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2024年の恋愛シーンは3人1組が当たり前? 「スラプル」急増の理由を専門家が徹底分析

  • 2024.7.21

ドラマ『ブリジャートン家』や映画『チャレンジャーズ』を通して、スラプルは2024年の恋愛シーンを席巻している。

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TATYANA OLINA

ご注意:この記事には『ブリジャートン家 シーズン3』のネタバレが含まれます。

John Phillips

人気ドラマ『ブリジャートン家』のシーズン3で、次男のベネディクト(ルーク・トンプソン)はティリー・アーノルド夫人(ハンナ・ニュー)に目をつける。ティリーは世慣れた年上の未亡人で、ベネディクトが婚活市場で見かけるような女性とは完全に正反対。そして、エピソード6でティリーから“親しい友人”のポール・スアレス(ルーカス・アウレリオ)を紹介されたことをきっかけに、ベネディクトの世界は完全に開かれる。

このエピソードの中で、ベネディクトとティリー、ポールの3人は、お酒とディナーを共にする。その後、ポールは性的な雰囲気を醸し出しながらベネディクトと葉巻を吸い、室内に戻ってからティリーと熱いキスをする。それを目撃して戸惑うベネディクトに、2人は「一緒にどうか」と声をかける。3人がベッドを共にするようになってからしばらくして、ティリーはベネディクトに“2人だけ”の真剣な交際を持ちかける。でも、ベネディクトの考え方はすでに変わってしまっていた。「僕たち3人の間で起きたこと、君に出会ってから起きたことを通して僕は、自由の素晴らしさを知ったんだ」と、ベネディクトはティリーに伝える。「君は僕の世界を広げてくれた。まだそれを閉じたくない」

それはポールのせいなのかとティリーが聞くと、ベネディクトは「ポールはパトリシアでもポーリーでも誰でもいいし、その全員でも構わない」と言って、もはや性別は無関係であることを伝える。

『ブリジャートン家』で複数のパートナー間のセックスが描かれたのは、これが初めてのことじゃない。シーズン1ではベネディクトがアートパーティーで3Pをしていたし、ピュアなコリン(ルーク・ニュートン)も数ヶ月の海外生活から戻るやいなや2人の女性とベッドに入った。

でも、このドラマが“複数の愛”を意味するポリアモリーの世界に踏み込んだのは、これが初めて。このシーズンの中でティリー、ベネディクト、ポールが排他的なスラプル(3人1組のカップル)になることはなかったけれど、ベネディクトは複数のパートナーを持つポリアモリーの世界に深い興味を示している。

スラプル(別名:トライアド)とは?

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2024年は、スラプルを扱う映画やドラマが非常に多い。映画『チャレンジャーズ』では緊張感溢れる三角関係が描かれているし、Peacock TVはスラプル専門の恋愛系リアリティ番組『Couple to Throuple』の配信を開始した。2024年の恋愛シーンは3人1組が当たり前になりつつある。

この数年でノンモノガミーを扱う作品は確実に増加した。例として、ドラマ『リバーデイル』(2023年)はアーチー、ヴェロニカ、ジャグヘッド、ベティがロマンチックな4人組になって終わり、リブート版『ゴシップガール』ではオードリー、マックス、アキの3人が恋愛関係に。

そして今、スラプル(別名:トライアド)への注目度が異常な高まりを見せている。スラプルは3者の合意と信頼関係の上に成り立つバランスのよい関係で、クローズド(交際もセックスも3人の間だけ)のケースとオープン(他の人との交際やセックスもOK)のケースの両方がある。

セックスカウンセラーのレイチェル・ライト氏(LMFT)とタマラ・ピンカス氏(LCSW)は、この現象に驚きを隠せない。

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スラプルは、ノンモノガミーの中でもっとも複雑な関係の1つです」とライト氏は語る。「3人で構成される関係では、他の構成の関係では生じえない困難が生じます。それが楽しいのならいいですが、決してラクな関係ではありません

ピンカス氏によると、スラプルは数あるポリアモリーの形の中でもとくに珍しい。だから「ポリアモリーが支持されるようになった途端にスラプルが流行り出すというのは、少しおかしな話です」

では、なぜ最近の映画やテレビは、しきりにスラプルを描きたがるのか? そもそも、『ブリジャートン家』の背景である摂政時代の英国にスラプルは存在したのか? アメリカ版ウィメンズヘルスが独自の調査に乗り出した。

摂政時代の英国にもスラプルは存在した

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ポリアモリーは数千年とまではいかなくても数百年前から存在するコンセプト。ポリアモリーという言葉は1990年代初頭、エシカル・ノンモノガミーを支持する集団によって作られた。でも、『TIME』誌によると、ポリアモリーという関係性は20世紀初頭から存在している。ライト氏いわく南米のチリでは、16世紀にスペイン人がやって来るまで、先住民のマプチェ族がノンモノガミーの先例とも言えるポリガミーの社会を築いていた

このような背景から『ブリジャートン家』の摂政時代にスラプル、あるいは当時の言葉でménage à trois(フランス語で3人1組の家庭を意味する)が存在したと考えるのは、歴史家のサラ・リチャードソン氏に言わせても自然なこと。ただ、この時代の実際のスラプルとベネディクトのスラプルは少し違った。

摂政時代の貴族の女性は富や権力のために若くして結婚するのが通例だった。そのため、結婚前に性的なゴシップが広まって結婚のチャンスを失うのは、本人にとっても、その家族にとっても好ましくないことだった。でも、一度結婚して妻が後継者さえ産んでしまえば、もともと政略結婚ということもあり、双方に性的な自由が認められた。

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「性行為は公の場でかなり厳しく規制されていました」とリチャードソン氏。「でも、後継者を産んだ貴族の女性はとくに、裏で自由にしていることが多かったのです。あまりに露骨でない限り、多くのことが許されていました」

そして、裏では実に多くのことが起きていた。リチャードソン氏いわく当時は、人口の約5分の1が梅毒に感染していたという。「これは当時の人間関係の淫らな性質を物語っています」

リチャードソン氏によると、摂政時代のスラプルは女性2人と男性1人で構成されることが多かった。その女性のうちの1人は男性の妻で、もう1人は住み込みの彼女。もっとも広く知られているのは、ウィリアム・キャヴェンディッシュ(デヴォンシャー公爵)と彼の妻であるジョージアナ、夫と別れて彼らのもとに身を寄せていたエリザベス・フォスター夫人(通称ベス)の関係だ。ベスと公爵の間には2人の子どもがおり、当時の手紙によると、この2人は「かなり親密な関係」にあったそう。小説『フランケンシュタイン』の作家メアリー・シェリー、彼女の夫、義妹のクレア・クレアモントの三角関係も有名。クレアはシェリー夫妻と一緒に旅行をしていたことで知られる。

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PETER DAZELEY

でも、『ブリジャートン家』と同様、彼らはみな内密な関係で、世間から嘲笑されたり追放されたりすることがないよう、慎重に慎重を重ねて行動していた。デヴォンシャー公爵とジョージアナは実際かなり乱れた生活を送っていたようで、侮辱的な風刺画が数多く印刷された。『Town & Counrty』誌には、噂の男女を顔写真付きで紹介する「Tête-à-Tête」という連載コラムがあったほど。

「風刺画の中のジョージアナは大抵半裸で、ベスの赤ちゃんのおむつを嫌々替える様子が描かれることもありました」とリチャードソン氏。「女性はいつも不当な扱いを受けていたんですね」

女性の場合は、ポリアモリーの関係が公になると社会生活にも影響が出てしまう。実際、夫以外の男性の子どもを身ごもった女性は、一定期間、海外や田舎に送られるのが通例だった。

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THANASIS ZOVOILIS

「疑わしい行いをしたせいで社交の場から追放されることもありました」と話すリチャードソン氏によると、当時の人の間では「ぎくしゃくした関係やゴシップ」が常に注目を浴びていた。

リチャードソン氏によると、摂政時代に男性2人と女性1人で構成されるスラプルが存在したかどうかは分からない。当時の密室で起きていたことを把握するのは歴史家にも難しいこと。でも、ティリーのように、すでに後継者を産んでいて夫が他界している女性にとっては、3人1組の関係を持つことが比較的簡単だった

「独身の女性にとってはまず無理な話です。傷モノと見なされて、社会から完全に追放されてしまいますから」とリチャードソン氏。「後継者を産むという本来の目的を果たしたあとは、結婚が安全ネットの役割を果たしていたと言っても過言ではありません」

「だから、スラプルの世界に足を踏み入れるのは年配の既婚女性であることが多かったのです」

よって、ベネディクトのように年上の既婚女性を含む三角関係にハマるのは、摂政時代でも十分あり得ることだった。

スラプル流行の理由は?

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ピンカス氏によると、スラプルが突然流行り出したのは、それがポリアモリーでありながらモノガミーに一番近い人間関係の形だから(ライト氏いわくポリアモリーの形には他にも、スウィンギング、オープン・リレーションシップ、ポリキュールなどがある)。

「人々は、自分のパートナーに自分の知らない人と付き合われるより、スラプルの関係にいたほうが安心なのかもしれません」とピンカス氏。(パートナーが自分の知らない人と付き合って)「ちょっと浮気されている気分になるのは、怖いというか脅威ですから」

ライト氏も、多くの人にとってモノガミーに“一番近い”ポリアモリーの関係は、既存の異性愛の関係に別の女性を追加することだと言う。「それが人々にもっとも理解されやすい形だから、メディアも“扱いやすい”のでしょう」

だからといってスラプルがラクな関係とは限らないし、スラプルにはモノガミーの関係や他のポリアモリーの関係にはない困難が伴う。「この世界は私たちが2人1組であることを前提に設計されているので、(3人だと)ほぼすべての状況で誰か1人が気まずい思いをすることになります。ディズニーランドでアトラクションに乗るときも、カップルでマッサージを受けるときもそうですね」とライト氏。「すべては2人のためにあるので、『自分は2人のうちの1人なのか、その余り者なのか』を考える瞬間が必然的に出てきます」

本当に対等なスラプルでは誰も余り者にならないけれど、「そう感じてしまうことは間違いなくあるでしょう」とライト氏は続ける。

未知の世界に飛び込んでみたいなら、飛び込んで

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ライト氏とピンカス氏の話では、スラプルは間違っても一番ラクな関係じゃないけれど、非常に充実した関係に発展することもある。興味がある人はまず、ポリアモリーの交流会やエシカル・ノンモノガミーのワークショップ、ジャネット・W・ハーディー著の『The Ethical Slut』やトリスタン・タオルミノ著の『Opening Up: A Guide to Creating and Sustaining Open Relationships』といった本でポリアモリーの知識を身に付けよう。

ピンカス氏によると、スラプルの初期段階で起こり得る“典型的な”失敗についても先に学んでおくといい。例えば、新しいパートナーに集中しすぎて、既存のパートナーをないがしろにしてしまうというのは、スラプルによくある問題。

そして、コミュニケーションは強い絆で結ばれた健全な関係を築くカギ。「交際を始める前に、アフターケアのプランを立てておきましょう」とピンカス氏。「パートナーが自分抜きで誰かとデートをしたあとや、自分とパートナーが一緒に誰かとデートをしたあとに、どうやってお互いをケアするかをあらかじめ考えておくのは、お互いが脅威を感じず、安心して付き合っていくために必要なことです」

教育の重要性を強調するライト氏は、好奇心旺盛な人々にできるだけ多くのことを吸収してほしいと言う。「ノンモノガミーの傘下に入るさまざまな事象について、少し学んでみてください。その世界に実際に入るかどうか分からなくても、学んでほしいと思います」とライト氏。

「モノガミーに問題がないのと同じで、学ぶことにも害はありません。モノガミーが問題となるのは、それが唯一のオプションであると思い込み、自分の選択ではなくデフォルトで、モノガミーとしての人生を生きているときだけでしょう」

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Charlotte Walsh Translation: Ai Igamoto


伊賀本 藍
翻訳者
ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。 

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