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異彩を放った“老人役”が今だから明かすウラ話…「あの二人に生き埋めにされる役だったんですよ、僕(笑)」【地面師たち】

  • 2024.9.14
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Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社

破竹の勢いはまだまだ止まる気配を見せない――。

動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」にて独占配信中で7月25日に配信されて以降、日本におけるNetflix週間TOP10で6週連続1位、週間グローバルでもTOP10入りを果たしている大ヒット作Netflixシリーズ「地面師たち」(大根仁監督 / 全7話)

新庄耕(こう)氏による同名の小説を原作を実写化した本作は、馴染みの薄い「巨額不動産詐欺事件」を題材にしているにも関わらず、蓋を開ければ業界人だけでなく一般視聴者にも大ウケ。SNSでは「イッキ見した」「もう何周も見ている」など熱量の高いファンが発生し、2024年最大のヒット作といっても過言ではないほどの大反響を呼んでいる。

綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧ら個性豊かな豪華俳優陣で結成された詐欺集団、通称「地面師グループ」は、日本を代表する大手不動産デベロッパーを相手に手段を選ばず100億円にも及ぶ詐欺を働いていく。彼らは間違いなく全員悪人なのだが、なぜか回を増すごとにそれぞれのキャラクターに惹かれていき、観るものはそのストーリーに釘付けになっていく。

異彩を放ったなりすまし役の老人

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Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社

そんな俳優陣たちに引けを取らないほどの強烈な印象と爪痕を残したのが、第1話の10億円にも及んだ恵比寿の不動産詐欺事件で地面師グループの売主の「なりすまし役」を演じた74歳の老人・佐々木(島崎健一になりすます以下佐々木)だ。

地面師グループの“なりすまし役オーディション”ではすでに手配師の麗子には有力候補者がおり、落選寸前のところだった島崎だが地面師グループのリーダー・ハリソン山中の鶴の一声で見事逆転合格となった。

しかし、事前に覚えなければならないはずの売り主の年齢や干支をなかなか覚えられない。そんな中迎えた買い主側との緊迫感あふれる「本人確認シーン」は第1話のクライマックスといえる。

※【ご注意ください】以下「地面師たち」の一部ネタバレを含みます。

「第1話が一番面白い」との声も

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Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社

買主側の司法書士から干支(辰年)を聞かれ、あらかじめ予習していたはずが緊張からか飛ばしてしまうもなんとかクリア。

続く売却物件を2枚の写真から選択するという質問では、不動産売買の交渉役である綾野剛演じる拓海の助け船もあり無事に乗り越えるが、最後の質問として聞かれた「よく買い物をするスーパーは?」については地面師グループ一同全く予想していなかったため、答えられず窮してしまう。

その後、買主側が目を離した隙を見計らって拓海が行った“ナイスアシスト”もあり、佐々木はこの最大のピンチを逃れるがその際に生まれた「ライフのほうが安いので」は、本作品の中でも指折りの名セリフの1つとして数えられる。

島崎が出演した第1話のこのシーンはSNSでもお祭り騒ぎとなり「近所のスーパーを聞かれたときはハラハラドキドキした」「本当にリアルだった」といった演技を絶賛するのに加え、セリフをもじった大喜利まで誕生。本丸の事件が描かれる第2話以降がメインとなる本作だが、「第1話が一番おもしろい!」といった声も見られた。

最終的に壮絶な最期を遂げてしまい第1話のみの出演となったが、島崎健一という人物は視聴者の記憶に強く焼き付いている。

一躍“時の人”となった76歳の俳優

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ジャケットを羽織り、腕組みポーズを決める五頭さん(撮影/柴田愛子)

この“なりすまし老人役”を演じたのが76歳の俳優・五頭岳夫(ごず たけお)さん。

劇団員としての役者キャリアをスタートさせ、大病を乗り越えた55歳から映像作品へ主戦場を移したベテラン俳優だ。現在放送中のNHKの朝ドラ「虎に翼」や映画「凶悪」(2013年)、人気バラエティ「水曜日のダウンタウン」(TBS系)に出演の過去があることを掘り起こされ出演した1シーンがSNSで話題になっている。

TRILLではそんな五頭さん本人に取材を行い、「地面師たち」に出演することになったきっかけや配信後の反響、撮影中の裏話など知られざるエピソードを聞いた。

“当て書きオファー”に「こんなに嬉しいことはない」

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作品中は見られなかった笑顔を振りまいてくれた

──『地面師たち』が配信後、大きな反響が五頭さんの元にも届いているかと思うのですが、実感している変化はありますか?

五頭岳夫(以下同) SNSで皆さんの反応を見させてもらっていると「おじいさん可愛い!」みたいな感想が多かったですね。僕が演じた佐々木(島崎)はなりすまし役ですから、立ち位置としては“ワルモノ側”なんですけど、かわいそうで憎めないって声が多かったように思います。

僕としては、この作品の第1話は、第2話に繋げるバトンのようなものだと考えながら演じていました。大根(仁)監督が僕に当て書き(その役を演じる俳優をあらかじめ頭で決めたうえで、その後に脚本を書くこと)してくれた役だということにも注意しながら……。いや、それでも、まさかこれほど多くの方が一気見してくださるとは、思ってなかったですね。

 

──『地面師たち』に出演することになった経緯を教えて下さい。

大根監督と以前からご縁がありまして、今回オファーしていただきました。今から10年前に放送された『リバースエッジ 大川端探偵社』(2014/テレ東系列)という深夜ドラマで初めてご一緒しまして。「最後の晩餐」っていう副題がついた第1話への出演でした。

そのあとすぐに映画『バクマン。』(2015)に1シーンだけ映ってほしいとオファーをいただいたり、『ハロー張りネズミ』(2017/TBS系列)というドラマでもご一緒したりと、何かと大根監督とは縁がありますね。

 

──大根監督からのご指名だったんですね。

監督ご本人が「佐々木丈雄(島崎健一)は当て書きした」って仰ってるぐらいですからね。こんなに嬉しいことはないですよ、役者冥利に尽きます。お礼も兼ねてSNSに投稿したら、皆さんにバーンと見てもらえたので、またまたビックリです(笑)。

※本人Xより

「コレ、もう『凶悪』じゃねぇか!(笑)」

──初めて「地面師たち」の台本を読まれてどんな感想を持たれましたか?

まず、過去に出演したことのある「凶悪」(2013)という映画を思い出しました。リリー・フランキーさんだったり、ピエール瀧さんだったり、「地面師たち」と同じ役者たちが出ているじゃないですか。あの二人に生き埋めにされる役だったんですよ、僕(笑)。寒い冬の12月、秩父でロケをしましてね。まずそれが頭に浮かびました。

「凶悪」と今回の「地面師たち」でいうと、犯罪映画であること、そして同じ犯罪映画でも軽妙な話術を元に物語を展開させていくっていう違いはありますが。でもね、「コレもう「凶悪」じゃねぇか! って(思った)」。SNSでも「『凶悪』のメンバーが出てる!」って声がありましたしね。

 

──「凶悪」出演の山田孝之さんは「地面師たち」でナレーションを担当されていますしね。五頭さんが演じられた島崎健一という人物像に対しては、どんな感想を持たれましたか?

佐々木のバックボーンは、交通誘導員をやっていて借金まみれ。おまけに認知症の症状も出始めているという人物なので、どこでそのキャラクターをあらわすか、ポイントを考えながら演じていました。

たとえば、自分の干支について話すシーン。視聴者に「やっぱり記憶力が落ちているんだな」と自然に思わせるための演技をしなけりゃいけません。自分のなかである程度の筋道は立てていたんですが、辻本役の綾野(剛)さんの演技を受けながら、とにかく力を入れすぎずに老人としてのリアルさを重視させよう、と思っていました。

 

──本人確認のシーンはとてもリアルでした。家の写真を2枚見せられて「どちらがあなたの家ですか?」と問われる場面なんて、とくに

あのシーン、本当にどんな写真かよく見えなくて…アドリブで思わず立ち上がってしまったんですよ(笑)。僕の動きに合わせて綾野さんも、「こっちですよ」と手でサインを出してくれて。老人らしさを出すには、何の気なしに立ってしまったっていう雰囲気が出たほうがリアルだろう、と思いました。楽しくて楽しくて、仕方なかったシーンですね。

一番苦労したのはやっぱり“あのシーン”

 

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イヤホンを通じてスーパーを答えるシーンについて語る五頭さん

──『地面師たち』アフタートークでは、1シーンに30〜40テイク重ねたこともあった、とキャストが話されていますが、五頭さんが「一番大変だった」と思われるシーンはありますか?

やっぱり、辻本に股間にお茶をかけられ、その後さりげなく耳にイヤフォンを入れられたシーンですかね。

SNSでも「あの瞬間が一番緊張した!」って感想が多かったです。もうセリフ自体は覚えているわけだけど、それだと自然に聞こえないからっていうことで、それならもうハリソンの指示を受けることに決めて。あのシーン以外は、ほとんど一発OKでしたよ。

 

──あのシーン、大根監督から演出の指示はあったんでしょうか?

基本的には自由でした。そんなに何テイクも重ねることもなかったですし、僕としては、演じていて本当におもしろい現場だったんですよ。

とくに笑福亭鶴瓶さんの息子さんである駿河太郎さんとは、お互いに「役者としてどんな動きをするか?」を研究し合っているのがわかって、だからこそ生まれる現場での緊張感が、おもしろさや役者冥利に繋がっている、というか。

 

──撮影中も、独特の緊張感があったんですね。

でも現場にいる僕らが、そこまでずっとガチガチに緊張しながら演じていたってことではないんです。撮影って、シーンで分かれているとそれだけの数撮り直しますから、そこまで緊張感が持続するってこともないですし。ただ今回の『地面師たち』は作品に漂う緊張感を、鑑賞するお客さん側が感じ取っていたというのが、僕の驚いたポイントだったんですよね。

 

──五頭さんは、最終話までご覧になりましたか?

ええ、観ましたよ。台本と比べると、ここがこんなふうに変わってるんだ! っていう驚きがありましたね。あと地上波では放送できないような過激な表現がどこまで描かれるのか、気になっているところではありました(笑)。大根監督の尽力もあり、素敵な映像になったと思います。


五頭岳夫(ごず たけお)
1948年2月7日生まれ。劇団「青年劇場」に20年間在籍し、全国47都道府県を巡演。その後、映画『教誨師』(佐向大監督)で文盲でお人よしの死刑囚を好演。彼の演じる「味のある枯れた老人」には定評があり、数多くの名匠の作品に出演する。方言のレパートリーは津軽・南部・越後・新潟・熊本・京都弁。『地面師たち』ではなりすまし役を演じ話題となる。GMBプロダクション所属。

撮影・柴田愛子