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カメラワークから読み解く、映画『バッドボーイズ』シリーズの魅力とは? 最新作『RIDE OR DIE』考察&評価レビュー

  • 2024.6.29
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© 2024 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

ウィル・スミス主演のアクションコメディ映画『バッドボーイズ』。その最新作『バッドボーイズ RIDE OR DIE』が6月21日に公開された。そこで今回は、誕生から30年を経てなお輝き続ける本作の魅力を、“カメラワーク”というテーマから紹介。本作がバトルコップものの金字塔となった理由を解説する。(文・中川真知子)
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【著者プロフィール:中川真知子】
映画xテクノロジーライター。アメリカにて映画学を学んだのち、ハリウッドのキッズ向けパペットアニメーション制作スタジオにてインターンシップを経験。帰国後は字幕制作会社で字幕編集や、アニメーションスタジオで3D制作進行に従事し、オーストラリアのVFXスタジオ「Animal Logic」にてプロダクションアシスタントとして働く。2007年よりライターとして活動開始。「日経クロステック」にて連載「映画×TECH〜映画とテックの交差点〜」、「Japan In-depth」にて連載「中川真知子のシネマ進行」を持つ。「ギズモードジャパン」「リアルサウンド」などに映画関連記事を寄稿。

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その映画の予告を初めて目にしたときの衝撃は忘れられない。街中で繰り広げられているとは思えない派手なカーチェイスと爆発、青い空を背負って立つ2人のアフリカン・アメリカン系の若者、画面に向かって一直線に走ってくる様子を捉えたショット。全てが新鮮で、「とんでもなく格好いい作品がやってくる」と興奮が抑えきれなかった。

主演俳優も監督もほぼ無名。唯一わかったのは、プロデューサーが『トップガン』(1986)や『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)を手がけた人だということ。絶対に見ようと誓った映画のタイトルは『バッドボーイズ』といった。

同作は公開されるや否や大ヒット。日本では無名に近かったウィル・スミスは一気にスターダムを駆け上がり、本作で長編映画監督デビューを果たしたマイケル・ベイはヒットメーカーとして名を馳せた。

それから約30年。本シリーズの4作目に当たる『バッドボーイズ RIDE OR DIE』が公開されている。新作公開まで期間があいてもなお多くの観客が劇場に足を運ぶのは、彼らが2人の息のあったやりとりや派手なアクションに加えて、非常識なほどに自由で恥ずかしくなるほど挑戦的なシリーズならではのカメラワークを心待ちにしているからではないだろうか。

この記事では、そんな『バッドボーイズ』シリーズのユニークなカメラワークについて語る。

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今でこそハリウッドを代表する俳優のひとりとなったウィル・スミスだが、『バッドボーイズ』が公開された90年代半ばの日本ではほぼ無名で、相棒のマーティン・ローレンスの方がコメディアンとして知名度があった。だが、そんな2人も、作中では丁々発止のやり取りで観客の目を釘付けにしてきた。

監督のマイケル・ベイは、そんな2人の生命力に満ち溢れた情熱的な演技に惚れ込んでいたのだろう。物語の展開は、よくあるバディコップものを踏襲していたし、カメラワークも決して斬新ではなかったが、最上級に格好いいショットで2人の良さを引き出そうと考えていたに違いない。そして、この情熱が、旧来のバディコップものに新たな命を吹き込んだのだ。

中でも印象的なのが、2人を中央に捉えてカメラを旋回させる“サークルショット”だ。鋭角で煽りながら旋回させることでマイアミの青空と2人の表情を同時に捉えるこのショットは、事件解決の困難さと、思わず天を仰ぎたくなるような悔恨の情を表している。

サークルショットほどではないが、はだけたシャツでカメラに向かって走るウィルと、ド派手な爆発をバックに手前に走ってくる高級車のカメラワークも印象的だった。特に、ウィルがクローズアップになっていくショットは非常にヒロイックで美しく、キャリアの成功を予感させるのに十分だった。

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第1作の興行的成功を受け、『バッドボーイズ2バッド』(2003年)では予算が約7倍に。ド派手なカーアクションを捉えるため、耐衝撃撮影用カメラを搭載した特殊な車両(通称ベイバスター)が用意された。

撮影では、飛来する車両をカメラに収めるために、スタントマンがベイバスターを運転していた。

シリーズ中最もアクティブにカメラが移動する同作では、壁越しに銃を構え合うウィルと麻薬密売人の周りをカメラが何周も回ることで、緊迫した状況を臨場感たっぷりに伝えている。

正直、スマートな絵とは言い難いが、当時のマイケルの興奮が伝わってくるような熱気あふれるシーンになっている。

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同作の公開から15年以上が経過した2020年、監督がマイケル・ベイから、アディル・エル・アルビとビラル・ファラーの2人に交代して『バッドボーイズ フォー・ライフ』(2020年)が公開された。

アディルとビラルは、『バッドボーイズ』を見て育ち、いつの日か続編を撮りたいと熱望していたそうだ。そのため、シリーズにおけるカメラワークの重要性とそのユニークさを熟知
していたのだろう。サークルショットを筆頭に、『バッドボーイズ』=“挑戦的な絵”というドグマはしっかりと受け継いでいる。

なんと、クライマックスの戦闘シーンでは唐突にカメラを90度傾けるという荒技を見せているのだ。これが効果的だったかどうかは別として、角度を変えたあとに吹き抜けの建物を縦移動する映像は、観客に強い印象を残したに違いない。

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現在公開中の『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の最大の見せ場は、ウィルとマーティンの身体に“スノーリーカム”と呼ばれる大型のリグ(カメラの補助機材)を装着し、アクションと演技を自撮りさせたシーンだろう。作品公開前にアップされた舞台裏映像が話題を呼んだのも記憶に新しい。

ただ、ウィルの手の動きから、スマホのインカメラとアウトカメラを行き来するような、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)を彷彿とさせる映像になることは予想できたために、観客は、鑑賞しながら撮影シーンの答え合わせができたはずだ。実際のショットに絵的な目新しさはなかったものの、能動的な鑑賞という意味では斬新なシネマ・エクスペリエンスだったと言えるのではないだろうか。

2人の『バッドボーイズ』ももはや定年を迎える年齢となったため、コンビでの次回作は期待できないかもしれない。少し寂しい気もするが、もしかするとマイケル仕込みの設定やカメラワークのスピリットを受け継いだ斬新で挑戦的な続編が制作される可能性はある。願わくば、主役も脇役も一緒くたにクレジットされるオリジナルの『バッドボーイズ』のエンドロールのように、新人の俳優や監督の飛躍のきっかけとなるような作品にならんことを。

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