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奈緒さん「つらい思いをした心の痛みに、性別の差はない」 映画『先生の白い嘘』に主演

  • 2024.7.3
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俳優の奈緒さんが主演する映画『先生の白い嘘』が、7月5日(金)から公開されます。男女の間に横たわる「性の不平等」や、自身の性に対する矛盾した感情に真正面から切り込む、センシティブなテーマの本作。男女の性差に翻弄され葛藤する主人公の高校教師・美鈴を体当たりで演じた奈緒さんに、役に向き合った思いや、少しでも健やかな世界に近づくために大切にしたいことを伺いました。

「良い撮影現場になれば」という思いが支えに

――鳥飼茜さん原作の同名漫画を映画化した本作。奈緒さん演じる高校教師の美鈴は、親友の婚約者との関係を隠しながら教壇に立っている――。男女の「性の不条理」をテーマにしたシリアスな作品ですが、撮影中は、どのようにご自身の気持ちを保っていたのでしょうか。

奈緒さん(以下、奈緒): すごく正直に話すと、「自分の力で気持ちを保って、撮影を乗り越えた!」という感覚は、この作品に関してはまったく持てていませんでした。

この作品に向き合う時間は、私にはとてもつらいものでした。ずっと地方で撮影をしていたこともあり、撮影場所とホテルとの往復だったので、作品のテーマと自分の生活を切り離すのに難しい時間が続いて……。とても悩み続けた記憶があります。

――奈緒さんにとって、最後まで撮影を続けられる「支え」になったのは?

奈緒: 今回の現場に「これが初めての映画の撮影現場」というスタッフさんがいたんです。そして、私が演じた美鈴の教え子である、新妻役の猪狩蒼弥さんも、映画への単独出演は初めてと聞きました。

『先生の白い嘘』の撮影現場次第で、彼らにとっての「映画の現場」に対する印象が決まる。そのことが、私のなかでは大きな支えでした。「この現場が少しでも良いものになればいいな」と意識しながら演じていました。

朝日新聞telling,(テリング)

負の感情とも葛藤する「人間らしさ」

――美鈴役を演じる上では、大きな覚悟やプレッシャーがあったかと思いますが、精神を支える土台をつくることができたんですね。奈緒さんから見て、美鈴は、どんな女性に映っていましたか。

奈緒: 「美鈴の身に起こった出来事が、もし違うものだったとしたら、彼女はどんな人だったんだろう」。そんなことを、撮影に入る前に想像しました。彼女の心には、「善良でありたい」といった思いもあれば、それに反するような……たとえば、親友の美奈子に対しては、あこがれと、どこか自分よりも下に見るような気持ちが共存していました。負の感情と葛藤する部分もあって、とても人間らしいと感じました。

――共演者の方たちとの印象的なエピソードがありましたら教えてください。

奈緒: 美奈子役の三吉彩花さんは、私にとって心強い存在でした。一緒に撮影する日数はあまり多くありませんでしたが、ご飯を食べに行って、積極的に話す時間を持てました。この作品や現場のことなどについて、「三吉ちゃんになら言える!」と思っていましたね。

物語の終盤、病室での美鈴と美奈子のシーンは、とくに、彼女と重ねてきた時間があったからこそ成り立つ空気感があったと思います。相手が三吉ちゃんだったから、あのシーンを乗り越えられましたし、次の重要な場面にも自分の気持ちを繋げていけました。彼女には本当に感謝しています。

――美鈴と美奈子の友情が感じ取れる大切なシーンでしたね。一方、美奈子の婚約者で、美鈴に男女の不平等さの意識を植え付けた人物でもある早藤役の風間俊介さん、そして、猪狩さんとの関係性はいかがでしたか?

奈緒: 風間さんとは、役柄もあって、あまりお話をする機会がなかったんです。でも、すごく寒いなか、雨に濡れるシーンの撮影をしていた日に、風間さんが何も言わずに、その場で入浴剤を差し入れしてくださったんです。風間さんの優しさを受け取って、あたたかい気持ちになりました。
そして猪狩くんは、もう、なんて言うんでしょう……。希望のような、太陽のような存在でした。彼がいてくれたこと自体が、私のなかでは大きな光でした。

朝日新聞telling,(テリング)

誰かを思いやるために、自分を大切に

――美鈴は、「自分が女性であることで、不条理な目に遭ってしまう」と捉えています。男女の性別の違いによって、受ける不条理に差が出ると思いますか?

奈緒: 美鈴は、「男女の間に性差は出てしまうものだ」と捉えることで、自分を保ってきた部分もあると思うんです。でも、私が考えるのは……たとえば、本作で描かれた胸の痛むようなつらい経験について、男女別に統計をとったとして、円グラフでその経験の有無についての割合を示したら、そこで出た数字が男女の「差」に見えてしまう。もしかしたら、そういった経験をしている人は、女性の方が多いという結果が出ることもあるかもしれません。

ただ、私は、つらい思いをした一人ひとりが持つ心の痛みに、性別による差はないのかな、と感じます。私は、数字以外の部分、一人ひとりの心にしっかり向き合いたい、といまは思っています。

――奈緒さんは本作への出演に際して「弱者と強者という構図や言葉がなくなって、一人ひとりが“自分”を受け入れられる世界を切に願っている」とコメントしています。そういった健やかな世界に少しでも近づくために、私たちにできることはどんなことだと思いますか?

奈緒: とてもシンプルなことですが、「自分以外の誰かを思いやるためには、何が必要だろう?」と考えると、まずは、自分のことを大切にしないといけないと感じています。

とくに、いまは忙しく、時間のない日々なので、早さや効率の良さを重視しないといけない局面もたくさんあります。そんななかで、自分と向き合い、自身を大切にできる時間をつくれば、心の余裕が生まれる。それが、他者を大事にすることにも繋がってくると思うんです。

この映画を見た後に、作品のテーマについて考えることはもちろん、一人ひとりが、自分自身の心にある、これまで見ないように蓋をしてきた痛みに向き合う時間を持ち、自分を癒やせるのは自分しかいないことを知ること。その上で、周りの人に頼る選択を恐れない、などといった心がけができるようになっていければいいなと思っています。

朝日新聞telling,(テリング)

違和感や心の声を聞き逃さない

――奈緒さん自身、とても忙しいなかで、自分自身を大切にするためにしていることはありますか?

奈緒: 普段から気をつけているのは、自分が「嫌だな」と思ったことにも、しっかり向き合う時間をつくることです。これまでは、嫌なことがあっても、向き合わずに我慢をしていた時期が無意識にあったんです。でも、こういう負の感情が、意外と「自分が何を大切にしているか」という価値観に繋がっているのかも、と気づいたんです。それからは、嫌だなと思う気持ちも前向きに捉えるようになりました。

――なかなかそう思える人は、少ないですよね。

奈緒: やっぱり人間として社会のなかで生きているからこそ、生まれる悩みは多いですよね。誰かと比べて落ち込むことも、自分一人だったら起きないことだと思うんです。

私は、嫌だなと思うことがあれば、その理由について考える時間をつくったり、周りに伝えた方がいいと思う時は伝えたりするようにしています。一人きりで生きていく選択をせず、この社会で生きていくんだ、と決めている限りは、自分が覚えた違和感や心の声を聞き逃さないようにしていきたいです。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■大野洋介のプロフィール
1993年生まれ。大学卒業後、出版社写真部に所属した後、フリーランスとして活動中。

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