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自分の中の「やさしさ成分」を取り戻す。理想のコミュニケーションのかたちが描かれる漫画『やさしいおおかみウルフくん』

  • 2024.6.29
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ダ・ヴィンチWeb
『やさしいおおかみウルフくん』(本間あきら/KADOKAWA)

やさしい人になりたい。全世界に対しては無理でも、せめて身近な人に対しては。だけどそれがいちばん、難しい。些細なことでイライラしたり、せっかく○○してあげたのにと気持ちを押しつけてしまったり、遠い距離の人には絶対しないことを、大事な人にしてしまう。そんなとき読むのにおすすめなのが『やさしいおおかみウルフくん』(本間あきら/KADOKAWA)。白おおかみのウルフくんと大きな茶犬のドッグくんが、同じ家でほのぼの暮らしていくさまに心が安らぎ、くすりと笑い、自分のなかのやさしさ成分を取り戻せるような気がする。

おおかみは集団で生活するのが常だけど、ウルフくんは群れを離れてひとりで暮らすことを決意する。せっかくなら理想を全部叶えた家に住みたいけれど、そんなお金はどこにもない。ならばと一生懸命建てた最高のマイホーム。そこを空き家だと勘違いして入り込んできたのが、さすらいのドッグくんである。

勝手に住みつこうとしたドッグくんを追い出さずにルームシェアを提案するウルフくんは、その時点でとても優しいのだけど、本書を読んでいて染みわたる優しさは具体的な行動というより「決して相手を否定しない」姿勢にある。うまくいくことも、いかないことも、ツッコミを入れながらおもしろがる。もちろん時には喧嘩もするけれど(目玉焼きにはしょうゆかソースか、はたまたケチャップか、譲れない戦いもそこにはある)、自分にはできないことを相手がしていたら褒めるし、自分だけでどうにもならないことは素直に助けを求め、ためらいなく手を差し伸べる。コミュニケーションの理想のかたちが描かれているのである。

なんて、もっともらしいことを書いたが、いちばんの魅力はとにかくかわいいことである。「へっ(圧)」が口ぐせの白うさぎのうっさー、気まぐれに現れるココアとミルクのようせい、出会えたら超ラッキーな伝説のゴールデンウルフ。脇をかためるキャラも見ているだけで和んでしまう。とくにウルフくんの甥っ子姪っ子たちの、小さくていつも元気にそこらをぱたぱた動きまわる姿にきゅんとする。おおかみは一族で子どもを育てるから、自分の子と同じようにかわいいんだと言うウルフくんが、ドッグくんにも家族のように接し、ちびっこたちもてらいなく甘えることで、どうやら捨て犬だったらしいドッグくんの、ひとりで生まれて育ってきたさみしさが癒やされていく姿が、さりげなく描かれているのもいい。

『ウォーリーをさがせ!』のように、無数のおおかみが散らばる見開き絵からウルフくんを探し出すコーナーもよかった。目当てのウルフくん以外にも、描きこまれた絵がいちいちこだわりに満ちている。正直、このコーナーは2つ3つあってもよかった。

読み終わったあとすぐにウルフくんのLINEスタンプを買った。お気に入りは、ウルフくんとドッグくんが両手をつないで「幸です!」と言っているもの。なんとなくさみしいときや、つらいことがあったとき、この「幸です!」を合言葉にやさしさを取り戻していきたいと思う。

文=立花もも

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