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江口のりこさん「家族にもある程度の距離は必要」 映画「お母さんが一緒」で三姉妹役

  • 2024.7.7

演出家・脚本家のペヤンヌマキさんの同名舞台を原作にした映画「お母さんが一緒」が7月12日から公開されます。親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れて行った三姉妹の悲喜こもごもを、ブラックユーモアたっぷりに描いた本作。三姉妹に共通する思いは「母親みたいな人生を送りたくない」ということ――。2人の妹にコンプレックスを持っている長女の弥生を演じるのは、俳優の江口のりこさん(44)。演じた役を通してご自身の家族について感じたことなどをお聞きました。

密室で繰り広げられる三姉妹の会話劇

――何気ないセリフの一つ一つや三姉妹の会話がリアルで面白かったです。江口さんはこの作品のどんなところに魅力を感じましたか。

江口のりこさん(以下、江口): 「温泉旅館の部屋」という密室の中で、3人の会話劇がずっと続く。そういうシチュエーション自体に、まずとても興味を持ちました。

――泣いたかと思うと笑い合って、怒鳴ったかと思えば踊り出すなど、終始忙しい三姉妹でしたが、次女と三女を演じた内田慈(ちか)さんと古川琴音さんとの掛け合いはいかがでしたか?

江口: 慈ちゃんと琴音ちゃんと一緒にこの三姉妹の役をやれたことがとても良かったし、タカヒロ役の青山(フォール勝ち)さんも含め、キャストみんなで一緒に作っていった作品なので、撮影中はずっと楽しかったです。

現場に向かう車も待ち時間も、基本的にずっと一緒にいるんです。そうすると、別に何も話さなくても3人でひとつみたいな感じが出てくるんですよね。橋口(亮輔)監督という大きな柱があったから、3人とも同じ方向を向いてやっていくことができたのだと思います。このチーム感を作ってくれたのも監督だなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

監督の“全然関係ない話”もヒントに

――三女の清美が連れてきた婚約者のタカヒロの立ち位置が絶妙でした。江口さんは本作における「タカヒロ」をどのように見ていますか。

江口: 「いい男だな」と思って見ていました。この人が私たち三姉妹とお母さん、私たち家族を救ってくれた人なので、 本当にあの場に彼がいなかったらダメだっただろうなと思います。後半の方で、タカヒロが語り出すシーンは特に印象に残っていますね。あそこでこれまでのみんなの気持ちや心をとかしてくれるので、作品の中でも大切な場面ですし、面白いなと思いました。

――橋口監督から、作品やキャラクターについてのお話はありましたか。

江口: 具体的に「ああしてこうして」と言われたことはなかったのですが、リハーサルで監督が、「この間、こういう人に会って、こんなことを言っていたんだよ」って、全然関係ない話をするんです。でも実はそれがこの作品に大いに関係していて、この役をやるにあたってすごくヒントになりました。

直接的にキャラクターの感情と関係するわけじゃないけど、その話を聞いてどう思うか、浮かんだ感情みたいなことを共有したところはあったのかな。あとは、監督が1人で何役も動いてみせてくれたので、それを見ながら、「監督がイメージする弥生はこういう人なのか」というのが見えてきました。撮影日数もあまりなかったし、監督の期待に応えようと一生懸命になっていました。

朝日新聞telling,(テリング)

「自分のことを棚にあげて家族には色々言っちゃう」

――演じた弥生は、地方から東京に出てバリバリ働くしっかり者ですが、どこか共感した部分はありましたか?

江口: 弥生とは年齢もほとんど一緒だし、独身という状況も同じ。私も5、6歳下の妹がいるので、妹に対して「お母さんにはこうしてあげた方がいいよ」みたいに口うるさく言ってしまうところは似ているなと思います。ただ、弥生とひとつ違うところは、「母から何かを強要されたか、されなかったか」というところですかね。私は昔から自由にやらせてもらってきましたから。

――ご自身も兄妹のなかではしっかり者の弥生的なポジションなのでしょうか。

江口: ところがそうはならないんですよ。なので、妹からすれば「お前が言うな!」ってことなんでしょうけど(笑)。この映画の中の人たちもそうですが、家族って難しいですね。自分のことを棚に上げて、相手には色々言っちゃいますから。

――弥生は美人姉妹と言われる妹たちにコンプレックスを持っていましたが、江口さんはそのような感情を持ったことはありますか?

江口: 妹に対する嫉妬とかは全然なくて、むしろ尊敬です。妹は誰とでも仲良くなれるので、「今日は誰々さんと遊びに行く」とか、自ら人のところに行くのがすごく好きな人。そういうところは本当にすごいなって思います。

私自身のコンプレックスはたくさんありますよ。「こんな自分、嫌だな」と思って、直そうと思うけどなかなか直せないですし、受け入れられたら楽なんですけどね。だけど、そういう自分なんだからしょうがないなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

大好きだけど大嫌いな「お母さん」

――弥生は「親の期待に応えたい」と努力を重ね、母親に認められたいと願っている人でしたが、そんな弥生の姿は江口さんの目にはどう映りましたか?

江口: なんか一生懸命な人ですよね。お母さんに褒められたい、認めてもらいたい。その一心で、子どもの頃からお母さんの言う通りにやってきたのに、いつまでたっても認められないのは悔しいし、 相当しんどいと思います。だけど、強がりながらがんばって生きている人だなと思いました。

お母さんの期待に応えようと必死に生きてきたのに、母親から突き放されたようなことを言われたら、「今までの自分は何だったんだ」と思うのは当然ですよね。お母さんのことは大好きだけど大嫌いでもあって、誕生日も喜ばせたいけど、お母さんのようには生きたくないという矛盾がある。どうしたって、色々な感情があるだろうなと思います。

――作品のキャッチコピーに「家族ってわずらわしくて、厄介で、それでもやっぱり、いとおしい」とありますが、本作を通して「家族との関わり方・距離の保ち方」について考えたことはありますか。

江口家族といっても、やっぱり、ある程度の距離はあった方がいいと思います。家族だけど別々の人間で、別々の人生を歩んでいるわけですから。「家族だから何から何までやってあげなきゃいけない」ということは絶対ではないと思います。でも、たまに会うとほっとしたり、楽しく話したりできますよね。

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■慎 芝賢のプロフィール
2007年来日。芸術学部写真学科卒業後、出版社カメラマンとして勤務。2014年からフリーランス。

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