1. トップ
  2. 心霊が“はっきり”映ったドキュメンタリーの舞台裏…豊島圭介監督と角由紀子が語る『新・三茶のポルターガイスト』

心霊が“はっきり”映ったドキュメンタリーの舞台裏…豊島圭介監督と角由紀子が語る『新・三茶のポルターガイスト』

  • 2024.7.2
  • 29 views

三軒茶屋に実在する「ヨコザワ・プロダクション」で起こる怪現象の数々をとらえて話題となった心霊ドキュメンタリー『三茶のポルターガイスト』(23)の続編、『新・三茶のポルターガイスト』が公開中だ。

【写真を見る】霊の姿をカメラが捉えた!そこには、あまりにも衝撃的な姿が…

照明の明滅、鏡から噴き出す水、なにもないはずの床から伸びてくる白い手…という現象の真相を突き止めるため、オカルト編集者の角由紀子がヨコザワ・プロダクションに潜入し、定点カメラ、降霊術、サーモグラフィなどさまざまな手法を用いながら“徹底検証”に挑んだ。監督を務めたのは、ホラーにアイドル映画、テレビドラマ、ドキュメンタリーまで幅広いジャンルを手掛ける豊島圭介だ。

かつてないほど幽霊が“はっきり”と映った本作の裏側に迫るべく、PRESS HORRORでは豊島監督と角にインタビューを敢行。聞き手は「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞し、商業映画監督デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が公開を控える近藤亮太が務めた。

「『本物を撮るぞ』と構えたわけではなく、本物としか思えないものを見てしまった」(豊島)

豊島圭介監督は、自身が見た“モノ”に驚きを隠せない様子 [c]2024 REMOW
豊島圭介監督は、自身が見た“モノ”に驚きを隠せない様子 [c]2024 REMOW

――はじめに、『新・三茶のポルターガイスト』は“本物”と“やらせ”を巡った心霊ドキュメンタリーという異色の作品に仕上がっています。今回“本物”の心霊映像を撮影するにあたり、どのようなことからスタートしたのでしょう。

角由紀子(以下、角)「まず、自分が間近でみたものがあまりにもおもしろかったので、純粋に『こんなおもしろいものがあるから、みんな見て!』というのが最初の原動力になっていました。そのあとから『否定派を納得させたい』といった欲も出てきたり、『正体を突き止めた先に、新しい発見があるのでは』という期待が高まって、1作目に続いて2作目を作るに至りました」

角由紀子立ち会いのもと、様々な角度から検証が行われた [c]2024 REMOW
角由紀子立ち会いのもと、様々な角度から検証が行われた [c]2024 REMOW

豊島圭介(以下、豊島)「心霊を信じることと、目の当たりにすることには大きな溝がありますよね。前作『三茶のポルターガイスト』はもちろん、ほかの方が撮ったヨコザワ・プロダクションの動画を観たり、角さんからお話も聞いてはいたんです。でも、自分の目で、実際になにもないはずの場所から手が出てくるのを見てしまって…ガラガラと価値観が崩れるような感覚がありました。同時に、清々しくて神々しいような、ヒヤッとした空気があり、それがおもしろかった。ヨコザワプロにハマった人たちは、これにやられたんだとわかりました」

――今回は前作の後藤剛監督から、豊島監督へバトンタッチされましたね。

豊島「当初は後藤監督で撮影が進んでいたんですが、後藤さんが多忙になってしまったので僕が監督を務めることになりました」

――実際に撮影されたフッテージの中から“物語”が立ち上がってくる構成は、以前豊島監督が手掛けられた「怪談新耳袋 殴り込み!」シリーズを彷彿とさせます。

豊島「『殴り込み』では、こんな映像が撮れたから、こう物語を組もう…などと考えながら編集するのが醍醐味でした。それが今回のヨコザワプロには、最初から物語がある。『すごい場所だな』とハマってしまいました。だから『本物を撮るぞ』と構えたわけではなく、本物としか思えないものを見てしまった、という自分自身のグラウンド・ゼロ体験を基に作っていきました」

――「殴り込み」でも、ほかのいわゆる心霊ドキュメンタリー作品では味わえない生々しさがありました。今回は明らかにレベルの違う映像になっていますが、撮れた“モノ”について、どのような印象を受けましたか。

豊島「『殴り込み』の時は『人間の形をした幽霊が撮りたい!』と思っていろんなところに行ったけど、撮れなかった。今回は心霊スポットで感じるような怨念とか、そういう文脈ではない、もっと違った“モノ”である気がしています」

専門家が各々の立場から究明を試みるが… [c]2024 REMOW
専門家が各々の立場から究明を試みるが… [c]2024 REMOW

角「私もいわゆる幽霊ではなく、違う“モノ”がいる、と言ったほうがみんな納得してくれるんだろうなと思い始めています。この映画を撮影し終えたくらいから、完全に(心霊)肯定派に変わったんです。私はかなりヨコザワプロに通い詰めているのですが、最初に訪れたころは『ヤラセかな?』という疑念がありました。それが何年通っても、一つも証明できる証拠が見つけられてない。ならば本物でしょうと。今回も専門家の方が来ていましたが、明確なヤラセの証拠は見つけられませんでした」

――怪異が現れる時、映像ではその場にいた人の恐怖感が伝わりきらないこともありますが、ヨコザワプロでの現象も、現場では相当に怖い体験だったのでしょうか。

角「最初に見た時は『本当にヤバいモノを見てしまった』と思いました。でも考えてみると、ヨコザワプロの生徒の方はいつも見てるんだから、全然大丈夫だなって(笑)。また徐々に、テレビの企画なんかで芸人さんなんかも来るようになったので、怖くない雰囲気が出来上がっていったと思います」

「心霊スポットの動画が人気なのは、『冒険したい』という気持ちの表れかもしれません」(角)

――「殴り込み」の時代と比べて、YouTube動画を撮るために心霊スポットに行く…というようなパターンも増え、そのような場所で撮影を行うことのハードルが下がってしまっていると思いますが、このような状況をどう感じていますか。

現場にいた多くの人間が同時に目撃している [c]2024 REMOW
現場にいた多くの人間が同時に目撃している [c]2024 REMOW

豊島「言葉を選ばずに言えば、『殴り込み』と同じことをしているなと思います。『殴り込み』が多くの人に観ていただけたことで、悪い規範になってしまった面もあるとは自覚しています。ただ、YouTube動画をたくさん見ているわけではないんですが…正直『編集が下手だな』とは思いますね。せっかく撮れ高があっても、見せ方が追いついていない。けど、いま心霊スポットの動画を観てくださっているお客さんはそんなこと気にしていないと思いますし、自分の感覚がYouTube動画のあり方とズレているのかもしれません」

角「海外でもゴーストハンターのチャンネルは人気があるんです。きっと、みんな冒険したいんですよね。テクノロジーが進んでスマホに向き合う時間が長くなっている分、遠いところに行ったり、危険なことをやってみたりしたい気持ちが根底にあるんじゃないかな。本作のようなオカルトや心霊を調査・探求したいというのとは、また違ったモチベーションなんじゃないかと思います。『自分も行けそうだな』という身近さだったり」

【写真を見る】霊の姿をカメラが捉えた!そこには、あまりにも衝撃的な姿が… [c]2024 REMOW
【写真を見る】霊の姿をカメラが捉えた!そこには、あまりにも衝撃的な姿が… [c]2024 REMOW

豊島「『冒険したい』というモチベーションが心霊スポットへ駆り立てるというのはよくわかります。僕なんかも、大学生だった頃は映画ばかり観て陰気に過ごしていたんですが、『殴り込み』の撮影を通して、30歳を過ぎてから“青春とはなにか”を教えてもらいましたから(笑)」

――豊島監督が心霊ドキュメンタリーを手掛けられるのはしばらくぶりだったと思うのですが、久々にやってみていかがでしたか。

豊島「今回は、『殴り込み』の手法と、『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』の手法を混ぜたんです。『三島』の話が最初に来た時、自分にできるのだろうかと躊躇したんですけど、“素材さえあれば物語は作り上げられる”と『殴り込み』で実感した経験が背中を押してくれました。『三島』は天皇をめぐって右翼と左翼が戦う話でしたが、本作は幽霊をめぐって肯定派と否定派が戦う話で、構造自体は似ているんです。久しぶりにこのジャンルに挑戦してみて思ったのは、恐怖って“溜め”がすべてだということ。見せる・見せないのバランスだとか、そんなことを考えるのは、やっぱり楽しいですね」

――心霊スポットで感じる、場所特有の“怖さ”の体感的な感覚を、どうしたら映像で伝えられるんだろうか?といつも考えているのですが、お2人は本作での経験を踏まえてどう考えられていますか。

次々に起きる現象で、現場は混乱に陥っていく [c]2024 REMOW
次々に起きる現象で、現場は混乱に陥っていく [c]2024 REMOW

豊島「そのご質問を受けて、逆に『そういうことを目指せばいいのか!』と思いました。心霊体験をした時の背筋が凍って耳がキーンとする感じ。あれは確かに映像ではなかなか体験できないものですよね。一歩進むのが怖いみたいな。いま思い浮かぶ数少ない例が、『呪怨』の伽耶子が初めて階段を降りてきたシーンでしょうか」

角「心霊体験の時は、音が消えたり、耳鳴りがすることがあるので、それを再現できるといいのかな?みたいなことは考えたりしますね。あとは、ヨコザワプロの場合は、はっきり見えすぎて怖くなくなっちゃうので(笑)、映像としてははっきり見えすぎないのが大事なのかな」

「時代によって変化する価値観に、どうアプローチするかだと思います」(豊島)

『新・三茶のポルターガイスト』より [c]2024 REMOW
『新・三茶のポルターガイスト』より [c]2024 REMOW

――これまで触れてきた作品や体験のなかで、もっとも怖かったもの。お2人にとっての恐怖の根源とはなんでしょうか?

角「少し違うかもしれないんですが、最近体験して一番怖かったことでもいいですかね。変な夢を見て、目が覚めて起きたら、自分が掛けていた布団の下で、モゾモゾ誰かがいる気がしたんです。すると布団越しにすごく大きな頭をした、男の人らしきものがいるのがわかる。怖くて仰け反って、後ろに下がろうとしたんですが、腰が抜けて立ち上がれなくて。そしたら、布団ごと男が立ち上がり始めたんです。布団が盛り上がって目の前まで来て、いきなり腹を殴ってきた。暗くて手は見えなかったんですけど。目が覚めたら、ずり下がった位置で、そのまま寝ていたので、ああ、本当に起きたことだったんだなって。その体験がここ最近で一番怖かったです」

――なんだか、『エンティティー 霊体』(82)のような体験ですね。

角「なるほど、もしかして色情霊だったのかな…」

豊島「それは男性だったんですか?」

角「はい、私はそう感じました。翌朝起きた時には痛みの感覚もあって。不思議な体験でした」

豊島「僕は恐怖に関する原体験というと、『第三の選択』(※編注:1977年にイギリスで放送された、宇宙開発を題材にしたフェイクドキュメンタリー番組)なんですけど。体験としては『殴り込み』で八甲田山に行った時が一番怖かったですね。後藤房之助伍長の銅像のところまで一人で行って、“いせ”って名付けた日本人形を置いてくるというミッションで。暴風雨の真夜中に旧陸軍の軍服に似せた扮装をして、軍歌を歌いながら進軍する…という。さすがに怖すぎて泣いちゃったんです。死ぬほど怖かった。当時も『なんて不謹慎なんだろう』と思いましたが、いまやったら確実にアウトです」

――コンプライアンスが叫ばれる世の中でホラー的な表現をするうえで、ご自身のなかでの線引きをどのように考えられていますか。

豊島「先ほどの八甲田山の話がいい例で、時代ごとの価値観にどうアプローチするかですよね。ドキュメンタリー作品で言えば、例えばそれが演出であっても、いまはもう誰も女性スタッフの前で下ネタは言わないですし。時代によって変わっていくものだと思っています」

角「私は『TOCANA』というウェブサイトで編集長をしていたので、オカルトらしくギリギリの線を追求したい、という意気込みで色々トライしていたんですが、ある時からGoogleにBANされてしまい広告収益が上がらなくなったりして。そういう体験を経て感じるのは、見せ方を変えるだけで時代に受け入れられたり、受け入れられなかったりするということです。これからも見せ方を考えながら、狭間を狙い続けていきたいですね」

『新・三茶のポルターガイスト』は公開中 [c]2024 REMOW
『新・三茶のポルターガイスト』は公開中 [c]2024 REMOW

取材・文/近藤亮太

元記事で読む
の記事をもっとみる