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「パパ活」に手を染める女性たちのリアル。現代社会の闇をオムニバス形式で描くコミック『私がわたしを売る理由』

  • 2024.6.30
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ダ・ヴィンチWeb
『私がわたしを売る理由』(夏子久/小学館)

人はなぜ平等ではないのか。生きているとそう考え、絶望する日がある。例えば生まれ落ちた家庭の経済状況に格差があり、それが苦しみに繋がるケースは少なくない。

『私がわたしを売る理由』(夏子久/小学館)はパパ活に翻弄される女性の姿を通して、今を生きる若い世代が感じている格差をリアルに描いたオムニバス形式の作品で、現在は第3部がサイコミで連載スタートしている。本稿では第1部の内容を中心に紹介。

第1部の主人公はパパ活にのめり込んでしまった女子大生。都内の有名大学に進学した松本椿は貧困家庭に生まれ、両親から金銭的援助を受けられずにアルバイト漬けの日々。自力で学費と生活費を稼ぎ、なんとかキャンパスライフを送っていた。

だが緊急事態宣言の発令によってアルバイト収入はゼロに。困り果ててネットで新たなアルバイトを検索していると目に飛び込んできたのは「パパ活」の文字。

お茶をするだけで5000円……。甘い謳い文句に惹かれ、椿は半信半疑でパパ活の世界へ足を踏み入れる。そこで出会った男性たちは人格を否定してきたり、体の関係を求めてきたりと、みなどこか危険。真面目な椿は初めは接し方に悩み、彼らからの言葉に傷つきもしたが、やがて上手いかわし方を身に着けて要領よく稼ぎ始める。

パパ活を始めて金銭的な余裕ができたことでキャンパスライフは大きく変化する。普通の大学生のように、おしゃれをして友人と遊びに行くことができ、勉強に打ち込めるようにもなった。

ところがある日、友人からパパ活疑惑を向けられてしまう。焦った椿は「気持ち悪い」と否定してその場を切り抜けるも心はモヤモヤ。下心がある男性に媚びを売り、お金を貰っている自分に嫌気がさした。

なぜ自分は親に守ってもらえないのか。親の援助を受けながらキャンパスライフを楽しむ同級生と自分を比較し、そう絶望する椿の姿は読み手の胸に重いものを残す。

精神的につらくなった椿はパパ活を辞め、アルバイト漬けの日々に戻ろうと決意する。これまで出会った男性たちとも縁を切り始めたが、そのうちのひとりがストーカー化し、彼女は想像を絶する恐怖を体験することに……。

本作はフィクションではあるが、描かれているのはこの社会のどこかで起きているリアルな問題だ。椿の生き方に触れると「自分を売る」という行為には様々な理由があることを痛感させられる。

パパ活という行為は批判が向けられやすい一方、支援の手は伸ばされにくい。だが、当事者の中には椿のように支援を必要としているケースも少なくない。どんな支援があれば若い世代が直面している格差を失くしていけるのか。椿の苦しみが読者にそう問いかけてくるようだ。

なお、椿と同級生・蒼真の恋愛模様も必見だ。椿がパパ活をしているなど知らない蒼真は、親に頼らず生活している椿を「かっこいい」と称賛し、次第に椿のことが気になり始める。椿もパパ活を隠していることに負い目を感じつつ、心優しい蒼真に惹かれていく……。

第2部では、32歳のOL・桜子が主人公。特別な才能もこれといった人生の目標も持っていないが、容姿の良さを利用してパパ活で稼いでいた。だが年齢的な限界を感じはじめ、そろそろ普通の生活と結婚を意識し始めた頃、勤務先の社長とのパパ活中に、彼から誕生日ディナーに誘われる。プロポーズを期待する彼女だったがーー。そして連載中の第3部は地雷系女子の物語が展開中だ。

果たして「パパ活」は彼女たちにどんな結末をもたらすのか。いずれのストーリーもハラハラしながら見守ってほしい。

文=古川諭香

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