズムのある文体から子守唄のように流れてくる。そんな本になっていたら、本望だなと思っています」

LiLy
作家。蠍座。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て上智大学卒。LiLy.com この連載をまとめた最新刊『オトナの子守唄』(小社刊)が7月12日発売予定。

photo:RK text:MAHO HONJYO illust:ekore
 
otona MUSE 2024年8月号より
 

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