お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリこと、照屋年之が監督と脚本を務める映画『かなさんどー』が2025年1月31日(金)に沖縄先行公開、2月21日(金)に全国公開された。本作は、照屋監督のルーツである沖縄を舞台に描いた、愛おしくて切ない心揺さぶるヒューマンドラマ。沖縄出身の松田るかが主演を務め、主人公の両親を浅野忠信と堀内敬子が演じている。SNSには「しみじみと良い映画」「登場人物たちがとにかく愛おしい」「終わってからも思い出して泣けちゃう」「ラストシーンは本当にズルい」といった感想が寄せられており、感動の輪が広がっている。
娘が初めて知る父と母の“愛おしい秘密”
照屋監督独自の死生観という、ともすれば重くなりかねないテーマを取り上げつつ、監督ならではの笑いのアクセントが温かい気持ちにさせ、夫婦と親子の愛が心に染み渡っていく。
故郷の沖縄・伊江島を出たっきり、ずっと帰っていなかった美花 (松田るか)。彼女は、大好きな母・町子(堀内敬子)が病気で亡くなる間際に、父・悟(浅野忠信)に助けを求めて電話をかけたのに、その電話を取らなかった父を許せないでいた。
かつては、仲の良い3人家族だっただけに、母が病気になってからも飲み歩いてばかりの父に苛立ち、母亡き後は、もう父とは縁を切ったつもりでいる美花。そんな折、悟が認知症を患っていて、余命がわずかだという連絡が届く。苦渋のなか帰郷するも、なかなか父との関係を修復しようとしない美花だったが、島の自然に囲まれ、両親と過ごしたかけがえのない時間を思い返すうちに、母が父との思い出を日記に書いていると話していた記憶がよみがえる。母の大切な日記を見つけた美花は、母の真の想いと、父と母の“愛おしい秘密”を知ることに……。
松田るかの代表的な作品に
主演の松田は、地元沖縄でスカウトされ、上京後に俳優活動を開始。筆者は、2016年の『仮面ライダーエグゼイド』で初めて松田を見たが、明るく元気なキャラクターを好演しており、忘れられない存在になった。その後も、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)『スカーレット』と『ちむどんどん』や、大河ドラマ『光る君へ』にも出演するなど、演技の幅を広げていった松田。
そんな松田が『かなさんどー』で、父親に対して感情を爆発させたり、母の日記を読んだ後に、母と父のためにある決断をして、観客を釘付けにするような行動に出る主人公に扮しており、非常に魅力的だ。本作は、間違いなく松田の代表作となったのではないだろうか。
沖縄民謡「かなさんどー」
「かなさんどー」とは、沖縄の方言で「愛おしい」「愛してる」という意味。本作の主題歌であり、劇中たびたび登場する沖縄民謡の「かなさんどー」を、劇団四季出身でドラマ・映画・舞台など多方面で活躍する堀内が美しい歌声で披露し、町子の悟への愛情がより伝わってくる。
松田の「かなさんどー」歌唱シーンもあり、彼女の歌声も秀逸。SNSでも「松田るかちゃん、歌上手すぎ!」などのコメントが見られた。照屋監督も「沖縄民謡独特の歌いまわしを会得されるのは大変だったと思いますが、劇中では2人の素晴らしい歌をお聞きいただけると思います」と絶賛している。
浅野忠信の圧巻の演技力
悟を演じる浅野は、『マイティ・ソー』シリーズや『沈黙 -サイレンス-』などハリウッド大作でも活躍する国際的な俳優で、ドラマ『SHOGUN 将軍』ではゴールデングローブ賞・テレビドラマ部門助演男優賞に輝いている。本作では、病になる以前の明るく奔放なころと、認知症が進んだ後のほとんど感情を表に出せなくなった晩年という、対照的な姿を圧倒的な演技力で演じ分けている。
照屋監督は「浅野さんについては、印象的な落涙を狙ったシーンがあったんです。そのシーンで僕がちょっと難しい要求をしてしまって、なかなかOKを出せなかったのですが、浅野さんは何度も真摯に取り組んでくださり、涙を流してくださっているのにリトライをすべて受け入れてくださった」と、浅野との撮影を振り返っている。
苛立つ美花からどなりつけられる悟のお茶目なシーンや、町子にデレデレの様子の悟など、浅野の繊細でチャーミングな演技は圧巻で、本作の見どころの1つとなっている。
照屋年之監督の沖縄への想い
自身のルーツである沖縄が舞台の作品にこだわって撮り続けている照屋監督。彼は、沖縄を世界へもっと紹介し、沖縄の活性化に役立てたい、沖縄に貢献し続けていきたいと考えているという。
2019年公開の照屋監督・脚本の映画『洗骨』は、沖縄の離島・粟国島に残る風習「洗骨」をテーマに、家族の絆や祖先とのつながりを描いていたが、筆者は主演の奥田瑛二にインタビューした際に、照屋監督の沖縄への想いを初めて知ることとなった。今回の『かなさんどー』も、『洗骨』と同じく沖縄の美しい景色の中で、情緒豊かに家族の愛が紡がれていく。松田、浅野、堀内らキャストの名演技に心を揺さぶられながら、じっくりと広がっていく感動をぜひ味わってほしい。
映画『かなさんどー』全国公開中
出演:松田るか、堀内敬子、浅野忠信 ほか
監督・脚本:照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)
配給:パルコ
公式サイト:https://kanasando.jp/
(C)「かなさんどー」製作委員会
ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP