1. トップ
  2. 今は亡き石田ゆり子“はる”の言葉を大学生の娘へ「どの地獄を進むか諦めるかは優未の自由」朝ドラ『虎に翼』

今は亡き石田ゆり子“はる”の言葉を大学生の娘へ「どの地獄を進むか諦めるかは優未の自由」朝ドラ『虎に翼』

  • 2024.9.14

研究の道を諦め、大学を中退したいと申し出た優未(川床明日香)に対し、意見が真っ向から対立した航一(岡田将生)と寅子(伊藤沙莉)。第24週「女三人あれば身代が潰れる?」では、母として成長した寅子の姿が見られた。SNS上では「かつてのはる(石田ゆり子)を思い出す」と懐かしさに溢れた声が多い。

母として成長した寅子の姿

undefined
『虎に翼』第24週(C)NHK

研究職を目指していた寅子の娘・優未が、ただでさえ席数の少ない研究職の道へ、女性の立場で進んでいくことの勇気が持てず、大学院を中退したい旨を示す。航一は「9年近くの時間」が「無駄」になってしまう、と猛反対。

しかし寅子は「優未の道を閉ざそうとしないで」「どの道を、どの地獄を進むか諦めるかは優未の自由です」と、かつて自身の母・はるから言われた言葉に則って優未に向き合った。その姿は、かつて娘や家族の気持ちがわからず、一人でから回っていたころの彼女とは異なり、明らかに母として考えを洗練させているように見えた。

航一は「寅子さんは現実を見ていない。甘すぎる。この年齢で何者でもない彼女に社会は優しくない」と重ねる。彼の言うことも、もっともだ。女性として研究職の道に進むことも、ある種の地獄には変わりない。しかし、大学院を途中で辞した女性が、一から新しい経験を積み上げることも、また違った種類の地獄になり得る。

しかし寅子は「手にするものがなければ、これまで熱中して学んできたことは無駄になるの?」「私は、努力した末に何も手に入らなかったとしても、立派に生きている人たちを知っています」と意見を曲げない。この言葉は、何かとタイムパフォーマンスや効率性・生産性が重視される現代においても、ハッと立ち止まり、自分を省みる指針となるものだ。

人に与えられた時間は平等だ。だからこそ、人はそれぞれの持ち時間で、できるだけ効率よく「何か」を得たり、生み出そうとしたりする。長く時間をかけた対象があれば、それに見合うだけの結果が得られないと、途端に損をした気分になったり、必要以上に恐れたりする。

寅子の言葉は、たとえ何も得られなかったとしても、どこにも辿り着けなかったとしても、かけてきた労力は無駄にはならない、と教えてくれる。ましてや、人としての尊厳が目減りすることだってない、と。

繋がっていく命の行き着く先は

undefined
『虎に翼』第24週(C)NHK

第24週「女三人あれば身代が潰れる?」の最終回、多岐川(滝藤賢一)が桂場(松山ケンイチ)に対し、少年法改正に対する意見書(抗議文の草案)を届けようとしたくだりがあったのも、示唆的に映る。

病のため亡くなってしまった多岐川に代わり、抗議文は久藤(沢村一樹)から桂場の元へ届けられた。少年法の存在意義や厳罰を求める声が高まるなか、“非行少年”の更生を願い続け、その環境や制度づくりに奔走してきた多岐川の悲願は、桂場の心に届くのか。

一人の人生では成し遂げられないことでも、複数人が集まれば解決できるかもしれない。若い者たちに後を継げば、未来は変わるかもしれない。その景色を自らの目で確かめられないとしても、それは時間や労力を無駄にしたことにはならないと、前述した寅子の言葉が教えてくれている

目覚ましい結果が得られなかったとしても、何者になれなかったとしても、生きていくこと。振り返れば、寅子の人生だって“ままならないこと”の連続だった。それでも、閉じていく命と、未来に繋がっていく命があるからこそ、希望を捨てずにいられた。一度は絶望し、自ら法律の道を閉じた寅子だからこそ、娘の行く先を(多少の心配をしながらでも)見守っていられるのだ。

残り2週、一人ひとりの愛と尊厳に迫る『虎に翼』は、どんな終着を迎えるのか。そのとき、物語の結末はどんな景色に彩られているのか。



NHK 連続テレビ小説『虎に翼』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧 Twitter):@yuu_uu_