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マーク ジェイコブスが6分間のショーで描く、“歓び”に満ちたおとぎ話の世界【2024-25年秋冬 速報】

  • 2024.7.2

マーク ジェイコブスMARC JACOBS)に2024-25年秋冬コレクションで追求したテーマについて尋ねると、「歓び。以上」と、たった一言だけ返ってきた。6分間という短いショーではあったが、そのインパクトは大きい。『七年目の浮気』(1955)のマリリン・モンローにインスパイアされたドレスや、ミニーマウスを象徴する赤と白の水玉模様、ディズニーの名作から飛び出したプリンセスガウンなど、数々のステートメントルックを見るに、このコレクションが“主役”のエネルギーに満ちたものであることは確かだった。

私たちが向かう未来は、時に閉ざされていると感じることがある。特に、極右勢力がヨーロッパやアメリカで台頭し、デザイナーが大切にしている生殖の自由や同性婚などの権利が脅かされている今はなおさらだ。

こういった問題と向き合うのは容易ではないし、それを提起するのにランウェイが適切な場なのかどうか、疑問に思う人もいるかもしれない。それでもファッションはジェイコブスが選んだ表現方法であり、彼は厄介なことさえも軽やかに発信する術を身につけている。もし彼が世界をリードする存在だったら? ここはきっと、ありとあらゆる人々にとって安全な場所になっていたと思えてならない。

不安な時代のなかに見出す“歓び”

ランウェイとなったニューヨーク公共図書館に響くのは、フィリップ・グラスの「浜辺のアインシュタイン」(情報化時代の不安を歌ったオペラ作品)。そこに登場したルックは、一見すると2024年春夏の続編のようだ。しかしここでは、昨シーズンの人形風の服にハリウッドの要素が加えられているほか、アーカイブにアレンジを効かせたディテールが目立つ(ジェイコブスは今年2月にブランド創立40周年という重要な節目を迎えている)。

例えば、特大のボタンがあしらわれたスカートスーツ。そのシルエットは、膨らんでいるようで縮んでいるようにも見える。一方、レースドレスのバストラインは誇張され、Aラインのスカートはアシッドカラーに染められている。黄色い水玉模様のビキニを纏ったモデルは、そのサイズ感も手伝って、本物の服を着せられた人形のように映った。

細長い廊下を歩くモデルたちに目を配っていると、スカートの超短い丈や弧を描くヘムラインによって彼女たちが巨人に見えるという、おかしな錯覚に陥った。不気味なシェイプにヴィヴィッドな色彩、そしてクレイジーなシューズ。ほんの一瞬だけ世界の軸が傾いたような、そんな感覚さえ覚えた。

ジェイコブスはショーノートに、こんな言葉を残している。「未来はまだ描かれていない」。この歓びに満ちたおとぎ話のなかで時を止め、もうしばらくここにいられたら──そんなことを願わせる、束の間の6分間だった。

※マーク ジェイコブス 2024-25年秋冬コレクションをすべて見る。

Text: Nicole Phelps Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.COM

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