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「観たばっかりなのに、また観たい」"アンナチュラル"と"MIU404"の製作陣が身近にある社会問題を描く

  • 2024.9.3
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(C)SANKEI

『アンナチュラル』『MIU404』を世の中に送り出してきた監督・塚原あゆ子、脚本家・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子の3度目のタッグ作『ラストマイル』。物流サービスを舞台にしたノンストップエンターテインメントでありながら、人の欲望が作り出す物の流れとそこに生まれる歪みが見えてくる。

物の流れは人が作り出す

『ラストマイル』は、世界規模の大手ショッピングサイトから発送された荷物が次々と爆発する、連続爆発事件が発生するところから始まる物語。爆発した荷物を発送していた関東センターのセンター長・舟渡エレナ(満島ひかり)とチームマネージャー・梨本孔(岡田将生)は、解決を余儀なくされる。

この爆発事件のきっかけは、倉庫で働いていた社員が心身を病んで引き起こした転落事故。その転落事故は、速く安くを求められる物流サービスそのものに追い詰められた末に発生した事故だった。また、この映画では倉庫から荷物が発送され、配送業者に届き、そこからお客さんの元へドライバーが届けるまでの流れと、そのなかで発生するコミュニケーションが詳細に描かれている。物流に関わる人がどれだけいるのか、そこにどれだけの不均衡があるのかが、映画の内容から知ることができるのだ。

ネットでの買い物が一般的になり、ボタンを押せば荷物が届く。物の流れは人が作り出しているが、物を届けるのも人だ。人が求めている速く安く便利にというサービスの皺寄せを受けているのは、物流業界で働く“人”なのだ。

被害者になるか、加害者になるか

『アンナチュラル』のシナリオブックに掲載されている脚本家・野木亜紀子が書いたあとがきによれば、『アンナチュラル』は被害者になにが起きたのかを法医解剖医が解き明かす話であり、『MIU404』は加害者がなぜ加害に至ったのかを描いている話だということが、うかがえる。

では、『ラストマイル』はどの視点から描いた話なのだろうか。関東センターや配送業者で働く彼らは、普段は事件には無関係の市井の人々だ。しかし、いきすぎた労働は人の心を蝕む。仕事での出来事をきっかけに被害者になる人もいれば、加害者になる人もいるだろう。

物流サービスに限らず、仕事のほとんどは人の欲望が作り出し、一人ひとりが働くことでこの世界は成り立っている。労働をしている限り、人の欲望が生まれ続ける限り、誰でも被害者にも加害者にもなるのだ。そのことに自覚的でいることの大切さをこの映画は説いている。

この映画から何を受け取るか

『ラストマイル』は、息つく暇もないノンストップエンターテインメントを通して、人と物の流れ、世の中で提供されているサービスについて考えを巡らせることができる映画だ。

SNS上では、「心がザワザワする…すでに3回目のリピート」「ネタバレ踏まずにみるべき」「観たばっかりなのに、また観たい」など、『アンナチュラル』『MIU404』ファン以外からも好評の声が寄せられている。

面白い映画を見たとスッキリできる映画かと言われるとそうでない。この映画を受け取り、次に自分は何をするのか、周りの人にどんな態度で接するのか、それを考え続けてほしいというのが、『ラストマイル』が届けたい願いなのかもしれない。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202