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砂漠の空気から1日1.3Lの飲料水が作れる新技術!被災地の活躍も期待!

  • 2024.6.29
空気から効率よく飲料水を作る技術
空気から効率よく飲料水を作る技術 / Credit:(左)Xiangyu Li(MIT)_Small, adsorbent ‘fins’ collect humidity rather than swim through water(2024 EurekAlert), (右)Canva

私たちにとって「水道蛇口のハンドルをひねれば水が出る」ことは当たり前ですが、世界的に見るとそうでもありません。

実際、世界人口の約3分の2が水不足に悩まされており、「2030年までに世界の年間水需要の約40%は満たされない」とも推定されています。

また、水道設備が整っている日本であっても、被災地では、水を十分に利用できない状態が続くものです。

こうした課題に取り組むため、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に所属するシャンユー・リー氏ら研究チームは、大気中から水を集める新しいシステムを開発しました。

従来のシステムの2~5倍の飲料水を生産できると考えられており、砂漠のような極度に乾燥した地域でも活躍するようです。

研究の詳細は、2024年6月26日付の科学誌『ACS Energy Letters』に掲載されました。

目次

  • 大気から水を集めて飲料水を得る方法
  • 銅板を挟み込んだ新しい水生成システム!従来の2~5倍の効率

大気から水を集めて飲料水を得る方法

砂漠で水を得るには?
砂漠で水を得るには? / Credit:Canva

水不足の地域で飲料水を得るための方法は、いくつか存在します。

例えば、汚れた泥水をろ過して飲めるようにしたり、海水を真水に変えたりする技術があります。

しかし、これらの技術は、汚れているにせよ、塩が含まれているにせよ、その場にある程度の水が存在していることが前提です。

では、砂漠地帯のように、極度に乾燥し、水たまりすら存在しない地域では、どのように飲料水を得ることができるのでしょうか。

その方法の1つとして、科学者たちは以前から「空気中から水を収集するシステム」に注目してきました。

これは、空気中から水分を吸収する「吸着剤」を使用して水を集め、それを太陽やその他の熱源で加熱して水を取り出す、という方法です。

吸着剤が空気から水を捉える。イメージ
吸着剤が空気から水を捉える。イメージ / Credit:Xiangyu Li(MIT)et al., ACS Energy Letters(2024)

この吸着剤にはいくつかの物質が使用されますが、例えば「ゼオライト」が使用されることもあります。

ゼオライトとは、微細な孔を持つ鉱物です。

水分子とゼオライトの細孔の大きさが近いことから、ゼオライトは水分子に対する吸着力が非常に高く、湿った空気から水分子を捉えることができるのです。

しかし、ゼオライトから水を取り出すためには、どうしても加熱しなければならず、従来の太陽光を用いた方法では、効率がよくありません。

そこで今回、リー氏ら研究チームは、太陽光ではなく、排熱を利用したいと考えました。

排熱は、工業プロセスや発電所などで発生する余剰エネルギーの一種であり、通常は無駄になることがほとんどです。

(上)太陽光を利用した加熱、(下)排熱などを利用した加熱。吸着と排水のサイクルが多く効率的。
(上)太陽光を利用した加熱、(下)排熱などを利用した加熱。吸着と排水のサイクルが多く効率的。 / Credit:Xiangyu Li(MIT)et al., ACS Energy Letters(2024)

工場などの建物や、輸送車両など排熱が発生する既存のインフラと水生成システムを統合することで、上図のとおり、吸着剤における吸着と脱水のサイクルを高速化できると考えられます。

ちなみに、排熱を利用することで環境負荷も軽減されるため、「持続可能な水供給システム」としての価値も高くなるでしょう。

銅板を挟み込んだ新しい水生成システム!従来の2~5倍の効率

研究チームは、排熱の利用だけでなく、さらなる効率化を求めて、新たなシステムを設計しました。

彼らの新システムでは、銅を利用した吸着フィンを採用しています。

新しい水収集システム。フィンの間に銅板が挟まっている
新しい水収集システム。フィンの間に銅板が挟まっている / Credit:Xiangyu Li(MIT)et al., ACS Energy Letters(2024)

フィンの表面には、従来通り、吸着剤としてゼオライトがコーティングされています。

そして薄いフィンを少しの間隔をあけて複数並べることで、湿った空気が接する面を広くし、効率的に水を吸着できるようにしました。

加えてフィンの内部には銅板を挟み込んでいます。

フィンの加熱には排熱を利用しますが、銅板は高い熱伝導率と耐腐食性の点でメリットがあり、フィンの内部に銅板を挟み込むことにより、水の「吸着」と「加熱による放出」のサイクル効率が高まります

そして研究チームが概念実証のために行った実験では、約2mm間隔で10枚のフィンを並べた装置が使用されました。

空気から飲料水を生成する新システム。従来よりも2~5倍の効率
空気から飲料水を生成する新システム。従来よりも2~5倍の効率 / Credit:Xiangyu Li(MIT)_Small, adsorbent ‘fins’ collect humidity rather than swim through water(2024 EurekAlert)

この装置では、1時間以内にフィンの水分は飽和し、加熱によって水を放出できました。

24回の収集と放出のサイクルを繰り返すことで、湿度30%の環境下で、1リットルの吸着剤当たり、1日1.3リットルの飲料水を生成できると分かりました。

これは従来のシステムの2~5倍もの効率を実現していることになります。

さらに排熱を利用するため、エネルギー効率も非常に高いと言えます。

この新しいシステムが発展するなら、水不足が深刻な地域でも、飲料水を供給できるようになるでしょう。

特に、砂漠のような乾燥地帯では活躍するかもしれず、大きな期待が集まっています。

参考文献

Small, adsorbent ‘fins’ collect humidity rather than swim through water
https://www.eurekalert.org/news-releases/1048856?

Harvesting Drinking Water From Air With Innovative Absorbent Fins
https://scitechdaily.com/harvesting-drinking-water-from-air-with-innovative-absorbent-fins/

元論文

Design of a Compact Multicyclic High-Performance Atmospheric Water Harvester for Arid Environments
https://doi.org/10.1021/acsenergylett.4c01061

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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