1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「ピシッと立っている方が隣にいれば自然と背筋が伸びるもの」 名コンビぶりは、まさに人間関係のお手本! 【草笛光子さん × 唐沢寿明さん】

「ピシッと立っている方が隣にいれば自然と背筋が伸びるもの」 名コンビぶりは、まさに人間関係のお手本! 【草笛光子さん × 唐沢寿明さん】

  • 2024.7.6

年齢や立場は違っても、それぞれ、自分の道を歩いてきた同士―それが、大人と大人のリスペクト。
新作映画で等身大の卒寿を表現した草笛光子さんと、それを支えた唐沢寿明さんの名コンビぶりは、まさに人間関係のお手本。
今、ともにここにあること寿ぐ。そんな相手に出会えるって、奇跡です。

滲み出る品格や色っぽさ。 向かい合うたびいつもハッとさせられました

草笛光子さん(以下、草笛) 作家・佐藤愛子先生の90歳を、実際に90歳になった私が演じること、これはなかなかの難題でした。何しろ、ご存命でご活躍中の人物を演じるのも、初めての経験でしたから。でも、お目にかかった佐藤先生はズバッと痛快な発言をなさる方で、そういうところは少し私と似ているのかもしれません。

唐沢寿明さん(以下、唐沢) 撮影中も、気持ちよさそうに台詞をおっしゃってましたよね。はっきりものを言う人がいて、その言葉に多くの人がスカッとするという状況が、何周か回って今の時代に合っているんだろうなと思いました。
僕がこの作品に参加したのは、ひとえに草笛さんのために何かしたかったから。共演は大河ドラマ(2002年放送『利家とまつ〜加賀百万石物語〜』)以来でしたが、ちっとも印象が変わらないんですよね。このお歳になれば何かしら変化があるものなのに、それが全然なくて。

草笛 変わりましたよ。ヨロヨロに(笑)。

唐沢 いやいや、カメラの前で向かい合って目が合うと、これまでに培ってこられた品格とか色っぽさとか、そういうものにハッとさせられるんです。今回の撮影だって、草笛さん、僕に触れてはいたけど、まったく寄りかかっていなかった。舞台で鍛えた体幹が、しっかりされているからですよ。

草笛 それは、あなたがピシッとされているから。相手がそうであれば、こちらも背筋が伸びるものですよ。一緒にお芝居をしていて、唐沢さんは本当にやりよい方でした。それに、どこかとても近しいものを感じるのね。まるで、きょうだいみたいに。

誰かに喜んでいただきながら自分も楽しむ。 生きることはやっぱり「めでたい」のよ

唐沢 うーん、性格は似てないんじゃないかなぁ(笑)。僕が演じた吉川は生き方を変えられない時代遅れの男でしたが、作家と編集者として、草笛さん扮する愛子さんと存分にやり合えてよかったです。僕自身はケンカしたり怒ったりすることは年に何度もないけれど、役を通せば言いたいことが何でも言える。それに今回は、徹底的に「受ける」側に回ると決めていましたので。

草笛 そうなの?

唐沢 ええ。僕が妙に前にしゃしゃり出ると、愛子さんと吉川のせっかくの関係がおかしくなってしまうでしょう? 自分はサポート役だと決めたら、それに徹する。それはそれで、やりがいになりますから。

草笛 だから、あんなに撮影が面白かったのね。90歳になった今、しみじみ思うのは、この作品のタイトル通り「何がめでたいっていうのよ?」ということ。老いは毎日が億劫さとの闘いで、あれもこれもやりたいと思っていても、だんだんと億劫さに軍配が上がる場面が増えてくるんです。

唐沢 そうなんでしょうね。僕にはそもそも生涯現役という考え方自体がなくて。草笛さんのように90代で俳優であり続けていることが、まったく想像できないです。

草笛 私だってそうでしたよ。90歳になって経験するまでわからなかった。でも、その苦労をしかつめらしい顔で人に言うものではないし、年齢と闘っても損をするだけ。だったら受け入れて、初めて体験する90代を大事に生きてみようと。だいたい、今すぐ死ぬわけにもいかないですしね(笑)。

唐沢 ハハハ。続けられるうちは続けていきましょう、ということですね。

草笛 まあね、誰かが喜んでくださるうちは……そして、自分も生きて、演じることを楽しめるように。だって、今回のように、楽しい時はやっぱりあるものですから。

唐沢 撮影中も、ずっと楽しそうでしたよ。たまに踊ったりもされていて、監督に「草笛さん、踊らないでください。もう一度」って言われていましたよね。

草笛 私、そんなことしてた?

唐沢 ええ。去り際にちょっと足なんか上げたりして。舞台でやっていたのが、クセになっているんじゃないですか(笑)。

草笛 フフフ、「引っ込み」ね。でも、やっぱり生きているって、素晴らしいこと。その素晴らしさを自分がどこまで出せるか、しかも、人に伝わるように……それはやっぱり、相手があってのことなんですよ。

〔 映画 〕 『九十歳。何がめでたい』

断筆宣言をした人気作家・愛子。悠々自適の日々のはずが、やりがいを失い気持ちは沈むばかり。が、編集者・吉川の説得で渋々筆を取った途端、生き生きとした時間が蘇り……。原作は昨年100歳を迎えた佐藤愛子氏の同名エッセイ。
「年を取るって大変そうだけど、ちょっと楽しそう……映画を見た方に明るい気持ちになっていただければうれしく存じます」と草笛さん。

原作:佐藤愛子『九十歳。何がめでたい』
『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(小学館刊)
監督:前田 哲 脚本:大島里美 音楽:富貴晴美
出演:草笛光子 唐沢寿明 藤間爽子 木村多江 真矢ミキ
配給:松竹
全国公開中

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会©佐藤愛子/小学館

俳優・草笛光子
1933年生まれ。松竹歌劇団を経て、70年以上にわたり舞台、映像作品に出演。99年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章。『草笛光子 90歳のクローゼット』などファッションにまつわる著書も多数。

俳優・唐沢寿明
1963年生まれ。80年代より俳優活動を開始し、数々のドラマや映画、舞台に出演。最近の出演作に『連続ドラマW フィクサー』(Season1〜3)『ドラマプレミアム「万博の太陽」』などがある。

撮影/天日恵美子 スタイリング/清水恵子(草笛さん)、勝見宜人(唐沢さん)
メイク/中田マリコ(草笛さん)、髙橋幸一(唐沢さん) 文/大谷道子

大人のおしゃれ手帖2024年7月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

ファッション、美容、更年期対策など、50代女性の暮らしを豊かにする記事を毎日更新中! ※記事の画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる