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世界からお届け!SDGs通信 パリ編。名門校が、教育の機会均等と多様性のために続けるプロジェクト

  • 2024.7.10
世界からお届け!SDGs通信 パリ編。国内随一の名門校が、教育の機会均等と多様性のために20年以上続けるプロジェクト

低所得層が多い高校からの選考枠を設ける、パリ政治学院の「優先教育協定(CEP)」

ジャック・シラクにフランソワ・ミッテランから、現大統領のエマニュエル・マクロンまで。数々の重要人物が母校とするのが、パリ政治学院、通称「シアンスポ」だ。2001年、シアンスポは「優先教育協定(CEP : Conventions Éducation Prioritaire)」を発足。低所得家庭の生徒の割合が高い高校と提携協定を結び、提携先の生徒に出願してもらう。試験内容は一般受験者と同じだが、CEP出願者は専用の枠で選考される。

シアンスポは、仏教育システムにおけるエリート養成機関「グランゼコール」に分類される。厳しい選抜がなく学費は学士課程で年間170ユーロという「大学(ユニベルシテ)」と異なり、各校が独自入試を行い、費用は国立でも高額。シアンスポの年間授業料は学部で1万4720ユーロだ(2024年度)。実際フランス人も、「シアンスポ パリ出身」と聞くと、家柄がよく勉強ができる……といったイメージを持つ。それが的を射ているかはどうあれ、教育レベルと社会階層とがリンクする構造は根深い。そこに変革をもたらそうと、トップ校自らが先陣を切って立ち上げたのがCEPなのだ。

さてしかし、フランスでは国の給付型奨学金が一般的。また、シアンスポでは家庭の収入に応じて授業料が減額され、奨学生には別途補助金も出る。つまり制度だけで見たら、裕福でなくとも通える。とはいえ、進路選択に影響するのは、経済状況に限らない広い意味での「環境」だ。CEPの意義は、教育を受け能力を活かす道を、国中に遍く伸ばすことにある。

現在、提携先は198校を超え、仏領ギアナやレユニオン島などの海外地域圏の高校も含まれる。これまでに2300人以上がCEPで入学し、奨学生の割合も過去15年間で倍増したという。より幅広いバックグラウンドの学生が集まるようになったのだ。社会の多様性がどこまで学内そして政財界に反映されるかは、まだわからない。ただ言えるのは、どんな環境に生まれても首都の最高学府に挑戦できるなら、それは希望に違いないということ。

*本文内での学費は、フランスもしくは欧州経済領域内の国籍の学生の場合。

優先教育協定の17期目となる学生と、プロジェクト関係者や支援企業との交流会
2019年2月、優先教育協定の17期目となる学生と、プロジェクト関係者や支援企業との交流会にて。© Thomas Arrivé / Sciences Po
パリ政治学院の催しに登壇するマリーヌ・ゴーティエ
パリ政治学院の催しに登壇するマリーヌ・ゴーティエ。パリ郊外ボンディ地区の高校から出願した生徒を追うドキュメンタリー「ポークワ パ モワ?(なぜ私じゃないの?)」(2019)を制作した。
パリ7区のキャンパス
パリ7区のキャンパス。通称の「シアンスポ 」は政治科学を意味する 《Sciences politiques》を短縮したもの。© Caroline Maufroid / Sciences Po

Information

パリ政治学院 優先教育協定

1872年設立の高等教育機関。グランゼコールの選抜における社会・文化的な偏りを危惧し、2001年に優先教育協定を開始。経済的困難、情報格差、そして自ら未来を諦めてしまう若者をなくすことを目標に掲げる。

HP:https://www.sciencespo.fr/nous-soutenir/cep/english/

profile

黒木許子

くろき・もとこ/出版社で雑誌編集の経験を積んだのち、パリの国立自然史博物館修士課程へ進む。こちらは大学でもグランゼコールでもなく、修士・博士課程のみ擁する高等教育・研究機関(ややこしい!)。

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