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【映画】年の差恋愛事件、当事者×演じる女優の物語『メイ・ディセンバー ゆれる真実』 7/12公開【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

  • 2024.7.3
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映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は、7月12日(金)公開の『メイ・ディセンバー ゆれる真実』。実際に起きた事件、30代女性と10代の少年の情事をモチーフに、オスカー女優のナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアが共演。


事件の後、の心境やどう見られていたか、を描く

[メイ・ディセンバー]とは、[親子ほど歳の離れたカップル]を示す英語の慣用表現だそう。そもそもこの英語は、アメリカではある事件でよく知られています。それは過去にケイト・ブランシェットとジュディ・デンチが共演した『あるスキャンダルの覚え書き』(2006)でもモデルとなった36歳の女性教師と13歳の少年との不倫発覚と獄中出産の事件でした。“二人は本当に愛し合っていたのか”、これが世間の一番の関心事であり、この二人が結婚した時は、更に彼らの真意を知りたいと当時は多く記事が出ました。そんな事件の当事者メアリー・ケイ・ルトーノーも2020年に末期癌で亡くなり、モデルとなった彼女に魅せられた人物が本作の脚本を書き上げたのです。

物語は事実を脚色し、登場人物の勤め先も生育環境も変えています。しかも主人公は、事件には登場しない、いわば私たち観客側の視点となる部外者の女性で、事件の当事者となった女性をモデルにした役を映画で演じることになった女優。特に興味深いのは、女優が役作りの為に女性の夫や家族、周囲の人々に話を聞くうちに、彼女と服の色合いまでシンクロしていくのです。けれど女優は本当に彼女を理解出来たのか。これがまた観客である私たちに人間特有の物事を見るのにフィルターがかかってしまう性質を露見させ、自分自身の胸に手を当ててしまう映画にしていたのです。

オスカー女優ふたりの名演

人という生き物は、答えを求めたがり、誰かを悪者にしたがる性分なのかもしれません。例えばこの映画で言うならば、大人である既婚者の女性の方が悪者として見られやすく、13歳の世間知らずの少年を誘惑し、洗脳したのではと私たちも思ってしまいがちです。げんに劇中の若き夫は、寡黙で妻の言いなりの様にも見えるほど渾身的なので、その疑惑に拍車がかかります。
そんな彼が興味を持ち育てているのが地元では希少となっている蝶の卵。最初は籠の中で大事に育てられ、サナギから羽化して蝶となった際に外の世界へと手放すのですが、まるで彼の願望の様にも捉えられるエピソードです。その理由に幼くして父親になり、家庭の中で早くから責任を負う役割を担うことになったので、彼にとって家は虫籠なのかもしれません。

映画はあくまでもフィクションで、実際の事件をモチーフにしただけなのに、当時の事件と同じく、映画の夫婦のことが頭から離れない不思議な感覚に囚われます。それはきっと女優を演じたナタリ―・ポートマンや当事者の女性を演じたジュリアン・ムーアの何処か謎めいた表情に違和感が残る名演のお陰もあるでしょうが、妙に艶っぽさと生臭さを感じるトッド・ヘインズ監督の演出もあるからなのかもしれません。いや、何よりも“親子ほど歳の離れた関係”には“下心がつきものなんじゃないか”と思ってしまう自分たちの思考回路のせいではないでしょうか。
——伊藤さとり

☑7月12日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー 『メイ・ディセンバー ゆれる真実』

【あらすじ】女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が次回作の役作りのため、ジョージア州サバンナにやってくる。新作で彼女が演じるのは、かつて世の中を賑わせた メイ・ディセンバー事件の当事者役だ。
当時36 歳の女性グレイシーがアルバイト先のペットショップで知り合った13歳の少年と情事におよび実刑になる事件があった。グレイシーは獄中で相手の少年ジョーの子(長女)を出産。出所後ふたりは結婚し、双子の兄妹にも恵まれ、周囲の人々に愛されながら平穏な日々を送っている。
グレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)の家を訪れたエリザベスは、ふたりとすぐに打ち解けようとする。しかし、エリザベスはグレイシーの心の奥底に潜む、後悔や後ろめたさといった“隠れた芽”を探し出そうと、過去の雑誌や資料を集め、人物像に想いを馳せ、考察を繰り返す。調査し、空想し、時には鏡に向かって演じてみるエリザベス。
その後も彼女はグレイシーと行動を共にし、あらゆることを質問する。さらにエリザベスは、情事が起きたペットショップをはじめ、グレイシーのかつての夫、事件を機に離れて暮らす前夫との子どもたちのもとを訪れ、その行動はいつしか“演技のための取材”の範囲を超えて広がっていく。
そして、かつての少年、現在は事件当時のグレイシーと同じ36歳になったジョーは、エリザベスの出現を機に自身の“これまで”と“現在”に想いを馳せるようになる。あの時の判断は正しかったのか? 若さゆえの行動だったのか?
そして事件以来、世間から注目を浴び続けてきた彼はこの先の人生をどう生きるのか?
少しずつ浮かび上がってくる真実と、それぞれの人物が秘めていた感情。それらは複雑に絡み合い、彼らの中にある“歪み”はやがてエリザベスをも変えていく。
2023/アメリカ/117分/R15+
監督:トッド・ヘインズ(『キャロル』) 脚本:サミー・バーチ
原案:サミー・バーチ、アレックス・メヒャニク
出演:ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトン
字幕翻訳:松浦美奈
原題:MAY DECEMBER
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

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