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”まひろ”が夫にブチ切れ…夫婦喧嘩で垣間見えた黒木華”倫子”の格とは? NHK大河ドラマ『光る君へ』第26話考察レビュー

  • 2024.7.2
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『光る君へ』第26話より ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。相次ぐ天変地異が京を襲う中、道長は治めるために娘・彰子を入内させることを決意する。一方、まひろは夫となった宣孝との夫婦関係に悩まされることに…。今回は、第26話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第26話より ©NHK
『光る君へ』第26話より ©NHK

安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が予言した通り、長徳四年の都では災害が相次ぐ。鴨川の大洪水に続く大地震で多くの命が失われた。晴明は、定子(高畑充希)に現を抜かして職務がおろそかになっている一条天皇(塩野瑛久)の心の乱れがおさまれば、天変地異もおさまるという。

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それには道長(柄本佑)が姫君を妻として差し出すほかないと告げる晴明。しかし、道長の一の姫・彰子(見上愛)はまだ幼く、引っ込み思案で口数も少ない。娘の幸せを願う道長は当初こそ晴明の提案を拒むも、女院である姉・詮子(吉田羊)に説得される。

倫子(黒木華)は断固として反対するが、定子が一条天皇の皇子を孕み、もう後には引けなくなった。最終的には倫子も腹を括り、彰子の入内が決定。道長は裳着の儀式を盛大に執り行うことで、彰子の入内を公のものとした。

一方、まひろ(吉高由里子)は、夫となった宣孝(佐々木蔵之介)の財で災害の被害を受けた家を修繕し、生計を立てていた。当初は仲睦まじく過ごしていた二人だが、徐々に綻びが生じる。そんなある日、弟の惟規(高杉真宙)から宣孝が清水の市で若い女性に反物を買ってあげていたという報告を受けるまひろ。後日、売り言葉に買い言葉で二人はぶつかり、宣孝の足はまひろから遠のいてしまう。

『光る君へ』第26話より ©NHK
『光る君へ』第26話より ©NHK

『光る君へ』第26回のタイトルは「いけにえの姫」。この回で、道長と倫子の娘・彰子が初登場となった。特筆すべきはその口数の少なさだろう。道長に入内の意思を問われても、「仰せのままに」とだけ答える彰子。それだけではなく、「今日は何をしておったのだ」という道長の単純な質問にすら彰子は何も答えず、弟の田鶴(小林篤弘)が代わりに「姉上は何もしてません」と答えた。

表情も常に物憂げで、今にも泣き出しそうである。そのため、定子は一条天皇に入内する彼女のことを脅威にも感じておらず、伊周も「ろくに挨拶もできぬうつけ」と。だが、少なくとも彰子はうつけなどではない。

というのも彰子の反応の薄さは単純に言葉が出てこないというより、周りに遠慮して自分の気持ちを敢えて押し黙っているような印象を受けた。むしろ、左大臣である道長の娘と生まれた自分の宿命を受け入れている節さえある。この時、彰子はまだ11歳。小学校高学年くらいの年齢だと考えれば、あまりにも落ち着いている。

父は仕事で忙しく、母である倫子もしっかり者なので、良くも悪くも聞き分けが良すぎる子に育ってしまったのではないだろうか。その辺りは一条天皇と共通する部分であり、彰子が彼の良き理解者となりうる可能性を秘めている。「彰子様は朝廷のこの先を背負って立つお方」と予言した晴明。見上愛が演じる彰子は年相応の幼さはあれど、その片鱗を十分に感じさせた。

一方、道長の父としての顔も印象深い。円融天皇(坂東巳之助)に入内した詮子、花山天皇(本郷奏多)に入内した忯子(井上咲楽)、そして一条天皇に入内した定子。いずれも幸せとは言い難い婚姻生活だったゆえ、道長は自分の娘は天皇に入内させないと心に決めていた。それなのに国家の安寧のために娘を差し出さねばならなくなった道長は、「これはいけにえだ」とはっきり口にする。そこには、晴明の予言に屈してしまった己を責める意味も込められているのではないだろうか。父としての正しさと、国を背負うものとしての正しさの間で苦悩する道長の複雑な心境を柄本佑が映し出していた。

『光る君へ』第26話より ©NHK
『光る君へ』第26話より ©NHK

そしてもう一つ、今回印象的だったのが、まひろ&宣孝と道長&倫子の対照的な夫婦喧嘩だ。これまでは道長の左大臣としての立場を思いやり、献身的に支えてきた倫子。だが、母として娘を不幸にするわけにはいかず、「どうしても彰子をいけにえになさるのなら、私を殺してからにしてくださいませ」とかなり強い言葉で道長に異議を唱える。

その強さは、彼女が両親に愛されて育ったが故の強さに思えた。自身も左大臣・源雅信(益岡徹)の娘として生まれた倫子。本来ならば政略結婚を勧められる立場であるにもかかわらず、倫子は自ら道長という婿を選び、雅信もそれを尊重した。

だからこそ、娘である彰子にも政治の道具ではなく、ひとりの女性として愛する人と一緒になる幸せを味わってほしいという思いが強いのだろう。だが、彼女がすごいのは頑なではないところだ。入内したからといって、不幸になるとは限らないという母・穆子(石野真子)の言葉にもしっかりと耳を傾け、道長の決意が固いと分かると腹を括る。倫子は「気弱なあの子が力強い后となれるよう、私も命を懸けまする」と道長に宣言。己の意見は主張しつつも、相手に歩み寄るしなやかさもある。やはり彼女はファーストレディにふさわしい器を持つ女性だ。

『光る君へ』第26話より ©NHK
『光る君へ』第26話より ©NHK

一方、まひろは最初こそラブラブな新婚生活を送っていたが、徐々に宣孝の無神経さが気になり始める。大水と地震から生き残った子供たちにまひろは食べ物を振舞うが、宣孝は「汚らわしい」と彼らを一瞥した。さらには聡明な妻を持ったことを自慢するため、まひろから送られてきた手紙を他の女性に見せびらかしていることも明らかに。その上、自分よりも年下の女性に入れ込んでいる疑惑も浮上し、まひろは不快さをあらわにする。

たしかに宣孝の言動はデリカシーがなさすぎる。しかし、その大雑把な性格に心の安寧を見出し、道長を忘れるため、結婚というものを経験するために、ある意味利用したのはまひろだ。宣孝が色好みなのはまひろもわかっていたはずだし、為時(岸谷五朗)も口すっぱく忠告したはず。だが、理解しているからといって納得できるかといったら、それはまた違う話なのだろう。まひろの苛立ちは単なる嫉妬というより、宣孝への軽蔑に思える。為時が「まひろは潔癖だから」と言っていたのもそういう意味なのかもしれない。

軟派な態度はともかく最大限歩み寄ろうとしている宣孝を全力で拒絶するまひろ。倫子と比較した時に、少しまひろに対して幼い印象を受けてしまった。だが、最終的には反省し、宣孝のお通いが戻るようにと石山寺へ参拝に行ったまひろ。そこで彼女は道長と再会を果たす。夫婦仲が微妙なタイミングでの元彼登場。これは恋が再熱しそうな予感がする。

(文・苫とり子)

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