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それはファッション? それともアート? 美を知り、纏うことの価値についての再考【連載・ヴォーグ ジャパンアーカイブ】

  • 2024.7.1

国宝が並ぶ美術展で、ずーっと「これ欲しい」「あれも欲しい」と言いながら楽しそうに見て回っている人たちがいた。わかる。見ることと所有することはとても近い、というかほぼ同じ行為だから、見れば当然欲しくなる。目を奪うという言葉があるように、見ずにはいられないものには強い力が宿っている。力は表現を伴う。美術も服飾も、太古から人とともにあった。

今回取り上げた2008年3月号のテーマは、アートファッション。アート作品を身に纏うようなデザインランウェイにあふれたシーズンをまとめて、「Vogue Museum開館! 今シーズンの『着られるアート』を完全キュレーションします」という楽しい特集にしている。著名な画家の作品をプリントした服もあれば、美術館にコレクションされる服もある。そもそもアートとファッションの関係とは? 特集ではファッション界とアート界の目利きたちが、最新シーズンのコレクションから実例を挙げてさまざまな見解を述べている。

アートやファッションには、いつも「わかってない・いけてない」への怖れがつきまとう。無知だと思われたらどうしよう、ダサいと思われたらどうしよう。そんな不安につけ込んで優位に立とうとする者たちもいるけれど、Vogue Museumではそんな野暮な輩には語らせていない。人が美しいものに触れて楽しむのって素敵だよね! それにはちょっと知識も必要だから、わかりやすくまとめてみたよ♡という、親切な内容である。

親切であることはアートやファッションではあまり重視されないかもしれないが、私はキュレーションにおいては大事だと思う。キュレーションは見る人の存在を前提にしている。「そこに人がいる。人がいるなら関わりが生じる。関わりが生じるならそれを豊かなものにしたい」という思いは、とても人間的だ。アートもファッションも、作品に魅了されると、それを生み出した人や届けてくれた人に対する敬意と感謝が湧いてくる。作品を見る・着るときに人が受け取るのは、それに関わった人々の情熱と親切なのだ。

先日、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2024を見てきた。京都市内の歴史的建造物や博物館で、国内外の写真家の作品展が同時開催された。中でも印象的だったのが、京都文化博物館別館の「ヤノマミ ダビ・コペナワとヤノマミ族のアーティスト」展。ブラジル北部の熱帯雨林で暮らす先住民族ヤノマミの人々を50年以上撮り続けているクラウディア・アンドゥハルの写真展だ。彼女は、ヤノマミのリーダーであるシャーマンのダビ・コペナワ氏と、親子のように深い信頼関係を築いている。会場にはクラウディアの撮影したヤノマミの人々の写真と並んで、ヤノマミのアーティストやシャーマンたちの手による日常生活や宇宙観を描いたドローイングも複数展示されていた。人々は滑らかな肌を草木や紋様で装飾している。

先住民族に敬意を払うことは、一方的に神聖視することではない。都市生活の対極にあるユートピアに見立て、穢れなき精神世界の象徴のように幻想化することは、むしろ敬意を欠く行為だ。それはヤノマミを含む多くの先住民族の人々が生きる現実から目を逸らすことになる。ヤノマミのコミュニティでは非先住民によって持ち込まれた麻疹で多数が亡くなり、政府が進める森林開発や違法な資源採掘で森と身体を汚染され、土地を奪われた。ヤノマミのリーダーのダビ・コペナワ氏は、先住民族の権利と環境保護を求めて文字通り命懸けの苛烈な闘いを続けてきた。その闘いは法律を変え、政策にも影響を与えている。

それを知ってほしいと、今回初めてダビ・コペナワ氏は来日した。私は京都で偶然彼と出会い、話を伺う機会に恵まれた。会場のドローイングには彼が描いたものも複数ある。神話を題材にした緻密で温かみのある画風だ。 先住民族は、撮影され語られるだけの存在ではない。複数の先住民族が連帯して声を上げ、命と権利を守る運動を行ってきた。伝統とデジタルコミュニケーションなどの先端技術の利用を両立させることは可能だと、ダビさんは若い世代に語りかけている。人類の存続のために自然破壊をやめ、森を蘇らせねばならない。それを世界に訴えようと彼は強調する。命あるところに表現は生まれる。写真展は作品に触れ、知るべき現実と出合う場だ。アートは、触れた人に不可逆的な変化をもたらす。

それはアートかファッションか。議論好きは多いが、みんな生まれた時は裸んぼう。全身を覆う鮮やかな羽毛も美しい毛皮も持たない私たちは、寒がりで無防備な裸体というキャンバスを手に入れた。刺青をし、土を塗り、羽で飾り、繊維や皮革で衣服を作る。何かを体につけた瞬間に、ヒトは美を所有できることを知ってしまった。オートクチュールもファストファッションも、包むのはいつか滅びる裸の身体だ。美を纏うことはなぜ喜びなのか。命は饒舌である。

Photos: Inez van Lamsweerde and Vinoodh Matadin (cover), Shiunsuke Kojima (magazine) Model: Angela Lindvall Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai

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