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『逃げ恥』『アンナチュラル』を手がける"天才脚本家"がヒット作品を生み出し続けるワケ

  • 2024.9.5
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(C)SANKEI

今、最も新作が望まれるといっても過言ではない脚本家・野木亜紀子。2024年は、1月に映画『カラオケ行こ!』、8月に『アンナチュラル』『MIU404』とつながる世界線の映画『ラストマイル』が公開され、10月からは11年ぶりに日曜劇場を手がけることでも注目を集めている。

原作モノも得意とする野木の脚本家としての力とは?

野木は、2010年に『さよならロビンソンクルーソー』でフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビューを果たした。デビュー後はフジテレビのドラマ作品を手がけることが多かったが、TBS系の『空飛ぶ広報室』以降は、TBSドラマを担当することが増え始め『重版出来』『逃げるは恥だが役に立つ』など次々と原作モノドラマで、ヒット作を生み出した。

素晴らしいオリジナル作品を生み出す脚本家の一人だが、野木は原作モノ作品の脚色も抜群にうまい。原作ファンを納得させながら、映像化に際して必要なちょうど良い脚色を施すことができる作家の一人だ。これは、野木が作品の真ん中を捉える力に長けているからだろう。

『空飛ぶ広報室』や『重版出来』なら仕事に向き合う姿勢や成長、『逃げるは恥だが役に立つ』なら、恋愛感情の生まれるまでのきらめきやパートナーシップ、男女に求められる社会的役割の不均衡やそのなかでの悩みなど。それぞれの作品の絶対にブレてはならない魂を守り抜いた上で、実写作品として成り立たせるための構成へと変更し、キャラクターを際立たせるためのセリフや行動、エピソードを追加しているのだ。

オリジナル作品から見える作家性は?

この作品やモチーフの真ん中を捉える力は、オリジナル作品でも遺憾無く発揮されている。代表作である『アンナチュラル』『MIU404』などから、サスペンスドラマが得意な作家と捉えられがちだが、決してそういうわけではない。『アンナチュラル』の後に、制作された『獣になれない私たち』(日本テレビ系)では、身を粉にして働き続けた女性を取り巻くラブストーリーを描いた。他にも『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京)など、家族モノドラマを手がけたこともある。

これまで描いてきたオリジナル作品の共通点は、この世の不条理を描いていることではないだろうか。とはいえ、全て野木が一から考えた企画ではないことがポイントだ。『獣になれない私たち』は当時の30代の女性との会話のなかで思いついた主人公像であり、『アンナチュラル』は、もともと法医学という企画があったところから、野木自身が情報を集めて考案したドラマだ。『アンナチュラル』のシナリオブックのあとがきによれば法医学について調べ取材するなかで、「未来のための仕事なのではないか」という理解を野木自身が得て、実際に法医学者からも賛同を得られたという。原作モノを手がけているときと同様に、その職業の真髄をついている証拠だろう。

原作であれ、オリジナルであれ、脚本を手がけるときには詳細な取材を通して、その職業や年代の心理や悩みの核を取り上げ、リアルとフィクションをうまく織り交ぜながらドラマにしているからこそ、どの作品も誰かに深く突き刺さるのだ。

事件が起ころうと、起きなかろうとこの世界はままならないことが多い。それはどんな仕事をしていても、どんな生き方をしていても同じだ。野木は仕事モノのドラマを作るときも、恋愛ドラマを作るときも、ヒューマンドラマを作るときも、その生活のなかにあるままならなさ、不条理、それでも生きていこうとする人の強さを描いている。

『アンナチュラル』『MIU404』以外の注目作品は?

野木の過去作品を網羅的に取り上げながら、野木の脚本家としての作家性について紹介してきた。『ラストマイル』のセリフや構成、キャラクターが好きなのであれば、ぜひ他の作品も見てほしい。

仕事モノ×恋愛モノであれば、『空飛ぶ広報室』『重版出来』『逃げるは恥だが役に立つ』、映画『図書館戦争』を。うまくいかないことばかりでも悩みながら懸命に日々を過ごすヒューマンとも友情とも恋愛ともいえるドラマであれば、『獣になれない私たち』『コタキ兄弟と四苦八苦』、映画『カラオケ行こ!』を。『アンナチュラル』『MIU404』のようなクライムサスペンスが楽しみたいなら『フェンス』や映画『罪の声』を。

あなたの今の悩みや求める娯楽のタイプに合わせて、野木亜紀子が紡ぐ物語を楽しんでほしい。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202