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「ファッションと世界は危機的状況にある」 ──マリーナ・アブラモヴィッチ、グラストンベリーで平和のための7分間の黙祷

  • 2024.7.3
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マリーナ・アブラモヴィッチは電話口で、「すごく緊張しています!」「歌手ではなく、ビジュアルアーティストで、25万人の前でこのようなことをやったことがある人は一人もいません。完全にパニックです」と話す。

6月26日から30日(現地時間)にイギリス・サマセット州で開かれたグラストンベリー・フェスティバル2024。アブラモヴィッチはそのメインステージに登場し、観客に7分間の黙祷を求める予定だ。それを前に「重要なことをやっているのはわかっていますし、リスクのあることをするのは大好きです。失敗する覚悟もできています」と心境を語ってくれた。

今年のフェスティバルのテーマは「平和」。しかしそのコンセプトを踏まえても、アブラモヴィッチの行動は型破りなもの。多くの人は日常から逃避するため音楽フェスティバルに足を運ぶが、彼女はそれを“反省の場”に変えようとしていたのだ。「人々は楽しい時間を過ごすために来ます。お酒を飲みドラッグをし、天気もよい。でも私は彼らに黙祷し、今まさに地獄のようなこの地球の状態について考えてほしいのです」と話し、深刻化する気候危機や甚大な被害に遭うウクライナとパレスチナの状況などを指摘。彼女はこれまでの作品のなかでも「沈黙」を強力なツールの一つとしてきた。

ホテルの部屋からオンラインで話をする彼女は、ちょうど衣装のフィッティングを終えたところだった。その衣装は親友のリカルド・ティッシが今日のために特注したシルクローブ。

「ジャーナリストから『アーティストとして、これからどうするつもりですか?』と聞かれることがあります」「私は自分が何をしているかはわかっています。あなたはジャーナリストとして、映画製作者として、労働者として、何をしているのですか? 私たち全員に革命を起こすための役割があるのです」と彼女は言う。そしてその役割にはファッション業界も含まれる。

最終フィッティング中のアブラモヴィッチ
最終フィッティング中のアブラモヴィッチ
「このドレスを着るのは簡単なことではない、ドレスを着ているのではなく、シンボルを着ているのだから」
「このドレスを着るのは簡単なことではない、ドレスを着ているのではなく、シンボルを着ているのだから」

彼女は、「ファッションは危機的状況にあります」と続け、「多くのブランドがさまざまなデザイナーを使い回しています。すべてが“コンテンツ”のためです。ちょうど昨日、ヴィヴィアン・ウエストウッドの服のオークションがあり、ファッションを通じて社会を反映しメッセージを伝えることが当時どれほど革命的で、信じられないほど進歩的だったかに思いを馳せていました。それからリカルドのことを考えました。彼はクチュールをストリートに持ち込み、ファッション界にゲイやトランスジェンダーの居場所を作り、世界を変えました」と述べた。

ティッシとアブラモヴィッチはこれまで何度もコラボレーションをしてきた。今回の衣装についても、「とても美しいドレスです。リカルドは素晴らしいコンセプトを作りました」「アイデアをどう表現するか考えていたところ、リカルドが平和のシンボルを衣装にしてくれました。ただ立っているだけではわかりませんが、腕を広げるとピースサインになります。いつかは美術館に展示されるでしょう」と褒め称える。

ティッシはこの衣装について、「テーマが『沈黙による平和』だったので、沈黙が実際に何を意味するのかを考えました。沈黙は常に強い感情のあとに続くものです。それをこのドレスが体現する必要がありました。インスピレーションは日本の着物から、それを平和のサインに変えるというアイデアがとても気に入っています。軽やかでエフォートレスなクリエイションを目指す方がよいと思ったし、メッセージにも合っていると感じました」とコメント。

ティッシは現在フリーエージェントで、2022年後半にバーバリーを退社。「人生で最も大切な存在だった母を亡くしたあと、しばらく休むことができていてうれしいです。私はずっと働いてきたので、それに戻る前にゆっくりした時間を楽しんでいます」と言い、アブラモヴィッチとの関係性についても「マリーナと私は人生の大きな節目に電話をし互いを励まし合うんです。私はいつでも彼女のために時間を作ります」と語った。

グラストンベリー・フェスティバル2024の3日目に
Glastonbury Festival 2024 - Day Threeグラストンベリー・フェスティバル2024の3日目に "Seven Minutes of Collective Silence"を披露するマリーナ・アブラモヴィッチ。

同世代のビジュアルアーティストやパフォーマンスアーティストのなかでは珍しく、アブラモヴィッチは長年のファッション愛好家だ。70年代のアーティストは「汚れたジーンズしか着なかった。ファッションは敵で、赤い唇と赤いマニキュアは頑張りすぎ。ひどいものとみなされていた」と彼女は笑い、「私はいつも女性としてとても醜いと感じていたし、アーティストとして安心したこともなかった。自信が持てなかった」という。しかしその後、彼女はツールとしてのファッションに出合ったそう。「自信が持てること、自分らしい服を着て心からいい気分になることは悪いことではない。私はこれに気づいてから、ファッションについて罪悪感を抱かなくなった」と力強く語る。

その決定的な瞬間は、デザイナーの三宅一生の言葉を聞いたときだったというのだ。「三宅は、『なぜあなたの服はこんなに大きいのですか?』と聞かれたとき、『精神が生きるのに十分なスペースが欲しいからだ』と言っていて、感銘を受けました」とアブラモヴィッチは話し、デザイナーとはスピリチュアルな人々であることに気がついたという。「そしてリカルド・ティッシが現れてから、私は女性として安心することができました。ファッションを楽しみながら、アーティストでもいられるのだと」。それ以来、彼女にとってのファッションとアートは互いに溶け合っている。

今回のグラストンベリーでの行動は、彼女の“新たな頂点”として記憶されるだろう。「世界中には怒りが渦巻いていて、戦争が至るところで起きている。気候変動による危機や貧困、ウクライナやパレスチナでの甚大な被害もだ」「しかしその前にもアフガニスタン、イラン、私の国(ユーゴスラビア)、露土戦争などがあり、人類は絶えず殺し合いを続けていて教訓を学んでいない」と彼女は続ける。

「私が人々に伝えられるのは、自分が変われば、ほかの人も変わるということ」。彼女は平和を求めた革命の例としてマハトマ・ガンジーを例にあげた。「沈黙は抵抗ではなく、抗議でもない。沈黙は自分やほかの人とのつながりを感じ、自分には何ができるかを考えることです。ほかの誰かではなく自分にできることを。私たちはいつも他人を批判してばかりで、自分自身を見つめ直すことがないのですから」

Text: Josè Criales-Unzueta

Adaptation: Nanami Kobayashi

From: VOGUE.COM

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