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もっとSFに目覚めるための「現代SFキーワード辞典」

  • 2024.7.3
【BRUTUS版】もっとSFに目覚めるための現代SFキーワード辞典

【作品の選者】
大森 望、佐々木 敦、福井健太、冬木糸一、堺 三保、さやわか、BRUTUS編集部

小説、映画、ドラマ、ゲーム、漫画、アニメ、演劇の計7分野から、主に2000年以降に発表された作品を中心に紹介。

*キーワードの表記と配列:和語はひらがな、外来語はカタカナで表記。配列は五十音順による。

アンドロイド【Android】

ロボットの中でも、人型や人間を模倣した機械の総称。ヒューマノイド、人造人間とほぼ同義。

小説『マーダーボット・ダイアリー』

著:マーサ・ウェルズ/訳:中原尚哉/2019年邦訳発表
SF4賞に輝く『システムの危殆(きたい)』など連作4編を収める中編集。「語り手は57人を殺した過去から“マーダーボット”と自称する人型警備ユニット。実は超優秀だが、大変こじれた性格。その一人称に“弊機”を使った邦訳は第7回日本翻訳大賞を受賞した」(大森 望)

演劇『アンドロイド版「三人姉妹」』

作・演出:平田オリザ/2012年初演
チェーホフの名作を翻案。三女をロボット工学者の石黒浩博士作のアンドロイドに置き換えた。「オリザさんは“俳優は内面的に役柄と同一化しなくていい”という理論を持ち、外見の調整を行うロボット的な演出を実践してきた人。実際に演じさせたら違和感も含め面白い作品に」(佐々木 敦)

うちゅうせん【宇宙船】

宇宙空間を航行するための乗り物のこと。特に人間が乗ることを想定しているものを指す。

小説『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

著:アンディ・ウィアー/訳:小野田和子/2021年邦訳発表
記憶を失い、病室のような部屋で目覚めた主人公は、実験と推論により、そこが地球上ではないことを突き止める。中学の理科教員の彼は、人類を救うためただ一人恒星間宇宙船に乗っていた……。「今世紀ナンバーワンの“誰が読んでも面白いSF”」(大森 望)

ゲーム『Hardspace: Shipbreaker』

開発:Blackbird Interactive/2020年発売
主人公は宇宙船を解体する現場作業員。莫大な借金の返済のため、船をバラし、部品を売って稼ぐ。ランクを上げて地道に報酬を増やしていく解体ゲーム。「解体する過程で宇宙船を細部まで見ることになるので、宇宙好き・宇宙船好きにはたまりません」(冬木糸一)

演劇『宇宙船イン・ビトウィーン号の窓』

作・演出:岡田利規/2023年初演
とある言語の衰退を食い止めようとする4人の宇宙船乗組員と、アンドロイド、地球外知的生命体による物語。「日本語が母語でない日本在住の外国人とのワークショップで作った作品。役者は1人の日本人を除き全員が外国人です。言葉の多様性を感じさせる、言語SFの演劇版」(佐々木 敦)

かいじゅう【怪獣】

正体不明の怪物のこと。日本で公開された『ゴジラ』から、怪獣映画というジャンルが世界に広まっていった。

映画『グエムル─漢江(ハンガン)の怪物─』

監督:ポン・ジュノ/2006年公開
ソウル中心部を流れる漢江の河川敷に、正体不明の凶暴な怪物“グエムル”が出現。連れ去られた娘を救い出すため、一家は怪物と戦うことを決意する。「大きすぎず小さすぎない絶妙なサイズの怪物。展開の救いのなさも含め、怪獣映画と言うよりは限りなくホラーに近い演出。怖い!」(堺 三保)

映画『パシフィック・リム』

監督:ギレルモ・デル・トロ/2013年公開
深海から突如として出現した巨大で凶暴なエイリアン“KAIJU”。人類は人型巨大兵器を開発し、脅威に立ち向かう。「カイジュウという単語を英語の固有名詞として一般化した記念すべき作品。夜の香港を舞台にカイジュウたちと巨大ロボ部隊とが激突するシーンは迫力満点」(堺 三保)

ゲーム『十三機兵防衛圏』

開発:ヴァニラウェア/2019年発売
レトロチックな架空の1980年代。適性能力を持つ13人の少年少女が“機兵”に乗り、人類の存亡を懸けて巨大な機械の姿をした“怪獣”たちと戦う。時間旅行を使った陰謀とどんでん返しの連続する、ドラマティックな作品。「目を見張る美麗なイラストと、魅力的なキャラが大人気のゲームです」(さやわか)

タイムマシン【Time Machine】

タイムトラベルを可能にする架空の機械。過去や未来への移動手段として描かれる。

ドラマ『ダーク』

監督:バラン・ボー・オダー/2017年〜配信
ドイツのある田舎町で子供の連続失踪事件が勃発。その事件の謎とともに、そこで暮らす4家族の亀裂や暗い過去が明らかになっていく。「失踪事件には、あるタイムマシンが関わってくるわけですが、そのギミックを使うことで、何世代にもわたる陰鬱な物語が浮かび上がってきます」(冬木糸一)

ドラマ『不適切にもほどがある!』

脚本:宮藤官九郎/2024年放送
1986年、昭和を生きる口の悪い体育教師がひょんなことから令和の現代にタイムスリップ。周囲の人々を巻き込み、一人一人の価値観に影響を与えていく。「タイムスリップという技法を用いることで、昭和と令和の時代性とその違いが、くっきりと表れています」(冬木糸一)

ドラマ『ドクター・フー』

シリーズ製作総指揮:ラッセル・T・デイヴィスほか/2005年〜新シリーズ放送
見た目は電話ボックスの宇宙船兼タイムマシンで、時空を股にかけて主人公たちが冒険を繰り広げる長寿番組。最新シーズンでは摂政時代の英国や戦争で荒廃した未来へ。「奇想天外なSFネタとイギリスドラマらしいシニカルさの同居が良い」(堺 三保)

タイムループ【Time Loop】

一定の時間が何度も繰り返される現象。物語では何らかの条件を満たすとループを抜けられることが多い。

漫画『運命の巻戻士』

著:木村風太/2022年〜連載中
2018年に漫画『放課後幽霊 ゼロ』でデビューした作者の3作目。不慮の死を遂げた人々を救う時空警察特殊機動隊は“巻戻士(まきもどし)”と呼ばれ、右目のタイムマシン“リトライアイ”を使って時間を巻き戻す。その目に映る人が全員救われる未来を見つけるまで、優しい新人隊員のクロノが奔走する。(BRUTUS)

ゲーム『Outer Wilds』

開発:Mobius Digital/2019年発売
ゲーム開始から22分経つと太陽が超新星爆発し、星系は滅亡してしまう。プレーヤーは宇宙飛行士となり、そのわずかな時間のループを繰り返しながら、この宇宙に隠された謎と超新星爆発の意味を知ることになる。「22分間の繰り返しで、こんな壮大なドラマが描けるのはすごい」(さやわか)

漫画『All You Need Is Kill』

原作:桜坂洋(さくらざかひろし)/作画:小畑健/2014年連載
異星人の生み出した怪物と、人類の戦いが続く近未来。新兵のキリヤ・ケイジは死ぬと時間が戻る体質を生かし、記憶の蓄積を武器に成長していく。「戦争SFにタイムループを導入した、エポックメイキングな人気作。小説版はハリウッドで映画化もされました」(福井健太)

ちょうのうりょく【超能力】

通常の人間には不可能なことを実現できる特殊な能力や、合理的に説明がつかない超自然的な能力のこと。

ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』

監督:マット&ロス・ダファー/2016年〜配信
80年代のアメリカを舞台に、少年少女とその家族が、小さな田舎町で相次ぐ怪奇現象に立ち向かう。超能力を持つ少女・イレブンが物語の中心となる。「スティーヴン・キングの諸作に代表される、モダンホラーの要素がてんこ盛りです」(堺 三保)

ゲーム『Control』

開発:レメディー・エンターテインメント/2019年発売
科学に反した事象を研究する“連邦操作局”を訪れた主人公。現実と異次元の世界を行き来しながら、超高層ビルの建物内で、念力などの超能力を身につけつつ単身で戦う。「念力で物体を投げながら銃を撃つ。そんな憧れの超能力バトルを自分も体験できます!」(さやわか)

ディストピア【Dystopia】

ユートピア(理想郷)の対義語。不幸や抑圧が支配する未来社会を描いた概念。

小説『ユートロニカのこちら側』

著:小川哲/2015年発表
ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞。サンフランシスコ沖に建設された特別区アガスティア・リゾートの住民は、個人情報すべてを運営会社に提供する代わり、安楽な生活を保証される。「監視されることで得られる調和と安定。近未来のアメリカを舞台にソフトなディストピアをリアルに描く」(大森 望)

映画『マッドマックス:フュリオサ』

監督:ジョージ・ミラー/2024年公開
マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場した女戦士の若き日を描く。核戦争によって荒廃し、無法地帯と化した地ですべてを奪われたフュリオサ。改造バイクに乗って絶叫するディメンタス将軍と、鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョーが覇権を争う世界に対峙する。(BRUTUS)

漫画『九龍ジェネリックロマンス』

著:眉月じゅん/2019年〜連載中
漫画『恋は雨上がりのように』で瑞々しい青春を描いた作者の最新作。香港の巨大スラム街“九龍城砦(くーろんじょうさい)”を舞台に、働く30代の男女が織り成す大人のラブロマンス。いつも通りの街並みで抱えるひそかな思いの正体は懐かしさか恋しさか。その答えに気づいた瞬間、日常は非日常に変わる。(BRUTUS)

のう【脳】

頭蓋骨内にあり、人間の体をコントロールしている器官。思考、行動、記憶、感情などを司(つかさ)る神経細胞の塊。

小説『ゼンデギ』

著:グレッグ・イーガン/訳:山岸真/2015年邦訳発表
元新聞記者のマーティンは息子のため、多人数参加型VRゲーム“ゼンデギ”の中に、自分の一部を再現したキャラを作ってほしいと開発会社勤めのナシムに頼み込む。「社会的、哲学的な問題を掘り下げつつ父子のドラマを紡ぐ。地味ながら惹き込まれます」(大森 望)

映画『ゲット・アウト』

監督:ジョーダン・ピール/2017年公開
ニューヨークに住むアフリカ系アメリカ人の青年・クリスは、白人の彼女の実家に招待された。人種の違いに不安を感じていたが、家族から手厚い歓迎を受ける。しかし、彼はどことない違和感を覚える。物語が進むと、違和感の正体が明らかになり始める。(BRUTUS)

漫画『秘密—トップ・シークレット—』

著:清水玲子/2001~12年連載
死者の脳から記憶映像を取り出すMRIスキャナーを使って捜査が行われる近未来。天才警視正の薪剛が率いる専任チームは、残虐な犯罪者や世間の批判に対峙する。「猟奇や禁忌を厭わないハードな物語と美麗なビジュアルが絶品。続編『秘密 season0』も不定期連載中です」(福井健太)

ファーストコンタクト【First Contact】

地球外生命体との初めての接触のことを指す。いまだ人類は一度もこれを成し遂げていない。

小説『大日本帝国の銀河』

著:林譲治/2021年発表
もしも昭和15年の大日本帝国が高度な異星文明と接触していたら、という設定の改変歴史ファーストコンタクトSF。「最終巻では異星種属の真の目的が明らかになり、はるか未来まで視野に入れた壮大なスケールの宇宙SFへと飛躍。劉慈欣(りゅうじきん)の『三体』三部作に対する日本SFからの応答とも言えます」(大森 望)

映画『メッセージ』

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ/2016年公開
突如として地球に降り立った巨大な球体型宇宙船。言語学者のルイーズは、言葉の通じない謎の知的生命体との意思疎通を任される。「全く現実認識能力が違う異星人と接触することで世界の見方が激変してしまうという、ものすごく難しい内容の原作を見事に映像化している手腕を買う」(堺 三保)

ドラマ『三体』

製作総指揮:デレク・ツァンほか/2024年配信
Netflixの実写ドラマ。中国の文革で父を失った少女が、人類に絶望し、地球外文明である三体星人とのファーストコンタクトを試みる。この行動が人類の命運を変える大きなきっかけとなる。「原作小説を大胆に分解し、テーマ・精神性を生かしながら新しい物語として再構築しています」(冬木糸一)

ポストヒューマン【Posthuman】

人間以降の存在。現在の人類に比べて基本能力が高く、現代の感覚では人間とは呼べない存在。

小説『皆勤の徒』

著:酉島伝法(とりしまでんぽう)/2013年発表
遠未来、人間とは思えぬ姿に変貌したポストヒューマンたちのドラマを描く連作集。日本SF大賞受賞。「造語と言葉遊び(隷重類(れいちょうるい)、胞人(ぼうじん)、塵造物(じんぞうぶつ)など)を駆使した独特すぎる表題作は難解な幻想小説のようですが、背後にはしっかりした本格SFの設定が潜んでいます。噛めば噛むほど味が出る不朽の名作」(大森 望)

小説『ここはすべての夜明けまえ』

著:間宮改衣/2024年発表
第37回三島由紀夫賞候補。2022年、“ゆう合手じゅつ”(サイボーグ化処置)を受け、25歳の外見のまま老化を止めた“わたし”。101年後、父の助言を思い出し、家族の歴史を手書きで綴り始める。「平仮名の多い特異な文体が徐々に明かす真実。SFの枠を超えた衝撃作」(大森 望)

マルチバース【Multiverse】

複数の宇宙が存在する可能性を仮定した理論物理学の説。多元宇宙論。複数の宇宙の集合を提唱するもの。

小説『1Q84』

著:村上春樹/2009〜10年発表
暗殺者の女性・青豆と小説家の男性・天吾。過去に関係があるも離れ離れになった2人が、現実の1984年とほんの少し異なる(月が2つ浮かぶ)“1Q84年”の世界に入り込んでしまう。「個人的に村上春樹作品で最も好きな長編。特に青豆と牛河の造形、そのディテールが素晴らしいです」(冬木糸一)

小説『なめらかな世界と、その敵』

著:伴名練/2019年発表
並行世界ものの表題作を収録したSF短編集。人々がパラレルワールドを認識し、自由に行き来するようになった世界。そんな中にも並行世界を認識できない人がいて……。「並行して存在する別世界の間を移動する人々の独特な現実認識を魅力的に表現。作家・伴名練を代表する短編集」(冬木糸一)

映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート/2022年公開
家庭に問題がありつつも平凡な母親が、全マルチバースを救うため立ち上がる。SF、カンフー、笑い、人間ドラマがてんこ盛りの内容で、アカデミー賞7冠に。「最高にお馬鹿で、下品で、感動すること請け合いの映画」(さやわか)

れきしかいへん【歴史改変】

タイムトラベルなどで過去に干渉し未来に影響を及ぼすこと。また史実と異なる歴史を経た世界を描くこと。

ドラマ『高い城の男』

製作総指揮:リドリー・スコット/2015〜19年配信
フィリップ・K・ディックの同名小説が原作。第二次世界大戦で連合国が敗れ、日本とドイツが勝利してアメリカを占領した世界が描かれる。「原作は我々の世界と異なる歴史を歩む古典の歴史改変SFだが、ドラマ版はその中で自由を求める人々の戦いを描く陰謀スリラー」(堺 三保)

ゲーム『スーパーロボット大戦Ⅴ』

開発:B. B.スタジオ/2017年発売
往年の名作から近作まで、有名ロボットが一堂に会する人気シリーズ。本作では3つの並行世界が登場し、作品ごとに所属する世界が替わることで世界観の矛盾がなくなっているのが特徴。「いわば歴史改変作品。難易度は低めで、初心者にもかなりおすすめできます」(さやわか)

 

profile

大森 望(書評家、SF翻訳家)

おおもり・のぞみ/1961年高知県生まれ。著書に『21世紀SF1000』(早川書房)、訳書に劉慈欣(りゅうじきん)『三体』(早川書房、共訳)など。

選評:キーワードから選んだのでマイナーな小説が紛れ込んでいるのがポイント。全部知ってたらSF博士。

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佐々木 敦(思考家、文筆家)

ささき・あつし/1964年愛知県生まれ。著書多数。最新刊は『成熟の喪失 庵野秀明と“父”の崩壊』(朝日新書)。
選評:演劇は生身の人間が演じるフィクション。SF要素が加わることで、観る者の想像力を喚起する作品を選びました。

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福井健太(書評家、ライター)

ふくい・けんた/1972年京都府生まれ。編著に『SFマンガ傑作選』(東京創元社)など。
選評:直球のSFにこだわったうえで、題材や演出のバリエーションが感じられる漫画をセレクトしました。大半は電子書籍でも入手可能です。

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冬木糸一(書評家)

ふゆき・いといち/1989年生まれ。著書に『SF超入門』(ダイヤモンド社)。
選評:小説、映画、ゲーム、漫画、アニメ……とオールジャンルで選出。点数が多く大変だったけれど新しい視点でSFを捉え直すことができて楽しかったです。

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堺 三保(脚本家、翻訳家、評論家)

さかい・みつやす/1963年大阪府生まれ。近作にTVアニメ『メタリックルージュ』『ばいばい、アース』など。
選評:近年映画とドラマ、国内と海外等の垣根が崩れている。そんな中新たに誕生したSF映像作品を中心に選出してみました。

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さやわか(ライター、物語評論家)

1974年北海道生まれ。著書に『一〇年代文化論』(星海社新書)など。
選評:ゲームやアニメ、漫画などの作品を中心にセレクト。主にゲームは、ゲームの特性を生かした新鮮な驚きや生々しさが感じられるSF作品を中心に集めました。

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