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東北の若いマタギが禁じられた熊狩りに挑む。山を歩く時間が大半を占める挑戦映画『プロミスト・ランド』【杉田雷麟×寛一郎インタビュー】

  • 2024.6.28
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飯嶋和一の1983年の小説が原作の『プロミスト・ランド』は、東北のマタギ文化が残る山間部で、ふたりの若者が禁じられた熊狩りに挑む映画だ。閉鎖的な町の暮らしに辟易する信行(杉田雷麟)は、熊狩りを認めない役所の決定と年長者たちの諦めに憤る礼二郎(寛一郎)に導かれ、彼と共に山に入る。セリフや説明が削ぎ落され、大半をふたりが山を歩く時間が占めるこの作品は、荘厳な自然の中で熊を追う若いふたりの人間ドラマを通して、マタギ文化や生命のあり方を生々しく伝える。映画という表現の力を信じた挑戦的なこの作品に、杉田雷麟、寛一郎のふたりはどう向き合ったのか、話を聞いた。

少ないセリフで、ただただふたりで雪山を歩いた

――飯島将史監督のインタビューによると、脚本は当初のものからかなり変わったそうですね。

寛一郎:そうですね。最初はもっと、山以外のシーンが多かったです。

杉田:いろいろなシーンが削られていって。僕が礼二郎の奥さんと話しているシーンとかもありました。

寛一郎:あったね。決定稿の脚本と完成した映画も違うんですよ。監督が「これも撮っておきたい」と言って撮っておいたシーンもありましたし、編集で順番を入れ替えたところもあります。

――完成した映画では、セリフはかなり少なかったですね。

寛一郎:そうですね。ただただ、山を歩いてましたからね。

――セリフが少ない脚本から、物語や役の心情をどのように理解していきましたか?

杉田:ト書きで信行や礼二郎の気持ちや天気、山の様子が細かく記されていたので、想像することができましたね。ただ、山での撮影は、現場に行くとその通りにはいかなくて。やっぱり雪山は、体験しないとわからないことが多かったですね。

流されて生きる中、何かが変わるという予感で熊狩りへ

――信行と礼二郎というキャラクターがとても魅力的でしたが、役者として、彼らの面白さや演じがいをどこに感じましたか?

杉田:ノブ(信行)が、成長していく過程ですね。礼二郎やほかのキャラクターと関わる事で、最後のシーンまでどんどん成長していくので、台本を読んだ時は、その変わっていくさまが やりがいだなと思いました。

――セリフが少ない中で、その変化をどう表現していこうと思いましたか?

杉田:「ここで変わったぞ」というふうに見せるようなことはしていなくて。シーンごとの心情や出来事への反応、周りからの影響の連続で、表情やセリフの言い方がどんどん変わっていったと思います。

――信行は、礼二郎に熊狩りに行こうと言われて最初は断ったのに、結果、ついて行きますよね。そんな彼の行動原理は何だろうと感じたのですが、なぜ、山に行くことにしたんだと思いますか?

杉田:まあ……流されやすいんですよね(笑)。ノブは、今の生活がイヤだけど何も行動を起こさずに、なあなあに、結局(家業の)鶏の世話をやっていて。ただ、ノブの中でも、変わるきっかけがあるならっていう思いは、考えているのもわからないレベルであったと思うんですよ。だから、ついて行けば何かが変わるんじゃないか、何も変わらないかもしれないけど……っていう気持ちがあったんじゃないかな。

山に入って最初の頃も、ついてきてるくせに、礼二郎に「自分勝手だ」とか「周りのことを考えない」とか言いつつ、ノブ自身、変わるための何かを探していて。結局、熊狩りの中で、自分でそれに気付いていくんですよね。

何にも代えられないひとつに突き進む人間は魅力的

――礼二郎は、意志が強いけど繊細さも垣間見えてすごく面白い人物だと感じましたが、寛一郎さんから見た礼二郎の魅力はどこでしたか?

寛一郎:何にも置き換えられない、ひとつのことに突き進めるって、すごくカッコいい人だと思うんですよ。去っていった妻を含めて、それで実害を受けてる人たちにとっては最悪だと思うけど(笑)。でも礼二郎は、罪を犯してでも熊狩りに行く。何が彼をそうさせるんだというぐらいの熱意は、やっぱり人を動かすと思うんです。だから信行も「何かしら見つかるかもしれない」と思って、礼二郎について行ったし。ここまでカッコよく、愚かな人間はやっぱり魅力的だなと思いますね。

――ご自身が共感できる部分や、近いなと思う部分はありますか?

寛一郎:さっき話に出た行動原理で言うと、礼二郎が熊狩りにそこまで懸ける理由は僕にはわからなくて。明確な理由というより、彼が彼に生まれたから、でしかないんですよね。生まれた時からマタギ文化があり、それが善とされてきた世界で、彼にとって熊狩りを継ぐことは至極、当然なことで。自由があるより、そういう狭い環境のほうが熱中できることもあるし、彼にはそれしかなかったと思うんですよね。

――監督は、礼二郎に短髪をイメージしていたそうですが、長髪にした理由は?

寛一郎:礼二郎は30代の設定なんですよ。でも僕がオファーをいただいたのが23、4歳の時で。この年齢的重さを質量の面でどうリカバリーできるかなと思った時に、短髪だと幼く見えてしまうと思ったんです。僕が短髪にしちゃうと、短髪小僧ふたりみたいになっちゃうので。

杉田:(笑)。

寛一郎:信行とのコントラストという意味でも長髪がいいんじゃないかと思って、監督に提案しましたね。

毎日、山の中で共に過ごして生まれた親密な関係

――ふたりで山を歩いているシーンが多いですが、撮影が始まった時と終わる頃でふたりの関係に変化はありましたか?

杉田:寛一郎さんは、僕にとってはもうお兄ちゃんみたいな存在ですね。

――信行と礼二郎の関係と同じように。

杉田:役よりも、仲いいです……よね?

寛一郎:ほんとに? 口だけじゃないの?

杉田:(笑)いやいやいや。仲いいですよ!

――(笑)。撮影中も、寛一郎さんに引っ張ってもらう感じだったんですか?

寛一郎:いやいや、そんなことはないですよ。

杉田:寛一郎さんは現場でもこのままで、いつも僕らを笑わせたりして和ませてくれましたね。

寛一郎:撮影は2週間ぐらいだったんですけど、毎日、映画で観ていただく以上に山を歩いていて。朝、5~6時に出発して、毎日、山でふたりで同じ空気を吸って、同じ景色を眺めて、一緒に冷たいおにぎり食べてたら、東京で撮影するよりもずっと、親密な関係になる気がします。ふたりで山を見ながら他愛もない会話をして……現代の言葉で言うならば、エモいですよね。撮影の時間がたくさんあったわけではないけど、その間だけは時間がゆっくり流れて、すごくいい時間でした。

映画という文化を未来につなぐ架け橋になる作品

――完成した映画を観て、改めて感じたことはありましたか?

寛一郎:この物語は、ノブの繰り返される日常の話でもあるんですよ。礼二郎と熊狩りに行ったことで、客観的に見たらあまり変わってないかもしれないけど、何かが変わっていて。映画の中に「みんな人間、やりたいことをやるようにできてる」という礼二郎のセリフがあるんですけど、今、そのやりたいことを見つけるのがすごく難しくて、みんなが探しているんですよね。信行もそうで、自分が何者なのか、何をしたいのかもわからない。信行の熊狩りの後のことは描かれていないので、彼が何かを見つけたのかはわからないけど、その「何か」が、すごく大事であって。それを感じられる映画だと思いますね。

――この映画を、どんな人に観てもらいたいですか?

杉田:たくさんの人に、映画館で見てほしいです。今、悩んでいる人は、ノブと礼二郎という対照的なキャラクターに何かを感じることもあるでしょうし、映画が何かのきっかけにならなくてもいいと思います。映画館で、大自然を感じてもらえたら嬉しいです。

――映画館で観ることで、マタギという文化を全身で体感できそうですね。

杉田:そうですね。

寛一郎:マタギって、いろいろな分野で使われる言葉なんですよ。建築では、外と和室をつなぐ土間のことや庭の石橋をマタギというし、芸術では、文化を継承することをマタギという。マタギって、何かの架け橋なんですよね。そういった意味でも、この作品が、たくさんの人に見てもらうことで、映画という文化を未来につなぐ架け橋になってほしいという願いがありますね。

取材・文=川辺美希 撮影=水津惣一郎 ヘアメイク(杉田雷麟さん)=後田睦子 ヘアメイク(寛一郎さん)=AMANO スタイリング(杉田雷麟さん)=青木沙織里 スタイリング(寛一郎さん)=坂上真一(白山事務所) 衣装協力(寛一郎さん)=ジャケット¥368,500(ジル サンダー バイ ルーシー アンド ルーク・メイヤー/問い合わせ:ジルサンダージャパン 0120-919-256)

映画『プロミスト・ランド』

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