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“衝撃の題材”で話題…! ドラマ『わたしの宝物』で見せつけられた圧巻の演技に「この役がなぜ田中圭なのか分かった」

  • 2024.11.20

別の男性との間に生まれた子供を、夫婦の間に生まれた子供だと偽る“托卵”をモチーフにしたドラマ『わたしの宝物』。繊細な演出ながら、毎話衝撃の展開を見せるストーリーに、SNSでは大きな反響が集まっている。第5話では、主人公・美羽(松本若菜)の夫である宏樹(田中圭)が、自分の子供だと思っていた愛娘・栞と血のつながりがないことを知ってしまう展開が描かれた。特に、宏樹を演じる田中の演技は圧巻としか言えない。

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  (C)SANKEI

“托卵”不倫ドラマとは思えない繊細な演出

宏樹は、栞が生まれるまでひどいモラハラ発言を美羽に浴びせていた。昔は、優しく思いやりのある夫だったが、仕事に忙殺され、美羽をストレスの捌け口にしていたのだ。ゆっくりと傷つけられていった美羽は、幼馴染の冬月稜(深澤辰哉)に再会したことで再び冬月に惹かれ、彼と一夜を共にしてしまう。そして美羽は妊娠。DNA検査をすると、お腹の子供は冬月との間にできた子供だった。宏樹は子供が生まれてから改心し、育児に協力的になり、仕事を調整するなど美羽にも友好的な態度をとるようになる。美羽は罪悪感を胸にしまいながら、宏樹と日々を過ごしていく。

そんな折、美羽は亡くなったと思っていた冬月と再会。美羽と冬月が抱き合っているところを、ひそかに宏樹に思いを寄せていた美羽の友人・真琴(恒松祐里)が目撃してしまう。真琴は宏樹に、「栞は宏樹の子供ではないのではないか」「女の勘、いや母親の勘」と告げ口する。

ここまでのストーリーを書いてみると、ドロドロした不倫ドラマを彷彿とさせる内容だが、『わたしの宝物』には、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。愛憎渦巻く関係を大袈裟に描くのではなく、そのなかにある一筋縄ではいかない複雑な感情を救い挙げるような繊細な演出が特徴だ。その雰囲気を作り上げているのは、出演俳優たちの名演だろう。特に、“モラハラ”、“サレ夫”など典型的な名前がつけられる宏樹を演じる田中圭の絶妙な表情の変化やリアクションは、この作品の大切な軸になっている。

モラハラ夫から子煩悩パパ、サレ夫へ

宏樹は作中、一番見られ方が変化していく登場人物だろう。第1話では、美羽を嫌悪の漂った表情で見つめ、不必要にひどい言葉を浴びせていた。SNSでは、「結婚してないけど離婚したい」と言われるほどの大不評。美羽が妊娠してもその態度は変わらず、娘の父親はしないと宣言。しかし、生まれた子供を抱いたことで、美羽とその間にできた子供への愛情が溢れ、大粒の涙を流す。そこからは、子煩悩で妻想いな夫へと変化する。

栞を愛おしそうに抱きしめ、匂いを嗅いだり、赤ちゃん言葉でしきりに話かけたりする宏樹の姿はとても愛らしい。プライベートでも2人の娘のパパである田中の経験が生かされた自然な所作からは、宏樹の改心と子煩悩ぶりが感じられた。視聴者からすると、宏樹の子供じゃないのにと複雑な心境になるが……。

第5話では、宏樹は真琴からの告げ口により、美羽の托卵を知ってしまう。ここからの田中の芝居は圧巻だった。信じがたいことを言われ、目を見開き、固まる様子。なんとか絞り出した「は?」の声色もとてもリアルだった。真琴が言ったことを信じないと心に決めても宏樹の頭には、嫌な記憶がよぎる。妊娠前に自分が美羽にしていたこと、妊娠したときの美羽の様子。ほとんどセリフがなくても、戸惑い続ける宏樹の感情が手に取るようにわかる。

その後、宏樹は栞の爪を切る。栞の小さな爪を愛おしそうに見ている宏樹の表情からは、徐々に力が抜け、笑顔が消えていく。爪でDNA検査をしようと思いついてしまったことが、表情だけで分かるのだ。そして、震える手でDNA親子鑑定の書類を握りしめ、肩を震わすカット、栞のハーフバースディを祝い、写真を撮影するカットに移っていく。宏樹は、強張った表情でカメラを構え、カメラから美羽と栞を覗き込むが、耐えきれずに涙を溢れさせる。美羽に行っていたモラハラに対する大きな後悔と美羽と栞に持っている愛情、美羽の不倫によって生まれた栞の存在の愛しさを否定できない矛盾、すべてが混じり合った涙だった。

栞の爪切りのシーン以降、宏樹はほとんど言葉を発しない。自然に時間を飛ばし、宏樹の苦しみを点描で見せていくことで、感情を際立たせる演出になっている。表情や手の震えや身体の震えなど、田中が身体で示す表現の情報量が大きいからこそ、この演出が成り立つと言えるだろう。

この田中の芝居に対し、「この役がなぜ田中圭なのか分かった」「この人にしかできない」とSNSには大絶賛の声が溢れている。同時に「まだ5話…」と、今後の展開に期待する声も。托卵を中盤で明かすということは、托卵の罪そのものよりも、そこから生まれてしまう関係性の変化や感情を描きたいということだろう。作品のモチーフ自体にも賛否の声が集まっているが、『わたしの宝物』が“托卵”を使って描きたいことは何なのかを、しっかりと見届けたい。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202