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フランスの18世紀、啓蒙時代に贅沢に開花したメティエ・ダール。

  • 2024.7.4
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展示品の見事な細工と素材をあしらった『ポケットサイズの贅沢/ 啓蒙時代の小さな貴重なオブジェ』展のポスター。

マレの小さなコニャック=ジェイ美術館は、デパートのサマリテーヌを創設したエルネスト・コニャック=ジェイ夫妻がコレクションした18世紀の芸術作品を所蔵している。現在開催中の『ポケットサイズの贅沢/ 啓蒙時代の小さな貴重なオブジェ』展に集められたのは、彼らが収集したオブジェからのセレクションをベースに、ルーヴル美術館やヴェルサイユ宮殿、そして海外の美術館から貸与の品と合わせて約300点の小さなオブジェ。贅沢が凝縮され、どれもまるでゴージャスな宝飾品のよう。ひとつずつ丁寧に見て回る来場者たちはため息をつきっぱなしだ。

会場最初の部屋は、小さなオブジェの辞書のようにバリエーションを展示。©️Paris Muséed- photography: Fabrice Gaboriau

啓蒙時代と呼ばれる18世紀のフランスは装飾芸術とメティエ・ダールが著しい発展を見せた時代である。展覧会に展示されている小さなオブジェはソーイングキット、嗅ぎタバコケース、つけぼくろボックス、キャンディボックス、舞踏会の手帖、メッセージケース......この時代の日常の暮らしを彩る小物は、どれも持ち主の富の象徴であり社会的立場の象徴でもあったのだ。ゴールド、プレシャスストーン、鼈甲など高価な素材が用いられたユニークピースの数々。王室、貴族たちのより美しく凝った品をというオーダーにこたえるべく、職人たちは新しい構造や仕組みを考案し、この時代の創造性を豊かなものとした。会場の最初の部屋には、用途さまざまなオブジェ12種を一覧できるように展示している。

1770〜1780年の必需品ケース。書く、縫う、刺繍をするための必需品を収めたケース。高貴な女性たちに刺繍の心得が要された時代だ。©CC0 Paris Musées/Musée Cognacq-Jay

1800年頃のジャン=フランソワ・ボットによる香水吹付け器。©CC0 Paris Musées/Musée Cognacq-Jay

蓋の内側に鏡がついた1790年ごろのつけぼくろ用ケース。会場では、こうしたケースを手にする女性の肖像画も展示されている。©CC0 Paris Musées/Musée Cognacq-Jay

次の会場ではローブ・ア・ラ・フランセーズと呼ばれる18世紀のドレスのポケットの位置を示し、この時代の女性たちが小さなオブジェをどのように持ち運んでいたのかを見せている。外出時にポケットにオブジェを偲ばせるのは男性も同様。外出先で見事な細工が施された小さな嗅ぎタバコケースを取り出して人に薦めて、オブジェの素材や施された仕事を相手にさりげなく見せることで自分の地位と富も相手に示すことができた。

18世紀のローブ。構造がわかりやすいよう、体半分のスカートを外してパニエが見えるように展示している。photography: Mariko Omura

贅沢な小さなオブジェ類の使い手を語った後、展示は作り手へと目を向けさせる。小さな実用オブジェの流行はフランスからヨーロッパへと広がり、英国、ドイツ、イタリアにも工房が生まれていったそうだ。ペイント、エナメル、石細工など複数のサヴォワールフェールがオブジェの製作に要され、その結果技術の革新が生まれることに。素材については高価なものだけでなく、紙、木、藁といった値のはらない素材も使われるようになり、小さな実用オブジェはエリートだけのものではなくなっていった。

1760〜1780年頃のメッセージ用の筒。携帯電話でメッセージが送れなかった時代の男女間の必需品では? ©CC0 Paris Musées/Musée Cognacq-Jay

1780年頃、ドレスデンのJohann-Christian Neuberが製作したボックスには、18世紀の自然科学への関心が込められている。 ジャスパー、コルナリンなど使われている120の鉱物のひとつひとつに番号がうたれ、ボックスは小さな解説書と合わせて依頼主に届けられた。©CC0 Paris Musées/Musée Cognacq-Jay

1770年頃のめのうに植物を描いたボックス。©CC0 Paris Musées/Musée Cognacq-Jay

展覧会でもっとも人々の注目を集めているのは、贅を凝らしたオブジェがガラスケースに多数並べられた第6室の「収集の芸術」だろう。この手の小さなオブジェは王室、宮廷の人々の間で素晴らしいギフトとしてやりとりされていただけでなく、コレクションの対象でもあった。プロイセン王フレデリック2世は贅を極めた嗅ぎタバコ入れを300個近く収集していたそうだ。当時の人々を魅了した18世紀の金銀細工のエレガンスとサヴォワールフェールにコニャック=ジェイ夫妻も心惹かれ、260点近くを集めた。1960年代に入って収集を始めたのは篤志家のロザリンド&アーサー・ギルベール。フレデリック2世が所蔵した嗅ぎタバコ入れもいくつか含まれている彼らの200点のコレクションは、2008年からロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館が保管している。宝飾品とも呼べる小さな実用オブジェの個人コレクションとしては最大であり、クオリティにおいても素晴らしいものばかり。この会場でも彼らの所蔵品からのボックスが展示されているので、気をつけて見てみよう。

第6室の展示より。中央の嗅ぎタバコケースは1765年頃にベルリンで製作された。ケースの周囲にもダイヤモンドで花が描かれている。ロザリンド&アーサー・ギルベールの所蔵品。©️Paris Muséed- photography: Fabrice Gaboriau

1760〜1770年にDaniel Baudessonが製作したフルーツカラーが愛らしい嗅ぎタバコ入れ。©RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Martine Beck- Coppola Paris, musée du Louvre

1770年〜1775年にロンドンの王立製造所で作られた嗅ぎタバコ入れ。©The Royal Collection/ HM King Charles III

『Luxe de poche/ Petits objets précieux au siècle des Lumières』展
会期:開催中~9月29日
Musée Cognacq-Jay
8, rue Elzévir 75003 Paris
営)10:00~18:00
休)月
料)9ユーロ
www.museecognacqjay.paris.fr
@museecognacqjay

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