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『95』『だが、情熱はある』King&Prince・高橋海人の演技が人の心を打つワケは?

  • 2024.7.4
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『95』『だが、情熱はある』King&Prince・高橋海人の演技が人の心を打つワケは? の画像1
俳優業がふたりとも順調なキンプリ(写真:サイゾーウーマン)

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、 『95』(テレビ東京系)主演のキンプリ・高橋海人について俳優としての魅力をひもとく。

目次

・『95』高橋海人は見事に演じきった
・『だが、情熱はある』 俳優としての大きな転機
・高橋の演技が人の心を打つワケは?
・高橋海人が演じる「冴えないダメなやつ」の説得力

『95』高橋海人は見事に演じきった

春クールのドラマが終了した。もっとも印象深かったのは高橋海人が主演を務めた青春ドラマ『95』(テレビ東京系)だ。

舞台は1995年。Qこと広重秋久(King&Prince・高橋海人)はオウム真理教が起こした宗教テロ・地下鉄サリン事件にショックを受け「世界は終わるのではないか? という不安に取り憑かれる。そして、同じように「世界の終わり」に取り憑かれている翔こと鈴木翔太郎(中川大志)を中心とした高校生チームと出会い、行動を共にするようになる。

翔たちは「世界の終わり」が来ても生き残ることのできるカッコいい大人になりたいと考え、ファッション雑誌で高校生モデルとしてデビューしたり「渋谷浄化作戦」と称してカツアゲをしている不良グループにけんかを挑むといった派手な行動を繰り返していた。

一方、Qも翔たちと同じ渋谷の私立高校に通う優等生だが、自分は何もできないダメな人間だという無力感を抱えていた。しゃべり方もぎこちなく、いつもオドオドとしており、イケてない空気を全身から漂わせている。

そんなQが彼らと行動を共にする中で変わっていく様子を、高橋海人は見事に演じきっていた。

高橋海人、『だが、情熱はある』 俳優としての大きな転機

高橋はKing&Prince(以下、キンプリ)のメンバーとして活躍する人気アイドル。俳優としては、2018年の深夜ドラマ『部活、好きじゃなきゃダメですか?』(日本テレビ系)で、当時キンプリのメンバーだった神宮寺勇太、岩橋玄樹とトリプル主演を果たしている。

本作は、サッカー部に所属しているが、いつもサボることばかり考えている高校生の物語で、高橋はお調子モノの西野を演じた。

その後、『ブラック校則』(同)、『未来への10カウント』(テレビ朝日系)といった学園ドラマに出演していく中で俳優としての経験を積み、22年には深夜ドラマ『ボーイフレンド降臨!』(同)で記憶喪失の青年・漆畑澄人を演じ、単独主演を果たしている。

俳優として大きな転機となったのは、23年に放送された『だが、情熱はある』(日本テレビ系)だろう。

本作はお笑い芸人・オードリーの若林正恭と南海キャンディーズの山里亮太の自伝エッセイを元にした物語で、彼らがお笑い芸人として一人前になっていく姿を、高校時代から追いかけていく自伝的青春ドラマだ。

本作で高橋は「若林正恭」を演じ、SixTONESの森本慎太郎が「山里亮太」を演じた。

キラキラとした人気アイドルの高橋と森本が、世の中に対する恨みつらみをネチネチと語る、ネガティブでイケてないキャラを売りにしてきた若林と山里を演じるのは、いくらなんでも無理があるのではないかと当初は思われたが、二人の芝居は実に見事で、放送が始まると絶賛の嵐となった。

また、それぞれの相方であるオードリーの春日を演じた戸塚純貴と、南海キャンディーズのしずちゃんを演じた冨田望生の演技も本人の生き写しのようで、二組がM-1グランプリで披露したコントも劇中で再現され好評だった。

高橋海人の演技が人の心を打つワケは?

役作りにあたり高橋は、若林のラジオを聞き込むことで「言葉のてっぺんを強く言う」といったしゃべり方の特徴を読み解き、口調をトレースしようと試みた。

また、若林のエッセイを読み込むことで若林の思考を分析し、序盤は「なるべく人の顔を見てしゃべらない」ように意識することで、人見知りの若林に成り切ろうと試みたという。

おそらく高橋は鋭い観察眼の持ち主なのだろう。そのため演じる対象がはっきりしていると、ダンスを覚えるように所作を完コピできるのだと思うのだが、仕草を模倣するだけでは人の心を打つ芝居にはならない。

モノマネを入り口にして、世間に対して歪んだ憎しみを抱えていた若き日の若林の鬱屈した心情の深い部分とシンクロできたからこそ、高橋の演技は評価されたのだろう。

高橋海人が演じる「冴えないダメなやつ」の説得力

若林を演じた経験は『95』でも生かされている。世の中に対して悪態を突きながら、自分が一番ダメなやつだという思いを抱えているQの姿は『だが、情熱はある』の若林を経たからこそリアルに響く芝居になっていると感じた。

そして、話が進むとQは男子高校生モデルを経験したことで外見が垢抜け、仲間と一緒に戦うために空手を習い、みるみる男前に成長していく。

カッコよく成長したQのほうがアイドルとしての高橋の姿に近いため、成長した姿に説得力がある。しかしそれは、序盤の冴えない芝居に説得力が宿っていたからこそだ。

また、渋谷の街を全力疾走したり、不良グループとけんかをする場面といったアクションが多いのも本作の特徴だが、どのシーンも躍動感のある素晴らしい動きとなっており、ダンスに定評のある高橋ならではだったと言える。

発声を含めた体の仕草から役に入り心情を理解するというのが高橋の芝居に対するアプローチだ。たまたま冴えない若者の役が2作続いたが、今の髙橋ならどんな役でも演じきることができるのではないかと思う。

その意味で、俳優としての将来がとても楽しみだが、あと1作ぐらいは冴えない若者役の集大成となるような役を演じてほしいとも思う。

成馬零一(ライター)
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020(PLANETS)がある。

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