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クラスの人気者は交友関係の維持で眠れなくて悩んでいる!

  • 2024.7.3
人気者の生徒の睡眠状態は悪い
人気者の生徒の睡眠状態は悪い / Credit: 写真AC

成長期である中学・高校生までは、心と体の健康のために、大人と比べてもたくさんの睡眠が必要です。

最近、スウェーデン・オレブロ大学(Örebro University)の研究プロジェクト、The three-cites study(思春期の子どものメンタルヘルスに対する包括的アプローチに関する研究プロジェクト)から睡眠に関する興味深い研究結果が発表されました。

その研究とは、1000人以上の思春期の生徒を対象として、学校での人気度と睡眠状況との関係を調べたもので、調査をして分かったことは、皆から友達だと思われている生徒の睡眠時間が短いというものでした。

また、女子生徒に限ってみると、人気があるほど不眠傾向なことも明らかになりました。

人気者の夜はなぜ浅い眠りに満ちているのでしょうか?

本研究の成果は、『Frontiers in Sleep』に2024年5月1日付けで公開されています。

目次

  • 人気者の夜はなぜ浅い?
  • そもそも睡眠時間はどれくらい必要なのか?

人気者の夜はなぜ浅い?

子どもにとって良質な睡眠はとても大切なわけですが、今回発表された研究は、10代の子どもたちの友人関係と睡眠との関係を探っています。

研究では、スウェーデンのパブリックスクールに通う1394人がアンケート調査に回答しました。

回答者の年齢の範囲は、14~18歳であったことから、日本で言うと中高生に相当する生徒が対象です。

調査では、まず過去2週間の睡眠時間、不眠傾向(不眠症のリスクを評価するツールである不眠症重症度質問票を利用)、抑うつや不安といったネガティブな感情などについて報告してもらいました。

次に、学校内での友人関係について、最大3人の友達を指名してもらい、指名された友達の数から人気(ポピュラリティ)を評価しました。

すなわち、周りから友達と指名された数が多ければ多いほど、人気者という解釈になります。

分析にあたっては、睡眠に影響を与える可能性のある因子(ネガティブな感情など)の影響を制御した上で、学校での人気度と睡眠状況との関係を調べています。

分析の結果分かったのは、人気のある生徒の睡眠時間が短いということです。

具体的には、皆から友達だと思われている人は、30分近く、睡眠時間が少ないという結果でした。

友達が多い生徒は、友達と過ごす時間や、家でも連絡を取り合う時間が増えるため、結果として睡眠にまわせる時間が減っている可能性があるようです

また、女子生徒に限ってみると、人気のある子どもは、不眠傾向が強いことも認められました。

ある学校の友人関係の視覚的表現。女子は緑色、男子はオレンジ色、友人関係は矢印(お互いに指名している場合は二重矢印)で表され、ノード(〇)が大きい場合は、不眠傾向が強いことを示している
ある学校の友人関係の視覚的表現。女子は緑色、男子はオレンジ色、友人関係は矢印(お互いに指名している場合は二重矢印)で表され、ノード(〇)が大きい場合は、不眠傾向が強いことを示している / Credit Bauducco et al. Sleepy and popular? The association between popularity, sleep duration, and insomnia in adolescents. Frontiers in Sleep. (2024)

この理由について、研究者らは、女子生徒は周りへの思いやりや助け合いの気持ちを持つことが多いために、それらの心配事を就寝時にも持ち込んでしまい、眠りにつきにくくなった可能性があると考察しています。

そもそも睡眠時間はどれくらい必要なのか?

厚生労働省が公表している睡眠に関する推奨事項を示した資料に『健康づくりのための睡眠ガイド2023』があります。

このガイドのこども版を見ると、夜更かしなどの生活習慣に関連する睡眠不足を防止する観点から、小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間の睡眠時間が推奨されています。

子どもにおける年齢別の推奨睡眠時間
子どもにおける年齢別の推奨睡眠時間 / Credit: 健康づくりのための睡眠ガイド 2023(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001254003.pdf)

同じ資料では、成人の睡眠時間の目安が6時間以上となっていることから、子どもの場合、たくさんの睡眠時間が必要なのがよく分かります。

実際、睡眠時間が足りていない子どもは肥満のリスクが高くなったり、学校の成績が悪くなったりします。

また、望ましい睡眠とは、単に睡眠時間が足りているのかというだけでなく、寝つきや睡眠の質が良いことも大切です。

厚生労働省のガイドにも、寝ながらデジタル機器を使用すると、寝つきや睡眠の質の悪化につながると記載されています。

これは単に一例に過ぎませんが、不適切な生活習慣が不眠傾向を強め、心身の発達に悪影響を及ぼすことになります。

今回の研究では、調査した生徒の平均睡眠時間は7時間46分であり、人気者とされた生徒の睡眠時間はこれより30分短い7時間程度でした。

そのため人気のある子は、この年代で求められる推奨睡眠時間からかなり短くなってしまっていることが明確となりました。

ただ研究者らは、アメリカで行われた別の研究では、孤立している男子でも不眠傾向が示されていることに触れ、人気と睡眠との関係は文化的な影響を受ける可能性も示唆しています。

この場合、学校で孤立していてもネット上での交友関係が広がっている場合や、孤独感の不安が不眠に繋がる可能性など、複雑な要因が考えられます。そのため原因を明らかにするためにはより深い調査が必要になってくるでしょう。

しかしいずれにせよ、友人関係が生活の中心となる10代半ばの青少年にとって、人気者であることは睡眠に悪影響を及ぼすおそれが高く、特に女子生徒ではその影響が強くなるようです。

当然友達が多ければ、交友関係に消費される時間が増えるため、そのしわ寄せは他の時間に当てられることになるはずです。今回の研究は睡眠時間のみにスポットを当てていますが、睡眠時間以外にも勉強などの時間に影響している可能性も十分あるでしょう。

一見すると、うらやましく見える人気者ですが、そこにはトレードオフで犠牲にしているものがあるようです。楽しそうに見えるその心の奥底には眠れない悩みが尽きないのかもしれません。

参考文献

Surprising link found between teenage popularity and insomnia
https://www.psypost.org/surprising-link-found-between-teenage-popularity-and-insomnia/

元論文

Sleepy and popular? The association between popularity, sleep duration, and insomnia in adolescents
https://doi.org/10.3389/frsle.2024.1346806

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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