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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第30回 振動

  • 2024.6.29
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MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第30回は謎の怪人たちによる突起物に変化が!

ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」

 イラスト/Koto Nakajo
イラスト/Koto Nakajo

ピンキー☆キャッチ 第30回 振動

「ええ!?突起物に変化が!?」

「ああ、変化が起きた!」

「はい。一体どんな?」

「ああ、振動が認められたんだ!」

「振動!?ですか!」

「ああ振動が起こったんだ!」

「そんなに激しくですか!」

「ん。そこまで激しくではないかな。微振動かな」

「あ、そうなんですね。それでその後は?」

「ん。まあ、振動だな。振動が起きた」

「ええ。それでその後の変化は?」

「ん。微小な振動が起きて、計器が反応したんだ。それで警報も鳴ったものだから」

「あ、ええ。微小な、振動のみですか?」

「いや、俺も連絡を迷いはしたんだ。でも警報も鳴ったから」

「現状は?」

「ああ、今は収まってはいるよ。だけど警戒レベルは段階を1上げたんだ」

「地震は?」

「地震は起きてない。突起が独自で振動したんだ」

「被害・・そう、何か被害は?」

「被害は無いな。あくまで微小な振動だから、土がポロポロ落ちたくらいで」

「土、ですか。これは・・・どう思われますか?」

「ああ・・・・。いや、難しいよな。どうだろ、緊急で生放送に飛び入りするくらいのものかどうか・・・」

「うう・・・難しいですよね・・」

「これは・・・難しいな」

「僕はもっとこう・・ 中からダーン!といったような」

「分かる、分かるよ、そのイメージは」

「あ、もう収録始まりそうです。これどうしましょう・・」

「ああ。そうだな・・・まあ、もうちょい様子見ようか。生放送に飛び込んでおいて『少し振動しました』では弱いもんな」

「そうですよね・・。自分もそこからの場を保てる自信がありません」

「そうだよな。いや、若干先走った感があるな、申し訳なかった。また何か動きがあったら・・・」

都築は電話を切ると、メンバーの後を追いスタジオへと急いだ。

カラフルで華やかなセットを、過剰なくらいに眩しいライトが照らしている。はなやぐ観覧の若い女性たちの歓声が、空間に更に熱を帯びさせる。

こうして収録現場に来るたびに都築はいつも感じることがある。一つ一つの番組には様々な業種のプロが多数集まり、テレビという作品を作り上げている。その技が、熱が、このスタジオの異様な迫力を作り出すのだろうと。

「ただ座って笑っていればいい仕事」

タレントという存在が、そんなふうに揶揄されることも少なくない。が、とんでもない。並の人間ではこの場に座るだけでも萎縮し、まるで深海のような圧で潰され、動けないだろう。そうした超非日常な空間で躍動し、語り上げ、パフォーマンスで魅了する。それがどれだけの特殊能力なのか、この仕事に携わってからよく分かった。

だから、だからこそ、微小な振動くらいではこの収録を止めてもいい大義名分にはなり得ないのだ。せめて突起が50メートルを超えただとか、中から巨大怪物が現れただとか、それだけのインパクトがないと都築達も動けない。

「はいはい観覧のお客様よろしくどうぞです!この収録がいい方に転ぶか悪い方に行くかは僕の腕は関係ありませんからね、皆さんが明るく笑ってくれるかどうかですから。どうぞよろしくです!!」

スタジオに現れた中川が空気をワッと軽くする。それを見計らってフロアディレクターが開始のカウントダウンを始めた。

収録は素晴らしいテンポで進んだ。いい収録か否かはグルーヴ感の有無だ。演者・スタッフ、現場にいる者みんなが熱を帯びた時、スタジオ内の全てが良い方に転がり始め、その全てが機能する。

テレビカメラに映っていない箇所でもスタッフ達が体をよじって笑い、技術陣のカメラを持つ手は震え、前室のモニター前に陣取ったマネージャー達の拍手すらも漏れ聞こえてくる。ピンキーや都築のエピソードを元にした再現VTRも、内容そのものは大したものではないが、MCの中川が身体をくの字にして笑い転げ、的確な拾い方をしてくれ、珠玉の展開に作り上げてくれた。

他のアイドル達やマネージャー陣との絡みもスムーズにエスコートしてくれ、フロアからでる進行指示も見事だった。都築はこの間、微小に振動する突起のことなど頭から消えていた。

90分の前半部分を終えると、15分の休憩に入った。トイレに立つ者、軽食に手を伸ばす者、各々で時間を過ごしている。

都築が水で喉を湿らせていると、顔見知りのディレクターが寄ってきた。

「いやぁ都築さん、最高です。他のマネージャーさん達、最初固かったんですけど、あそこで絡んでもらえてから大分良くなりました」

「いやいや私など全然。中川さんが誘導して下さったから」

「それはそれですけど、ほんと助かりましたよ。後半もお願いします!」

都築はほんのりと頬が上気していくのが分かった。こうした大きな現場で、しかも今回は出役としてこの場を回せている。柄ではないのは知っているが、もしかすると自分にはタレント性があったのではと誤解してしまうほど楽しく、嬉しかった。

そんな興奮状態を、仕事用携帯の着信のバイブが覚めさせた。再び吉崎の名前が表示され、都築は慌てて前室から廊下へ飛び出した。

「もしもし都築です」

「都築、今度こそ緊急だ」

「どんな変化が!?」

「振動が体感できるほど大きくなったんだ。この周辺のみの局地的な運動で明らかにおかしい、今もまだ続いている。現場レベルで周辺住民の避難勧告はしているが、全国に向けた注意喚起と周知も呼びかけねば」

「承知しました、いよいよですね」

「生放送用の文言はこれからメールで送る。ジャパンワイドのスタッフに原稿に起こしてもらってくれ」

「はい。吉崎さん、リミテッド側の対応もありますので、出来れば・・」

「ああ、私と遠山で今向かっている最中だ。隣のスタジオにチーフプロデューサーの弘崎さんという男性がいる。それとなく連絡は入れてあるから、その人を訪ねてくれ」

「分かりました、では後ほど!」

携帯をしまうと、都築は前室でマフィンを食べていたメンバーを廊下から手招きした。

「緊急事態だ。この収録はここで一旦切り上げて、説明したように隣の生放送に向かう」

「分かりました。必要であれば私達も自分の言葉できちんと説明します。ね?」

「うん、その方がみんな納得してくれると思います」

「私ら大丈夫やから、ちゃんと頼ってな都築さん」

こんな局面ではあるが、都築は胸がいっぱいになった。まだ幼く見えていたこの子達が、先程までとは目の色を変え、立派な使命感を纏っていた。

「ああ、頼んだぞ!」

4人は力強く頷き合うと、休憩を終えた他の演者に逆流し、隣接するDスタジオへと駆け出した。

(つづく)

文/平子祐希

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