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目黒蓮演じる“主人公を育てなかった父”の過去と本音「おもしろい生き物がいるもんだな」月9『海のはじまり』

  • 2024.8.21

本音は、素直だ。素直で率直だからこそ、ときにストレートに響きすぎて、残酷だ。8月19日に放送された『海のはじまり』8話では、夏(目黒蓮)が3歳以来、会っていない実父・溝江基春(田中哲司)に会いに行くシーンがある。血の繋がりがあるのだから、離れていても、思ってくれているはず……。そんな夏の理想が、幻想だったと知る場面でもある。

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(C)SANKEI

親に期待する子どもは、損をする?

母・ゆき子(西田尚美)から連絡先を聞き、実父である基春に会いに行った夏。彼はその理由を「娘がいるって知ったのが最近で、2ヶ月くらい前で、それで自分も父親に会っておきたいって思うようになりました」「育てられてないけど、親に会ってみたかっただけです」と口にしていた。

夏は、何のために実父に会ったのか。実父と何を話して、何を確かめたかったのか。

このときすでに海(泉谷星奈)の父親になることを決断していた彼にとって、ある体験が不足していた。それは「血の繋がった父親に育てられる」という体験だ

夏が基春と過ごしていたのは、たったの3年。育てられた、という実感のないまま、夏の両親は離婚した。その後、母のゆき子は再婚し、夏にとっては「血の繋がっていない父と弟」ができた。月岡家の関係は良好だが、7年間離れていた「血の繋がりのある娘」と父子関係を結ぼうとする夏にとって、血縁とは何なのか、父とはどういった存在なのかを確かめておきたいと思うのは、必然だろう。

しかし基春は、夏が想像していた父とは違った。お互いに話すのが上手くなく、とくに基春は面倒くさがりで言葉を省く習性が強いのか、本当に心で思っていることを表に出せない。親としての、父としての相応の愛情があったとしても、夏がそれを感じ取るのは難しい。

基春と会ったあと、夏は現在の恋人・弥生(有村架純)と会う。彼女もまた、親との関係性に悩んできた一人。「弥生さんの親の話、聞いてたのに。親ってだけで期待しないって、決めてたのに」と悔やむ気持ちを吐露する夏に対し「一回幻滅したくらいでね、諦めつかないんだよね」と返す弥生の言葉には、実感がこもっている。

親に期待する子どもは、総じて損をしてしまうのだろうか。所詮、親と子であっても、別個の人間であることに変わりはないのだろうか。

“育てていない親”が、育児に向いていなかった理由

基春は、夏が3歳のときにゆき子と離婚した。たった3年しか過ごしていない夏との時間を振り返り、基春は「おもしろかったんだよ、子ども。お前毎日違うんだよ。生まれてから3つになるまで」「気づいたら歩いてるし、おもしろい生き物がいるもんだなって」と述懐する。

ゆき子の言葉を借りると、彼は育児には非協力的だった。しかし基春自身は「おもしろかった」とポジティブにとらえている。この夫婦の違いは、差はどこに生まれてしまったのか? それはゆき子の「おもしろがるだけなら趣味」という言葉にあらわれている

ゆき子から「子どもを釣りなどの趣味と同じだと思ってる」といった趣旨で責められた時、基春は「納得」した。「興味しかなかったんだわ。責任もない」「レンズ越しに見てただけ」と言う彼は、育児のつらさや苦しみを感じることなく、ゆき子と共有することもなく、子どもに「興味」しか持てない事実に思い至ったがために、夏から離れていった。

彼が根本的に育児に向いていない性質であるのは、夏と初めて会ったカフェで「女ってずるいよな、産めるってずるい」と言ったセリフからも感じ取れる。

“育てた親”と“育てていない親”。両者に対峙した夏は、あらためて、家族という関係性を構築するのに「血縁」は必要ないことを悟ったのかもしれない。海の父親になると決めた夏が、これから向き合う課題があるとしたら、それは弥生との関係だろう。

血の繋がりがある我が子を、いわば“他者”と育てることになる。一つひとつ、丁寧に階段を登ってきた彼は、次にどんな選択をするのだろうか。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。
X(旧Twitter):@yuu_uu_