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巨木に巨岩、原始の野生美に彩られた隠岐諸島・島後の過ごし方【後編】

  • 2024.7.2

隠岐ユネスコ世界ジオパークに指定されている隠岐諸島。土地と自然、人が織りなすユニークな風景をお目当てに、島前(中ノ島、西ノ島、知夫里島)、島後の4つの有人島を旅しよう。

 

江戸時代後半から明治30年頃まで、隠岐の各港は北前船の寄港地として栄えた。島後の西郷港にも多くの船が立ち寄り、物資、文化、情報をもたらした。

名前のない島

「島後の正式な地名をご存知ですか?」。島後を案内してくれる、一般社団法人隠岐ジオパーク機構の野邉一寛さんの質問に、うっと言葉が詰まる。隠岐は群島全体の名称だし、島後は地方名だし...... 。「実は、固有の名称はないんですよ。不思議でしょ?」

隠岐造りを取り入れた王若酢命神社の本殿。隠岐造りは出雲大社の大社造りと春日大社の春日造り、伊勢神宮の神明造りを融合した建築様式のこと。

日本で唯一、名前のない島、島後は外周約150kmの円形の島で、中央には標高500mほどの山が連なる。古代隠岐の中心地として栄えたのがここ、島後で、『古事記』の国生み神話によれば、島後が親で島前3島が子ということになっている。良質な黒曜石の一大産地だったことから、縄文時代にはすでに黒曜石の交易が盛んに行われており、大陸やロシアとの交流もあったそう。火山のエネルギーをそのまま凝縮したような島前3島に比べると、緑の林と湧き出す水に恵まれた島後の様相は、もっとおだやか。とはいえ、やっぱり「普通」の島ではない。1万年前の海水面の上昇に伴い、地続きだった島根半島から離れて以来、ここに取り残された生物は独自に進化し、ユニークな生態系を作ってきた。だから、この島ならではの「不思議」があちこちで見られる。北海道の海岸に咲くハマナスと南国の植物であるハマボウが同じ場所で仲良く共生していたり、本土では標高2000m付近に自生する亜高山植物が、なぜか海岸で生息していたり。

「そもそも隠岐諸島は600万年前に形成されて以来、離島になったり陸続きになったりを繰り返してきました。北方系、南方系、大陸系の植物が混在しているのは、そうした成り立ちと関わりがあると考えられていますが、いまだに解明されていないことも多いんです」(野邉さん)

樹齢2000年の古木、八百杉。

島後には全国でも数少なくなったスギの天然林も見られる。この天然林を構成するのは、約2万年前、本土から寒さを逃れてやってきたスギの末裔たち。当時の日本は現在よりも平均気温が7度近く低かったから、海に近くて本土よりも温暖な隠岐諸島は、植物にとって格好の避寒地だったのだろう。天然林だけでなく、樹齢数百年〜千年を超す巨木もある。島のシンボルといえるのが、王若酢命(たまわかすみこと)神社の境内にある八百杉。樹齢約2000年、樹高38mという巨木はまるで仙人のような佇まいで、参拝者を圧倒する。中心の幹が15に分かれてそびえたつ岩倉の乳房杉、6本の幹に分かれるかぶら杉、数本のスギが合体した窓杉をあわせて「島後の四大杉」という。

「王若酢命神社は島前島後の総社で、ご祭神の王若酢命は隠岐を拓いたとされる神さまです。樹齢2000年の古木が、街中の神社の境内にあるというのも隠岐らしいですね」

壇鏡神社の鳥居。鳥居の外にそびえる杉の大木には、その昔、出雲大社から境内にある杉材の供出を迫られた村人が、その要望を断るために鳥居を杉の大木より本殿の方に動かしたという逸話が残る。

島後では神社巡りがおもしろい

もうひとつ、隠岐の特徴のひとつが神社の存在だ。離島という立地ゆえ、さまざまな外敵から身を守るための信仰が必要だったのか、4島に点在する神社はおよそ150社!その半数が島後に集中している。かつては300を超えていたという説もあり、「神々の島」と言われるゆえんだ。王若酢命神社から向かったのは、落差40〜50mの滝を祀る壇鏡神社。鳥居をくぐり、杉並木の参道を進むと瑞神門が見えてくる。創建年度は不明、主祭神の瀬織津比咩命姫(せおりつひめのみこと)も正体不明......謎めいた神社であることから、歴史好きや神社好きも注目する壇鏡神社は、雄滝と雌滝という2つの滝の間、火山灰と溶岩でできた巨大な岩壁のなかに設けられていた。小さな社殿の横の小道を上って雄滝の裏側に至る。流れ落ちる滝越しの、大迫力の眺望はこの神社ならではのもの。隠岐の固有種、オキサンショウウオが生息する渓流沿いの参道の散策もあわせて満喫したい。

屏風のような大岩壁から滝が流れ落ちる壇鏡の滝。

夜のお楽しみは、島自慢の海鮮料理。全国でも有数の漁場に恵まれている隠岐は、御食国としてアワビやイカ、ワカメを献上していただけあり、4島それぞれで絶品の食材を楽しめる。島後で宿泊した隠岐プラザホテルでは、旬の海鮮をお造りや宝楽焼き、会席スタイルで提供しており、この日は白バイ貝、サザエ、ヒオウギ貝、岩ガキが登場。岩ガキの養殖は西ノ島が発祥ということもあり、隠岐の名物グルメになっている。出荷までに最低3年を費やすというだけあり、たっぷりとした身には芳醇な海の恵みが詰まっている。ここはもちろん、生でいただこう。濃い磯の香り、とろりとした舌触り、濃厚でクリーミーな味わいは格別で、いくつも食べたくなるはず!

旬の海鮮も楽しみのひとつ。

隠岐を知ることは、日本の始まりを知ること、そして地球の歴史に触れること。見て、感じて、拝んで、食べて。隠岐ならではの体験を重ねるたびに、地球とリンクする感覚を味わえるはず。今年の夏、島に宿る宝物を探しに出かけよう。

壇鏡神社に至る参道は緑豊かなトレイルになっている。

隠岐諸島の観光情報

一般社団法人隠岐ジオパーク推進機構
https://www.e-oki.net/

玉若酢命神社
https://www.e-oki.net/spots/5984/

八百杉
https://www.e-oki.net/spots/5981/

壇鏡の滝
https://www.e-oki.net/spots/5983/

隠岐プラザホテル
島根県隠岐郡隠岐の島町港町11-1https://okiplaza.com/

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