1. トップ
  2. エンタメ
  3. “共感できないキャラ”がどんどん魅力的に…ヒールを描く天才・生方美久の手腕に期待がかかるワケ。『海のはじまり』第1話考察

“共感できないキャラ”がどんどん魅力的に…ヒールを描く天才・生方美久の手腕に期待がかかるワケ。『海のはじまり』第1話考察

  • 2024.7.5
  • 9885 views

目黒蓮主演の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)は、名作『silent』の制作チームが再集結し、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品だ。人と人との間に生まれる愛と、そして家族の物語を丁寧に描く本作の第1話の考察レビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
—————————
【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。

『海のはじまり』第1話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第1話より ©フジテレビ

スピッツの楽曲、イヤホン、そして“好きな人”のせいにする別れの告げ方…。目黒蓮主演ドラマ『海のはじまり』は、初回から『silent』(2022、フジテレビ系)のエッセンスが色濃く出ていた。

 

『silent』では、急に姿を消す側の役回りを担当していた目黒蓮が、今度は急に姿を消される側に。同じ“喪失”を描いた物語でも、まったく異なる目黒の表情を堪能することができる。

8年も会っていなかった元恋人が亡くなり、葬式に参列するとそこには7歳になる女の子がいて、「あなたの娘だ」と言われる…なんて、少し現実感がないシチュエーションだが、脚本家・生方美久のマジックにかかると一気にリアリティを増し、自分ごととして捉えられるようになるから不思議だ。

知らないところで娘が生まれていて、ゆっくりと父親になっていく…という設定は、『マイガール』(2009、テレビ朝日系)と被る部分もあるが、大きく異なるのは、主人公の夏(目黒蓮)に3年間も付き合っている恋人・弥生(有村架純)がいること。

そして、夏は中絶同意書にサインを書いているので、水季(古川琴音)が自分との子どもを宿していたことを知らないわけではない(しかし、中絶したと思っていた)。さらに、水季が娘の海(泉谷星奈)に、夏がパパであることを教え込んでいたこともあり、一筋縄ではいかない展開になりそうだ。

『海のはじまり』第1話より ©フジテレビ
『海のはじまり』第1話より ©フジテレビ

正直、いちばん感情移入ができなかったのが水季だった。中絶同意書にサインを求めて、子どもを堕したと伝える。そして、一方的に「夏くんより好きな人できちゃった」と別れを告げたのに(この好きな人というのは、娘のことを指しているのだと思うが…)、生まれた娘に夏のことを「パパ」だと言い、夏の家までの行き方を教え込んでいたらしい。その結果、娘は急に家までやってきて、「夏くんのパパ、始まらないの?」と言い出した。

夏が、妊娠した瞬間に逃げるようなクズ男なら、隠れて産もうとする気持ちもわかる。しかし、夏はちゃんと向き合おうとしていた。水季の不安を他人ごとのように捉えるのではなく、ちゃんと自分ごととして受け止めていた。「面倒なことが嫌い」と言っていた夏に、「本当は産みたい」とは言えなかったのかもしれない。それでも、やっぱり伝える努力をしてもよかったような気がする。

そして、夏に隠れて子どもを産む覚悟をしたのだとしたら、家までの道を教えこむのはどうかと思う。死期を悟って、ひとつでも多く娘が頼れる場所を残してあげたい…と考えたのなら、ちゃんと間に入って、頼れるかどうかの確認、準備をしておいてあげるべきだ。大学の同級生に、夏の状況を聞いていた可能性もあるけれど、7年間も会っていない昔の恋人に最愛の娘を託すのは、あまりにもリスキーすぎる。

ただ、まだ第1話。キャラクター描写がうまい生方美久のことだから、水季の気持ちもしっかりと丁寧に描いていくはずだ。『silent』や『いちばんすきな花』(2023、フジテレビ系)でも、ヒール側にいた人物がどんどん愛おしく見えてきたように。回を重ねるごとに、水季の考えも理解できるようになっていくのだろう。

『海のはじまり』第1話より ©フジテレビ
海のはじまり第1話より ©フジテレビ

第2話の予告で、朱音(大竹しのぶ)が「彼女さん(=弥生)がいちばん巻き込み事故って感じ」と言っていたが、本当にその通りだと思う。弥生は30歳で、夏と付き合って3年。相関図によると、そろそろ結婚も? と考え始めていたらしい。それなのに、「実は大学時代に付き合っていた彼女との間に子どもがいて…」なんて言われたら。想像しただけでしんどすぎる。

夏が浮気をしたとか、実は既婚者だったとか。そういう明らかなダメポイントがあれば、弥生も吹っ切って前に進むことができたかもしれない。しかし、夏は海の存在を知らなかったわけで、水季ともちゃんと別れているわけで。怒りのぶつけどころがないのが、いちばん辛い。弥生は、最終的に海の母になる覚悟をするのだろうか。

正直、わたしが弥生の友人だったら、「やめた方がいいんじゃない?」と言ってしまうかもしれない。そもそも、夏自身が父親としての自覚が皆無なのに、それを支えていけるのか。いくら弥生が面倒見がいいとはいえ、“彼氏の元カノ”の忘れ形見を育てていけるのか。

ただ、自分が弥生の立場だったらどうだろう。3年間も付き合っている大好きな彼を、このまま見捨てることができるだろうか。

『海のはじまり』第1話より ©フジテレビ
海のはじまり第1話より ©フジテレビ

『海のはじまり』は、「人は、いつどのように“父”になり、いつどのように“母”になるのか」をテーマにしている作品でもある。ちなみに、夏には母親の再婚によってできた血のつながりのない父親・和哉(林泰文)がいて、しっかりと親子としての関係性が成り立っていることが、第1話で描かれていた。

実家に帰ってきた息子(=夏)の憔悴した表情や、雰囲気から“誰かが亡くなったのかな?”と察して、さり気なく黒のネクタイを渡す。そして、受け取った夏に「どうしたの?」と聞かれ、「親の勘」と答える場面は、義父という裏設定を知ってから見ると、より深みを増すシーンだ。

お腹のなかに宿った瞬間から海の母だった水季と、今まで父ではなかった夏。第1話では、「夏くんは産むことも堕すこともできないんだよ」「男の人は隠されていたら知らないでしょうね。妊娠も出産もしないで、父親になれちゃうんだから」と、産める母と産めない父の対比を明らかにして、妊娠出産における男性の無力さをはっきりと描いていた。しかし、弥生が産まずして母になるとすれば…。

大ヒットドラマ『silent』を送り出したチームが新たに紡ぐ家族の物語を、じっくり堪能していきたいと思う。

(文:菜本かな)

元記事で読む
の記事をもっとみる