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母の呪いに逆らい「父と似た人」を選んだのは、最高の夫と出会う宿命

  • 2024.6.30
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「お父さんみたいな人と結婚したらダメよ」
私が幼い頃からこの言葉が母の口癖だった。

私が中高生の頃は毎日両親の喧嘩が絶えず、自室のなかった私はその様子を見て早く離婚すればいいのに、と思う程だった。
そうは言いながらも、今に至るまで30年以上夫婦を続けている父と母が不思議だった。

◎ ◎

私から見た父は家族思いの優しい人だ。普段全く家事をしない父が、一度だけ夕食を作ってくれたことがある。
妹がインフルエンザで入院した日、母は妹に付き添い、父が7歳だった私の面倒を見た。その日学校から帰ると父は夕食にハンバーグを作ってくれていた。

「ハンバーグは何個食べる?今日は特別に2個でも3個でもいいよ」と父が言った。
しかし、その日に限って体調の悪かった私はひとこと「いらない」と返した。
すると父は突然泣き出した。
「学校で何か嫌なことでもあったんか?辛いことがあるなら話してみなさい」と。

父が泣いているのを見たのはそれが初めてで、心配してくれていることに対する驚きと、頑張って作ったハンバーグを断った申し訳なさで私は言葉に詰まった。
結局、体調不良であることを白状した私に父は「何でもっと早く言わなかったんだ」と言いながら妹の入院している病院へ直行した。
私もインフルエンザだった。

◎ ◎

「子どもじゃないんだから」「気が利かない」が母から父に対する決まり文句だ。
父はもうすぐ還暦を迎えるが、今でも変わらず少年のような人だ。夕食後にコンビニへお菓子を買いに行き、お菓子パーティーをしたり、子供相手にゲームでいつも本気で勝ちに行き、泣かせることもよくあった。

そしてそれらを母に怒られると、明らかに拗ねた態度をとる。
休みの日は家事をすることはなく、寝ているかお酒を呑んでいる。そもそもわが家は母の絶対王政で、父が何かを自分からすることはなく、母に指示されて動くことが日常だった為、母からの評価は低かった。
それでも母の意見は「いつも正しい」とどんなことでも従う父はやはり優しい人だと私は思う。

そして父を語る上で欠かせないのは「どこか抜けている」ということだ。
祖父のお葬式では喪主として最後に挨拶を読み上げた。父のことを良く知っている私は「事前に読む練習をしておいたら?」と提案してみたが、当の本人は「大丈夫!任せて!」と長男としての大仕事に自信満々の様子だった。しかし本番では私の危惧していた通り、途中で漢字を読み間違い、言葉を嚙み、会場は笑ってはいけないお葬式状態だった。
私の結婚式でバージンロードを歩いた際には、父は突然次にどちらの足を前に出すか分からなくなったらしく、1人でよく分からないステップを踏んだ。
会場の全員が笑いをこらえた表情でこちらを見ていたことは忘れられない。

◎ ◎

私は母の言う通り父とは似ていない人を探して恋愛をしてきたが、いつも何かが合わないと感じていた。周りの結婚ラッシュに焦り始めた頃、母のかけた呪いの言葉を気にせず恋愛に飛び込んだのが今の夫だ。
改めて考えてみても、夫の言動は私の父によく似ている。
件の結婚式のバージンロード事件も実は、先に入場した夫が花嫁の入場を待つことなく先に壇上へ上がり、式場の方に「まだですよ」と指摘され、会場があたたまっていたらしい。

母から言われ続けた「お父さんみたいな人と結婚したらダメよ」は守れなかったが、そんな母と父から生まれ育った子なので、似た人を選んでしまう宿命なのだと思っている。

「優しい」から、私の家族のことも大切にしてくれるはず。
「子どもっぽい」から何事も2人で全力で楽しめる。
「気が利かない」けど私も無理に気を使わなくて良い。
「どこか抜けている」から日常に笑いが増える。

最高の夫とともに父と母のように長続きする関係を築いていきたい。

■栗村はづきのプロフィール
本屋に住みたい会社員。春と秋の風が好き。

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